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⒈音海雫と『はぴそん』

お久しぶりです!

とにかく最後まで頑張ります(´∀`*)


目標は毎日投稿ですが、ぼちぼちマイペースでやるんで読んでくださる方はぜひお付き合いください(人´∀`)

「あいす〜ることぉぉぉ〜!!」

 

 大音量の歌声が地下室に鳴り響く。


 (あぁ! 歌うってきもちいぃ!!)


 私、音海雫(おとみしずく)、16歳の高校一年生。

 絶賛はぴそんに、どハマり中!


 はぴそんとは……happy song、カラオケアプリの愛称だ。

 中一の頃からがっつり楽しませてもらってる完全無料、自宅でカラオケ楽しめる優良アプリ!


 幸いにも全力で歌う環境には恵まれてる。

 自宅の地下室は防音完備されてるのだ。


 私の父はTVでも知らない人はいないくらい元有名なバンドのドラマーだった。

 父がちやほやされてる時代は嫌でも有名人の娘だと、皆んな目の色変えて娘の私にも寄ってきたものだ。

 ところが数年前に父の持病が悪化してバンドも抜け、すっかり落ち目になってしまったのをネタに、父にはもちろん、私にまで手のひら返しで心ない言葉を浴びせてくる輩が未だ多数いる。


 簡単にいえば人間不信。


 目立つ事なく、静かに、仲良しの友達なんて一人でいい。

 ただ、平和な毎日を送りたいだけなのだ。


 とはいえやっぱりストレスってのは溜まるもの!

 唯一の特技は歌を歌う事!!

 って中学校に上がる前までは胸張って言えたんだけどなぁ……


 もともと歌うのは大好きで、小学校の頃はよく先生にも褒められたくらい、自信のある特技として胸張れたのだが……

 父の一件があってからと言うもの、周りからミュージシャンの娘は特別!みたいな目で見られるのが怖くて、人前では緊張で歌えなくなってしまった。


 でも私は見つけてしまった!

 カラオケアプリ、happy song!

 家で歌って投稿して、それを聴いて『いいね』をつけてくれる人がいて……


 もちろんコメントでのやり取りも出来るのだが、面倒な交流はネット上だってごめんだし、私はいつも閉じていた。

 それでも聴きに来てくれる人がいたからだ。

 だんだん、私の歌を聴いてくれるフォロワーが増えて、投稿するのが楽しくなって……


 そんな中、毎日投稿しているにも関わらず一曲も漏れなく『いいね』をつけてくれる人がいた。


 (助さん……ってどんな人なんだろ)


 ニックネームだけ見たらおじさんなのかな……?

 どうしても気になった。

 普段歌いっぱなしの自己満足で人の歌なんて聴こうとも思わなかったのに、ふとその助さんのアイコンをタップしたのが始まりだった。



 助さんが私の倍くらいフォロワーがいる人気者だってのはプロフをみてすぐに分かった。

 アイコンは……黒縁メガネだけが写ってる。

 実に謎が多い。


 聴いただけじゃ、足跡はつかないので、思い切って彼の最新up曲をタップしてみた。

 (最近カラオケで一番歌われてる曲だな……)

 曲名を見ながら前奏が終わるのを待つ。


「………!?」


 歌声が始まった途端息が止まる想いだった。

 優しく包み込むような甘い歌声が私の耳を微かな振動とともに心地よく擽りながら侵入してくる。

 拒むことなんてできない、もっと、もっと聴かせて……!そう自分の心が叫んでる。


「……うまい!! うますぎでしょ、この人!!」


 思わず言葉が口に出てしまった。

 あっという間に一曲終わり、すぐさまリピする。


「うわぁ……ホントにイイ……!!」


 何遍だって聴けるよ、この声!!!

 ふとコメント欄に目をやる。


 (今日も助さん最高です!)

 (もう助さんの声に夢中!)


 そんな絶賛のコメントが50件以上ずらりと並んでいる。

 そしてどんなコメントにも、

『聴いてくれてありがとう』

 ときちんと返していた。


 (ちゃんとした人なんだな……)


 好感しかなかった。

 (なんでこんな上手い人が誰とも交流してない私の歌を毎日聴いてくれてるんだろう?)


 気になって仕方がない。

 でもこの人にコメントする勇気なんてあるわけないのだ。


 (でも……!)

 何かしなくちゃいられなかった。

 どうにかして、私が聴きに来た証を残したかった。


 震える手で『いいね』ボタンを………押してやったよっ!!



 心臓が壊れそうですけど??

 たった一個のボタン押しただけなのに。

 手の震えがおさまらない。


 (私……あなたの声に夢中になってる……?)


 これが中学3の頃の出来事だ。

 それ以来、毎日『助さん』の歌を聴きに行ったのは言うまでもない。


 ◆◇


「結局いまだに『いいね』だけの関係なわけね」

 そうため息混じりに呆れた目で私を見ているのは私の貴重な親友、坂野ゆり。

 私とは真逆で男勝りな性格の彼女は、私の『はぴそん』の話を聞かされる度に、まどろっこしさを視線に織り交ぜながら私の背中をバシンと叩いてくる。


「……痛った! もう!」


 まだ暑さが残る二学期初日の朝。

 よろけつつ、衣替えしたブラウスの袖を軽くまくる。


「もうさ、雫もコメ欄開いてみれば? 別に返信しなくてもいいじゃん! 書き込まれるかもわかんないし」

 わざと大きな声で私を追い込んでくる。


「……そんなわけにいかないよ!」

 私は来たコメント無視できるほど図太くない。


「それで楽しいの? ただお互いの歌聴いてるだけで満足なの??」


 満足……じゃない。

 多分。


「……怖いんだよ、どんなコメントくるかわなんないし。それで気まずくなって私のストレス解消の場所までなくなっちゃうの嫌だし」


「まぁ、雫にとっては憩いの場だしね。無理にとは言わないけどさ。少しは何かを変えてみたらって話! そんなことより、今日転校生来るって噂じゃん? 新しいリアルな恋が始まるかもしれないよ??」

 ゆりはニヤッと私に向かって笑う。


「興味ないよ。恋愛とか、特にリアルでなんて想像もつかないし」

 もう片方の袖を捲ろうと袖口に手をかけた。


「もう……あたしもね、あんたと付き合い長いんだから、いい加減心配してる気持ち分かってくれる?」

 そう言って私の手を取り、ゆりが代わりに捲ってくれる。


「……ありがとう……」


 分かってるんだ。

 毎日毎日、私の話って言ったらはぴそんのひとりよがりな話ばっかりなのに、いつも付き合ってくれて……


 そろそろ、変わらなきゃかな……

 コメ欄、今日は開いてみようかな……





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