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第45話 ギャル友とキス

   ◆



「……ん……ぅ……」



 あれ、俺……あ、そうだ。風呂で気絶したんだった。

 うぅ、まだ頭がフラフラする……ダメだ。頭回らん。



「せ、センパイっ」

「え……あぁ、清坂さん。それに天内さんも……」

「パイセン、大丈夫?」

「ちょっと、まだダルいかも……もう少し横になったら落ち着くと思う」



 心配そうに俺を覗き込む二人。

 まあ、風呂場で鼻血出してぶっ倒れたら、心配にもなるか。

 それより、二人の水着姿を見て鼻血を出したド変態ってレッテルを貼られなくてよかったよ。


 そっと息を吐くと、二人が体をビクつかせた。



「せ、センパイ、怒ってますか……?」

「え? いや、怒ってないけど」

「「ほっ」」



 今度は安心したように息を吐いた。

 ああ、俺がため息を吐いたから、怒ってるって勘違いしたのか。こりゃ悪いことをした。



「まあ、正直今日のはちょっとやり過ぎかなとは思ったけど」

「「うっ」」

「だけど、その……嬉しかったのは本当だ。男として役得というかなんというか」



 って、何を言ってるんだ俺は。これじゃあ、風呂場で水着姿を見れて嬉しかったって言ってるようなものじゃん。変態か、俺は。



「とにかく、怒ってはない。大丈夫だよ」

「ほ、ほーら純夏。パイセンはこれくらいじゃ怒らないって言ったじゃん?」

「そそそ、そういう深冬こそ脚震えてるけど」



 二人は今度こそ安心したのか、へなへなとベッドの横に座り込んでしまった。



「でも、今日みたいなことはやめること。いいね?」

「はぁーい」

「わかったー」



 本当にわかったのかな、この子たちは。

 と、急に天内さんが少し悪い顔になった。え、何怖い。



「私たちからパイセンを甘やかすのは、もうやめるよ。逆に疲れちゃうだろうからね」

「そうしてくれると助かる」

「だがしかし! 逆はありでしょ!」



 ……逆? どういうことだ?



「パイセンが、私たちに甘えるのはありってこと!」

「……はい?」



 何言ってんの、天内さん。

 えっと? 二人が俺を甘やかすことはしない。だけど、俺が二人に甘えるのはあり……ごめん、意味がわからない。



「バイト、料理、勉強、私たちのお世話。パイセンは平気そうだけど、絶対心のどこかでは疲れてると思うんだよねっ。そんな時は、私と純夏に甘えてよ。私たちがたーっくさん癒してあげるからさ」

「あ、そういうこと」



 まさかそんな発想になるとは思わなかった。

 学校で天内さんに甘えた時みたいな、あんな感じか。


 二人は深刻そうにしてるけど、今までと同じ生活リズムに清坂さんと天内さんが入ってきただけなんだよね。


 それに、ぶっちゃけ添い寝とハグで、二人には凄く甘えさせてもらってる。

 だから俺から甘えることはないと思うけど。


 二人をチラ見。

 うっ。凄く期待に満ちた目……。



「……まあ、たまにはね」

「! ホントっすか!? 約束ですよ、センパイ! たくさんたくさんっ、たーーーーっくさん甘えてくださいね!」



 き、清坂さんからの圧が強い。



「じゃあ、早速いいかな」

「はい!」

「少し寝たいから、静かに勉強してくれると助かる」

「わかりました! 深冬、行くよ!」

「えっ。これそういう使い方じゃない──」



 清坂さんが天内さんの襟首を掴んで、寝室を飛び出していった。

 ふむ、使えるな、これ。


 貧血なのか、また頭がぼーっとしてきた。

 今日はもうゆっくり寝ちゃおう。おやすみ、二人とも。






 そういえばパンツ乾いてるけど……いや、深く考えないようにしよう。



   ◆深冬side◆



「ねー、純夏」

「しー。センパイが寝てるんだから、静かに勉強しなきゃダメだって」



 ダメだこの子。いいようにあしらわれただけだって気付いてない。

 その純粋さが、この子の可愛いところだけどね。でももう少し落ち着いて欲しいかな。


 まあパイセンも私と純夏の学力が心配だから、自分の心配より勉強してって意味でこんなこと言ったんだと思うんだけど。


 集中してる純夏を横目に、私はもう一度寝室に戻った。



「くぅ……くぅ……」



 よく寝てる……顔色は少しよくなったかな。

 こんな可愛い寝顔を毎日見れるなんて、純夏に嫉妬しちゃう。

 枕元に座って、パイセンの髪を撫でる。

 少しむず痒がったのか、口元をむにゃむにゃさせた。

 全く。どこまで私の母性をくすぐったら気が済むんだ、パイセンは。


 純夏、集中してるよね?

 ……ちょっとだけ、いいかな……?


 パイセン頬を撫で、少し顔をこっちに向かせる。

 整った顔立ち。それに、綺麗な唇。

 その唇を見て、一気に心臓が高鳴った。

 呼吸が荒くなる。漏れる息が、自分でもわかるくらい熱い。


 生唾を飲み込み、ゆっくりと近付く。

 あと五センチ……三、二、一……。



「ん……んーっ……」



 直後、パイセンが寝返りをうち……チュッ。

 狙いから逸れ、口の端にキスしてしまった。



「むぅ……ま、今日はこれくらいにしてあげよう」



 あーあ、私のファーストキスを貰えるチャンスだったのに、パイセンも運が悪いね。

 さて、私もいい加減勉強に専念しますかね。



「あれ。深冬、どこ行ってたん?」

「ちょっとトイレにー」

「そう? ……顔真っ赤だけど、大丈夫?」

「え、嘘っ」



 手鏡で今の顔色を確認する。

 顔どころか、首や鎖骨、胸元まで真っ赤だ。



「風邪?」

「ち、違う違う。大丈夫だから」

「そう……?」



 うぅ〜……パイセンめ、こんなに乙女をときめかせて! もう!

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