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第43話 ギャルたちとコツ

   ◆



「センパイ! 私らに勉強教えてください!」

「さい!」



 十九時前に家に帰ると、唐突に清坂さんと天内さんに土下座された。

 こんな綺麗な土下座初めて見た……って、勉強?



「どうしたの、二人して」

「それがその、今回のテストで赤点があると、一科目につき三日の夏の補習があると聞きまして……」

「私ら、全く勉強してこなかったから……」



 なるほど、それでか。

 今回のテストは十一科目もあるから、下手したら三十三日……夏休みがほぼ潰れる。

 高校最初の夏休みが潰れたら可哀想だし……仕方ない。



「いいよ。その代わりあと三週間しかないから、ちょっと厳しめで行くけどいい?」

「「あ、ありがとうございます!」」



 うん、とりあえず土下座するのはやめようね。女の子に土下座されて喜ぶ趣味はないから。


 二人をテーブルに並ばせ、問題集を開いた。



「さて、勉強のコツだけど、問題はがむしゃらに解けばいいってものじゃない。解き方がわからないと、そもそも勉強が楽しくないからね」

「「確かに」」



 ちょっとは否定して欲しかった。

 まあ、勉強が好きな人なんてそうそういないか。俺は習慣だからやってるだけだし。



「暗記科目は口に出して暗唱したり、動きながら覚えると効果的だ。でも暗記科目以外はそうもいかない。じゃあどうすればいいかというと」

「「いうと……?」」



 たっぷり数秒の間を作り──



「先に答えを見る」



 ──なんてことのない、当たり前のことを言った。

 が、俺の言葉に二人はきょとんと首を傾げる。



「え、カンニングっすか?」

「パイセンも悪だね」

「違う。答えには大体解説が付きものだ。答えと解説を丸暗記し、その後問題を見る。そうすれば、『答えがわからない。だからやる気が起きない』という勉強嫌いが一番陥りやすい前段階を克服できる」

「「お……おお〜!」」



 目からウロコだったのか、二人して顔を輝かせて拍手した。

 そんなに感動されると、ちょっと恥ずかしいな。結構ポピュラーな勉強法だと思うんだけど。


 ちなみにこのやり方、被検体一号ソーニャで実験済みだ。



「そして最後に、テキストを読んで理解を深める。これなら、勉強が嫌いでも何とかなりそうでしょ?」

「なるほど! 確かに問題を解く時、ちんぷんかんぷんでやる気無くなってたっす!」

「パイセン天才じゃん! 伊達に頭良くないね!」

「褒めるのは実際に学力が上がってからね。ほらほら、さっさと手を動かすっ」

「「おっす!」」



 二人は今までにないほどやる気に満ち溢れ、問題集に向かった。


 鎧ヶ丘高校の赤点は、平均の半分。しかもテストの六割は問題集やテキストから出るから、この勉強方法なら六割は取れる。

 つまり赤点は三十点前後。

 それ以上点数を取ろうとすると、ちゃんと応用も勉強しないといけないけど。

 赤点回避が目的なら、このままでいいだろう。


 二人が一生懸命問題に取り組んでいる間に、俺は料理を作る。

 今日はカレーだ。どうせ天内さんも夜遅くまでいるだろうし、量は少し多めに。


 俺が料理してる間も、二人はこっちに気付かず集中している。

 いい集中力だ。なんだ、二人ともやればできるじゃないか。


 そのままカレーができるまでの間、二人の集中力は続いた。

 このやり方なら、わからなくてつまずくってことは少ない。わからない問題が出たら丁寧に教えるけど、今のところその必要はなさそうだ。



「……あれ? ごめん二人とも。一つ聞いていい?」

「はい?」

「何?」

「勉強のやり方は教えたけど……その問題って、試験範囲?」



 …………。

 ……………………。

 ………………………………。



「「わかんない」」

「おばか……」

「「ぁぅ」」



 とにかく、本格的な勉強は試験範囲を先生に聞いてからだな……。



「仕方ない。とっておきの秘密兵器をやろう」

「秘密兵器?」

「パイルバンカーとか?」



 秘密兵器の例えにパイルバンカーを出すって、いよいよ天内さんもオタク化してきたな。俺のオタ趣味の影響なんだろうけど。


 自室に丁寧に保管していたファイルとノートを取り、二人に渡した。



「これ、なんすか?」

「去年の定期試験の問題と、その時俺が勉強したノート」

「「なんと!?」」



 鎧ヶ丘高校こ定期試験は、六割は問題集やテキストから出る。

 ということは、前年に出た問題が丸々出やすいということだ。



「ここから少しは出るだろうし、他の問題も勉強して損はない。これでどうにかなると思うよ」

「センパイ、神! マジ仏!」

「ヤバい、惚れる!」



 ノリが軽いな。

 と、急に清坂さんの動きが止まった。



「どうしたの?」

「あ、いえ。……私、またセンパイのお世話になりっぱなしで、何も返せてないって思っちゃって……」

「考え過ぎだって」

「お返し……お返し……」



 あー。でもそういうメンタルで勉強しても身にならないからなぁ……清坂さんたちには勉強に集中してもらいたいし。

 それにリラックスして勉強してもらいたい。何か気の利いたジョークを……。



「あ、そうだ」

「なんすか!? な、なんでも言って欲しいっす!」

「わ、私も協力するよ!」






「じゃあ、背中を流して欲しいなー、なんて」






 ……………………………………………………。


 空気が死にました。というか俺が死にたい。何言ってんだ、俺。ただのセクハラじゃん。死ねよ、俺。



「ご、ごめん。二人を和ませるジョークを考えたんだけど──」

「わかりました!」

「……え?」



 わか……なに?

 見ると、清坂さんも天内さんも気合十分と言った顔で息巻いていた。



「センパイのお背中、私たちが流します!」

「パイセン、先にお風呂行ってて! 準備するから!」

「ま、待て待て待て。冗談、冗談だからっ!」

「いえ、私たちに出来るのはこれくらいしかありません!」

「お風呂から出たらマッサージもしてあげる! 忙しいパイセンをもてなすよ!」



 二人に背中を無理に押され、脱衣所へと連れて行かれた。



「さあセンパイ、服を脱ぎ脱ぎしましょうね」

「ズボンは私に任せて。今楽にしてあげるから」



 ちょ、待っ、あっ……。



「せ、せめて服は自分で脱がせてくれぇーーーー!!」

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