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グウィネビア様、渡鬼ちっくなことになっている王家を心配する

 次の日の昼食は、トリスタンとランスロットと共に個室でとった。


「今後のことはだいたい決まってるんだけどね、おばあ様が何を言い出すか分からないんだ」


 アリシア姫を守り、命を落とした騎士や侍女、下級の使用人に至るまで、親族が褒章を授けることとなった。近々、全員の名前が発表される予定だと言う。


 アリシア姫を守ったブルーノ、エーリヒを育てたティテル男爵、エーリヒを守りながらグラストンにやって来た男爵の従者たちにもそれぞれ褒章を授けるつもりだったが、男爵は固辞した。


 なお、男爵は爵位を放棄し、領地をザール王家に返還した。グラストンでは一切の称号を受ける気はないので、今後はエーリヒの祖父ヨーゼフ氏と言った方がよいだろう。


「正直、何らかの称号があった方がエーリヒも活動しやすいんだけどね。父上が説得してもダメだったよ。おばあ様がおられなかったらね、みんなでヨーゼフ殿を説得して爵位を受けてもらうはずだったのさ」


「あの方は……、前王妃殿下は、いつからいらしたの? お父様は全く知らなかったって」


「いつだと思う? 昨日の朝だよ。10年ぶりに会ったのに、私を無視してエーリヒ、エーリヒなんだ。露骨で驚いたよ。最初は疲れたから休むって言ってらしたけど、君らが来る直前に自分もエバンズの方々に会いたいからって部屋に入ってこられてね、公爵に知らせる間もなかった」


「気まぐれで動いてらっしゃるわけではないのでしょうね。それにしても、随分お詳しい様子だったけど」


「うん、どうもね、誰かがおばあ様に伝えたみたいだね」


「そんな……、誰かって限られてるでしょ……」


 エーリヒの正体を知っているのは、国王一家と限られた重臣のみだ。


「そうだね、もしかしたらエーリヒを救いたい一心の行動だったのかもしれない」


「秘密の漏洩は重罪よ……。王の信頼を裏切る行為だわ……」


「ああ、そうだ。多分、君とエーリヒをエバンズの土地の一角に閉じ込める、事実上の配流の話が出たくらいに、誰かが使者を送ったんじゃないかな。エーリヒだけじゃなくて、君も救いたかったのかもしれない。良心から出た行動だが勇み足だった」


 たぶん、ランスロットは誰が知らせたのかもう知っているのだろう。


「どうするの?」


 私が訊ねると、ランスロットは無駄にきらきらした微笑みを浮かべる。

 たぶん悪いことを考えている顔だ。

 ちょっと性格が悪くなったような気がする。


「どうもしないさ。ヨーゼフ殿がエーリヒを連れてきて、国王は亡き姉の忘れ形見を()()()()()()()()()んだから。何も問題なんてなかったのに何を騒ぐことがある?」


 重臣たちとの秘密会議の内容を漏らした罪を問えば会議の内容も明かさねばなるまい。

 エーリヒの存在とアリシア姫の真実を闇に葬ろうという意見がでたのだ。

 たとえ国王陛下がその意見に同調していなかったとしても、王の威信は傷つくことになるだろう。


「ただ、おばあ様はエーリヒの存在を握りつぶそうとした者たちを許さないだろうね。ぜったい何らかの圧力をかけてくるとは思うよ」


「ねえ、そんな力があるの? 前王妃殿下に」


 私は昨日から気になっていたことをランスロットに聞いてみた。


「分からない。少なくとも本人はやる気だよ。ああ、これからは王太后が呼称になる。これも発表する予定だ」


「王太后……」


「あれ? 今までは何だったっけ」


 トリスタンが間抜けな質問をする。


「説明したでしょ。これまではマーゴット様だったのよ。なんだか不敬なようで呼びづらいけどね」


「トリスタンの言いたいことは分かるよ。おばあ様はずっと領地に引き込もってらしたからね。僕ら家族でもほとんど会ったことがないくらいだ」


「本当に政に介入されるのね……」


「少なくともエーリヒに関することにはかなり強硬な姿勢で挑まれるだろうね。すでに後見で揉めてるよ」


 ランスロットの表情は暗い。


「後見は陛下のはずよね」


「それにおばあ様の実家が反対しているのさ。実家の公爵家が後見になるつもりだ。おばあ様は、貴族街の邸宅を購入して、そこにエーリヒと共に住みたいらしいんだ」


「どうするの」


「おばあ様に任せると、父上のやり方を面白く思っていない者どもが、エーリヒを担ぎ上げるかもしれない。いや、確実にそうなるだろうな。後見人にさせるわけにはいかないよ」


 昨日、領地からやって来たばかりの老婦人がそこまで周囲をひっかきまわせるとは驚きだ。

 それもこれも弱みを握られているからだとランスロットは言う。


「エーリヒの存在とアリシア姫一行の顛末を握り潰そうとしたのを知られてしまったからね。あんな馬鹿な話に耳を傾けてはいけなかったんだ」


 小細工しようとした結果、懸念した通り敵対勢力にエーリヒを担ぎ上げる口実を与えてしまったのだ。


「グウィネビア、改めて礼を言わせてほしい。君の覚悟のおかげで、エーリヒを王族として認めることが出来た」


 ランスロットはまっすぐこちらを見て言った。

 私は何もしていないのだから礼など不要だ。


「みんな、おおげさだわ。単にお父様が、私のことを切り札に使っただけよ」


「でも、君のエーリヒを救いたいという強い意志が公爵を動かしたんだ」


「ねえ、僕とグウィネビアのことも訂正してほしいんだよ。僕らそんなんじゃないから、ほら、妹みたいな感じでさ」


 唐突にトリスタンが話に入ってくる。

 私とトリスタンの仲が誤解されてるのは、なんとかせねばらない。

 しかし、妹とは聞き捨てならない。


「待って、あなたが弟でしょ」


「え、違うよ、君が妹だよ」


「あなたのこと兄だなんて、少なくとも今は思ってないわ」


 そこでランスロットが笑いを堪えきれず噴き出した。


「わかったエーリヒにはちゃんと伝えとくよ」


 深刻な調子で始まった昼食は、妙な形で終了した。

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