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第38話 ギャルと決意

 清坂さんは俺を見上げ、頭がフラフラ揺れている。

 そしてそのまま、俺の体に抱き着いてきた。



「んん〜……せんぱぁい、頭がふわふわしますぅ〜」

「ちょ、清坂さん落ち着いて。と、とりあえず水飲んでね」

「いらにゃぃ」



 いらにゃいて。

 確かに飲んでたのはジュースだから、酔っているわけではない。だから水は必要ないと思うけど……。



「わ、わかった。それじゃ、ベッド行こう。もう眠いでしょ? 明日も学校だから、今日はもう寝よう」

「んー……つれてって」



 ……なんと?

 つれてって……今、連れてってと言ったか?



「そ、それは……」

「つれてって!」

「わっ!?」



 いきなり飛びついてきたから、思わず抱き留める形で清坂さんを強く抱き締めてしまった。

 落ちないように片手は腰に、片手はお尻の方に手を回してしまい、清坂さんの全てが伝わってきてしまう。


 お胸様のでかさ。

 腰の細さ。

 手に伝わるお尻の柔らかさ。

 甘く、誘うような清坂さんの香りに、オレンジジュースの柑橘系が混じった淫靡な匂い。


 理性の糸がぶちぶち断裂する音が頭の中で響く。

 やばい。やばいデス。



「しぇんぱい、いーにおい……」

「か、嗅ぐなっ。まだ風呂入ってないんだから……!」

「入らなくても、いーにおい」



 意味がわからん。

 と、とにかく清坂さんをベッドに連れてって、無理にでも剥がさないと。


 なるべく揺らさないように、清坂さんをベッドに運ぶ。

 ぐうぅ……や、柔らかい。全部が柔らかい……!

 今までで一番密着されてて、このまま人の道を踏み外してしまいそう……!


 何とかベッドに到着。

 清坂さんを座らせるが、まだ俺に抱き着いたまま離れそうにない。



「ほら、清坂さん。ベッド着いたよ」

「んー……ねるぅ」

「うん。いい子だから、手を離して寝ようね」

「せんぱいもぉ」

「お、俺は風呂に入ってくるからさ」

「やー」



 幼児退行この上なし。

 どうしよう。そろそろ体勢的に腰が悲鳴を上げている。このままじゃ清坂さんごと押し潰しちゃいそうだ。

 というか押し倒しちゃいそう。俺の中の狼さん、頑張って……!



「わ、わかった。横になるから、ちょっと力緩めて。いい子だから」

「……いーこ……うん、すみか、いーこだよ」

「そうそう。だから……」






「いーこにするから──置いてかないで……」






 …………え? 今……。



「清坂さん?」

「……すぅ……すぅ……」



 あ、寝た。

 そこでようやく力が弱まり、清坂さんは今にも泣きそうな顔で眠っている。

 今のは、一体……?

 ……考えても仕方ない。早く風呂に入って、早く戻って清坂さんの傍にいてあげよう。


 風呂場で念入りに体を洗い、色々してから寝室に戻る。

 色々の部分は察してくれ。


 戻ると、清坂さんは寝ているのに何かを求めてモゾモゾと腕を動かしていた。

 隣に横になって頭を撫でる。

 と、直ぐに安心したように笑みを零し、深い眠りに落ちていった。


 ……いい子にするから、置いてかないで、か。一体、誰に向かって言ったのか。


 間違いなく俺ではないだろう。

 じゃあご両親? ……それも違うと思う。清坂さんは、ご両親との仲がよくないから。


 ……誰に対して言ったんだろう。



「置いてかないで、か……」



 清坂さんの頭をゆっくり撫でる。

 少なくとも、俺は……俺だけは。



「気が済むまで、ずっと傍にいてあげるから」



 清坂さんをそっと抱き寄せ、目を閉じる。


 包み込むように……離さないように。



   ◆純夏side◆



「…………(ぱちくり)」

「くぅ……くぅ……」



 …………。

 ……………………。

 ………………………………。






 近ッッッッッ!?!!?!!!??





 えっ、ちょ、顔良っ。近っ、え、顔近い!?

 しかもこれっ、センパイの方から抱き締めてきてる!?

 はわっ、はわわわわわ……!?


 い、今まで私から抱き締めて寝てたことはあったけど、センパイからこうして抱き締められたことはなかった。センパイ、寝相よすぎだから。


 でも今は、明確に抱き締められている! いる!! いる!!!!


 ききき、昨日何かあったのかなっ? えっとえっと、清楚ギャルさんの部屋で飲み会があって、それについてって……だめだぁ! 思い出せないぃ!


 ももも、もしかして一線を超えたり……!? 超えちゃったり!?

 ……あーいや、それはないか。センパイはそういう理性は鋼だからなぁ。だからこうして、安心して添い寝できる訳だし。



「くぅ……くぅ……むにゃ……」



 ぎゃーーーー!! ぎゃわゆいぃぃい!!!!

 これが、オタクが推しを見た時の感覚……! なるほどわかる。今ならわかるっ、言葉が出てこないよぉ!!


 ……最初から語彙力がないってツッコミはしないで下さい。泣いてしまいます。

 センパイの温もりを感じつつ、更に距離を縮める。

 鼻と鼻がぶつかる距離。あと少しズレたら、キス出来てしまう。


 ……したい。

 キス、したい……。

 でもダメだ。こんなことでキスしたら、きっと私は罪悪感で落ち込んでしまう。


 だから我慢。我慢。我慢……。



「うああぁっ、もぅ……!」



 センパイから顔を隠すように、布団の中に潜る。

 ダメだ私、センパイのこと好きすぎる。


 深冬が煽るせいで、完全にセンパイのことを好きになってしまった。深冬のせいだ。謝ってもらおう。

 でもセンパイは、こんなだらしない女の子なんて絶対好きになってくれない。

 努力家のセンパイは、それを支えてあげられるだけの器量を持った女の子がお似合いなんだ。


 なら、私がやることは──。

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