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12.音海雫の驚きと、ヤスの心配。

「音海んち、でけーな!」


 来栖君と帰るようになって数日。

 最初は私の家の近くのコンビニで一緒に買い物したらバイバイだったけど、今日は帰りが遅くてだいぶ暗くなってしまったので、初めて家の前まで送ってくれた。


「そ、そうかな?」

 父親が元芸能人なんで、一丁前に家は大きい。


「お前んち、お金持ちなの?」

「別に、全然だよ」


 あんまりこの話題には触れてほしくないなぁ……

 早く帰ってもらお!って思った時だった。


「あら、雫! なに、こんなイケメン連れてどうしたの?」

 お母さんが買い物袋を抱えながら駆け寄ってくる。


「な、何でもないって! お母さんには関係ない」

 あぁ、また面倒なところ見られちゃったなぁ……。


「関係ないわけないでしょ? 雫が初めて男の子を家に連れてきたのに、そのまま返すなんてお母さんにはできない!」

「いいの! 別に!!」


 私はお母さんを門の中に押し込んだ。


「初めてまして、来栖彗と申します。雫さんにはいつもお世話になってます。今日は近くで彼女にばったりお会いしたので、暗くなりましたし女の子一人では不安かと、家まで送り届けにきただけですので」

 背筋をピンと伸ばして、超紳士スマイル。

 彼の周りだけ爽やかな秋風が色づいた葉と共に軽やかに吹き上がったように見えたのは多分気のせいね。


「まぁ〜! ねぇ、お時間あるなら是非寄ってって! 来栖君さえ良ければお夕飯一緒にどう? 今日は特別いいお肉出しちゃおうかしら」

 ピンクのハートを背に年甲斐もなく女子になるお母さん。


「ちょっとやめてよ! 寄るわけないでしょ?」

 再び私はお母さんを玄関の方に押しやった。


「音海さんさえ良ければ、お言葉に甘えようかな」

 来栖君はにっこり白い歯を光らせた。


「えぇぇっ??」

 一体何言ってんの??

 来栖君が私の家でご飯??


「まぁ! 嬉しい! ささ、入って入って〜」


 一番興奮しているのは間違いなくお母さん。

 でもそれに乗っかってる来栖君の本意は……分からないっ!


「楽しみだなぁ」

 そんな事を言いながら私よりも先に玄関の中に入っていく彼の後ろ姿を見ながら、現実とは思えずに私はあんぐりと口を開けその様を見送った。


◆◇


 今日見た事はお嬢様に報告すべきだろうか??

 後で漏れがバレたら面倒だしな。

 とりあえず来栖様が音海様の家に上がり込んでいったのが今日だという事は伏せておこう。

 暴走して音海様宅に乗り込んでいくことも想定せねば。


「朋花お嬢様、来栖彗様と音海雫様について情報を集めてまいりました」


 こんな探偵みたいな事、本当はやりたくない。

 ……が、口答えすれば二倍三倍になって返ってくるし、更に面倒な事を申しつけられても困るので、素直に聞くのが正解だと思っている。


「それで、二人の関係はどうだったの?」

 待ってましたとお嬢様が駆け寄ってきた。


「あのお二人がお付き合いしているかどうかは判断しかねるところです。ただ、一緒に下校したり、一度音海様の家に来栖様が上がりこむ姿もありました……」

「何ですって!? どうしてそんな……! 本当に付き合ってないんでしょうね?!」

 鬼の形相。

 可愛いお顔が勿体ない……


「一般的に高校生同士のカップルがするような事は一度も見かけておりません。手を繋いだり、お互いの気持ちを伝えてあって……その、いわゆる世間一般でラブラブと言われるような雰囲気はございませんでした」

 いい歳した大人が何言わされてるんだ……。

 勘弁して欲しいが、あからさまにキスだのハグだのなんてワード出したら、それだけで発狂するに決まってる。


「ふうん……。それで、音海さんの家に行ったって言うのはどう言う事?」

「お二人の会話はうっすらとしか聞こえなかったので確実ではないのですが、彼女の母親が家の前で来栖様を見かけて声をかけたようにお見受けしました」

 音海様のお母様も穏やかそうな方で、来栖様も嬉しそうに家の中に入っていったっていうのは……自分の記憶からは抹消しておこう。


「じゃ、無理やり家に引き摺り込まれたのね」

「……そう……でしょうね」

 あぁ、桑原桑原……。


「お嬢様、あと調べているうちにわかった事がいくつかございまして……音海様のお父様は、もと有名ミュージシャンの音海敬三だという事がわかりました。来栖様は九州にいた頃もだいぶおモテになっていたようで……、それで爆発的に女性ウケしたきっかけになったのがどうやらカラオケらしいんです。相当な歌唱力の持ち主のようで。あまりにも人気が出てしまって、日常生活に支障が出てくるほどの女性からの付きまといがあったらしく、めっきりカラオケの誘いは断るようになってしまったとのことでしたが、お話してくださった九州の頃の同級生の方も、是非彼の歌を一度聴いてみてほしいと私にも電話越しで熱弁を奮っているくらいでした」


 実はもう一点気づいてしまった事がある。

 尾行しながら電車の中でスマホを覗き込んだ時、二人とも『happy song』というアプリを頻繁に開いていたという事だ。

 こんな共通点、朋花お嬢様に話してしまったら、また調べろ何だの言われるから、とりあえず、今はまだ僕の心の中に留めておこうと思っているが。



「カラオケ……? 来栖君、歌がお上手なのね。一度聴いてみたいわ。私も歌には自信があるし! 幼稚舎の頃から教会に通って歌の技術は磨いているもの! 一度一緒にカラオケなんか行ったら、直ぐに私の虜になるに決まってる。すぐにセッティングしなきゃだわ!」

 朋花お嬢様の目が久々にキラキラと輝いている。

 こんないい顔なさるのに、裏腹な行動はやめて欲しいと心から願う。


「セッティングしなきゃ! 即行動よ!!」


 2階に駆け上がっていくお嬢様の後ろ姿を見ながら、どうか何事も起こりませぬようにと、心から祈るばかりであった。



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