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第11話 隣人とマッサージ

「え? スクシェアミのコスメについて教えて欲しい?」



 俺は急いで家に帰ると、隣に住む白百合さんの元を訪ねた。


 白百合さんの生活リズムは、隣にいるから大体把握している。木曜日の午後は家にいて、昼酒を楽しんでいるのが日課だ。


 あ、もちろんストーカー的な感じではなく、ただ喧しいから知ってるだけだぞ。そこのところ、間違えないように。


 案の定家にいた白百合さんは、既にビールを三本も空けていた。

 ほろ酔い気味なのか目はとろんとし、ワイシャツの前が大きくはだけている。


 少しゆったりとしたショートパンツで、膝を立てて座ってるからちょっといけない部分まで見えちゃってるが、それももう慣れた。



「はい。明日新作の発売日なんですよね?」

「そーだけど……あ、もしかして純夏ちゃんに買ってあげるの?」

「邪推しないでください」

「ごめんなさい」



 くすくす笑い、四本目のビールを空にする。

 相変わらず、飲むペースが早いこと。



「教えてあげてもいいけどぉ、対価は払ってもらいますよぉ〜」



 伸ばして来た足で、俺の脇腹をつつーっとなぞる。

 やっぱりか。だからあんまり頼りたくはなかったんだけど……背に腹は代えられん。


 白百合さんに頼みごとをする時は、何かしらの対価を払う必要がある。

 素面の時は優しいけど、酔ってると何を対価として支払うのかはその時の気分によるのだ。


 前回は一晩中酒の肴を作ってたっけ……あの時は、しばらく料理が嫌になったな。



「……何をご所望で?」

「むふー。私、最近体中がこってるんですよねぇ〜。一時間の全身マッサージで手を打ちましょ〜」



 え……意外だ。そんなのでいいのか?

 キョトンとしていると、白百合さんはムッとした顔になった。



「なんですか〜? ご不満ですか〜?」

「そ、そうじゃなくて……それくらいで教えてくれるのかと思って」

「あ、なるほどですね。ふふ、これは青春を送っている君への私からのプレゼントで〜す」



 べ、別に青春なんてもんじゃない。

 単に、俺のことを考えてくれてる清坂さんへのお礼だ。


 白百合さんは床に寝そべると、脚をパタパタと動かした。



「さてさて、まずは肩からしてもらいましょーかね」

「わかりました」



 白百合さんの横に跪き、手を伸ばす。

 が、しかし。



「んー? 海斗君、どーしましたー?」

「い、いや。今思うと、男女が二人きりの部屋の中でマッサージってどうかと思いまして……」

「どーてー」

「んなっ!? 白百合さんこそ処女じゃないですか!」

「ちょ、どこから聞いたのそれ!?」

「この間振られて酔ってた時に、『処女でわりーかコノヤロー!』って叫んでました」

「覚えてませーん! そんなの覚えてないでーす!」



 耳を塞いでわーわー叫ぶ白百合さん。

 さっきまでの大人の女性っぽい余裕はどこへやら。



「いじわるする海斗君には、スクシェアミの情報は渡しませーん」

「ご無体な!?」

「じゃあ言うことは?」

「ぐっ……ごめんなさい」

「はい、よろしい」



 なんで俺が謝ってるんだろうか。先に貞操をからかってきたのは白百合さんなのに。



「それじゃ、よろしくお願いしまーす」

「……わかりました」



 背に腹は代えられん。いざ。

 なるべく力をいれず、ゆっくりと白百合さんの肩に手を添える。



「んっ」

「あっ。ご、ごめんなさ……!」

「だ、大丈夫です。ちょっとビックリしただけで。さあ、続きを」

「は、はい」



 ゆっくり力を加えると、柔らかい肉の下に確かな硬いものがあった。

 これ、かなりこってるな。男の俺が押してもかなり硬い。



「白百合さん、もう少し力を入れますよ」

「は、はい。んっ……ぁぁ……!」

「この辺とかどうです?」

「すっ……ごぃ……!」



 ふむふむ。マッサージには慣れてないけど、これくらいこってると俺のマッサージでも効果的みたいだ。


 聞きかじった知識しかないけど、とにかくこっている部分を重点的に攻める。

 肩、首周り、肩甲骨、背中、腰。

 全身こっていると言うだけあって、どこを揉みほぐしてもガチガチだ。


 でも、なんだか楽しくなってきた。ほれ。



「あぁっ……! んんん……! も、もう……もうらめ……!」

「いえいえ、まだ上半身ですよ。次は脚を……」

「もういい! もういいからっ! もう許してぇ〜!」



   ◆



「ふぅ。楽しかった」



 一時間。しっかりと全身を解させてもらった。

 なんか楽しかった。俺、こっちの才能があるのかも。

 あ、もちろん触っちゃいけないところには触ってないぞ。その辺の分別は弁えてる。


 袖で汗を拭うと、足元で痙攣している白百合さんが。

 はて、どうしたんだろうか?



「く、くぅ……! 海斗君のくせに、私を手篭めにするなんてぇ……!」

「俺のくせにって」



 随分な言いようだな。せっかくマッサージしてあげたのに。



「か、海斗君、Sの素質ありますよ、本当……」

「ははは。大袈裟ですね」

「大袈裟ではないのですが……でも体が軽くなったのは確かです。ありがとうございました」

「いえいえ。それで、約束の件は……」

「わかってますよ。後でメッセージで、オススメのコスメを送っておきますね」

「あ、ありがとうございますっ」



 よかった。一時間のマッサージってかなり疲れるから、もう一度って言われたらどうしようかと思った。


 再度白百合さんにお礼を言い、隣の自分の部屋へと戻った。

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