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先生と私  作者: 小此木
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先生と黒右衛門

 気づいたら不老不死になっていたし、気づいたら戸籍もあった。


 歴代の妻たちには、あなたはちょっとぼんやりしすぎよ、と耳にたこができるほど言われてきた。

 幽霊になった今でも、数人は私の家にいる。彼女たちと過ごした家ではないけれど、一緒についてきてくれている。

 そうでない彼女たちが、輪廻転生をしたのか、神の国に行ったのかはわからないけど、幸せでいてくれるといいなと、いつも願っているのだ。


 ぼんやり、ぼんやり、と言われるけれど、そんな私でも、ぼんやりしていないと自負している分野がある。


 数学と、猫だ。


 数学は、気づいたら入学していた大学で学んでみたら、はまった。

 面白かったし、美しかった。今後も続くだろう、不老不死の人生で、良い暇つぶしになる。


 猫は、平安貴族だったころから、身近にいた。

 ねこかわいい。

 面倒を見てきた猫の数は500を超えるだろう。それでもみんな名前を憶えているし、毛皮の色も覚えている。

 みんなもう会えないけど、天国なり来世なりで幸せにやっていてほしいと思う。


 そう思っていたら、この前、といっても、もう16年は前だけれど、夢に江戸のころ面倒を見ていた猫が出てきた。


 黒い毛のきらきらした黄色い目でかわいい子だった。

 名前は黒右衛門。


「やあ。いろいろあってさ、次は人間に生まれ変わるから挨拶に来たんだ。今学校の先生だって、神様から聞いたよ。たぶん、黒右衛門だった記憶はないとおもうけど、今度は人間の女の子になって、会いに行くから、今度は奥さんにしてね」


 いろいろと聞きたいことも言いたいこともあったけど、言う間もなく目が覚めてしまった。


 今までそうやって夢に挨拶に来てくれた猫はいっぱいいた。

 だから、黒右衛門が人間の女の子に生まれ変わったのは疑っていない。


 で、時期的に考えて、今年の新入生の数学の苦手なあの子がおそらく黒右衛門。


 黒右衛門だと思うとかわいくて仕方ないけど、あんまり特別扱いもできない。


 数学が難しいとよく嘆いているけれど、そりゃ前世猫ならそうだよな、と思って、0点のテストも、《名前を漢字で書いて、えらいねー!》とつい2点あげた。


 江戸の時代にはなかった猫用おやつをあげたら喜ぶかな、と思って猫用おやつを上げてみたら翌朝「おいしかった」と言ってきたから、絶対あの子が黒右衛門。


 幽霊の妻たちも、そろそろ次の奥さんいてもいいんじゃない?とそれとなく黒右衛門との結婚を後押ししてくる。

 黒右衛門をかわいがっていた当時の妻はいないけど、妻はみんな猫好きだから、輪廻転生して猫が会いに来てくれたというのをものすごく羨ましがってくる。


 でも妻はみんな女性として、人として好きだから結婚したのだ。


 さすがに猫は、結婚相手に考えられない。黒右衛門には悪いけどあの子との結婚も考えていない。


 でも、やっぱり輪廻転生してまで会いに来てくれる猫、かわいすぎる……!


 黒右衛門とのふたりきりの補習で、私は、猫じゃらしを振ってみたい気持ちと猫用おやつをプレゼントしたい気持ちの間で必死に戦っているのだ。

MBSラジオ「寺島惇太と三澤紗千香の小説家になろうnavi-2ndbook-」で2021年12月の朗読に選んでいただきました。


感想、評価、ブクマ等いただけると嬉しいです。

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