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グウィネビア様、王宮で話せなかったことをいろいろ話す

 わざわざ学園を休んで王宮に行ったのは、今後について長時間に及ぶ話をするためだったのだが、ティテル男爵の話を聞いたあと、引き上げることになってしまった。

 原因はもちろん、前王妃殿下だ。


 邸に帰ったあと、お父様は私たちを集めて、分かっている限りの話をしてくれた。

 お父様にとっても前王妃の登場は想定外だったようだ。


「あの方はずいぶん内情にお詳しいようだった。しかも『国王の母』を名乗った。あの方はね、アリシア姫を『見捨てた』前王をそりゃあ憎んでいらした。その憎しみをね、今の国王、王妃、王子方にも向けているんだよ」


「そんなっ、だって息子と孫ですよ?」


 トリスタンが驚いたように声を上げる。


「私はマーゴット様の心のうちは分かりませんけどね、あの時代の自分の気持ちなら少し覚えてますよ」


 お母様は淡々と語り始めた。


「みんなまるでアリシア姫や侍女など存在しないかのように振る舞ったのよ。ザールや闇の森と、事を構えたくないのは分かりますけど、王族の非情さが情けなくてね。私の心はね、失望して王家を見限った人たちの方にあるんですよ」


 『仮定』の話では感情を高ぶらせていたお母様だが、今、その体は静かな怒りを纏っていた。古い、忘れていた感情が甦ったのだろうか。


「結婚したらエバンズの領地でひっそり暮らしたかったの。そうなる予定だったのに、この人がね、王を支えるって、友が苦境に陥った今、首都を去ることは出来ないって。素晴らしいことね。私の友だちはね、アリシア姫と一緒に消えてしまったのよ。苦境に陥っているのに手をさしのべる者もないまま、見捨てられ忘れられたのよ」


「…………」


 お父様は沈黙を守っている。


「何もしていない訳じゃなかったのよ。知ってますとも。陛下はザールと交渉を続けて、闇の森とも関係改善に努めてらしたわ。この人が陛下を支えて、去っていった重臣の分まで働かなかったら、国は二分されていたでしょう」


 ここで息を整えるように、お母様は話を一旦、止めた。


「沢山、素晴らしい変化があったわ。若くて有能な人たちが王宮に入ってきたし、街には裕福な人も増えたわ。人の意識も自由になって、若い頃うんざりしていたしきたりも薄れていったの。グウィネビア、あなたみたいな少々大胆な娘でも、受け入れてもらえる世の中ってやっぱりいいものね」


 さくっと娘をディスるお母様である。


「いい時代になったと思うのよ。でもそこには、アリシア姫がいないの。それが、どうしようもなくつらいの」


 さ、私の話はこれでおしまいよ、あとはお父様。

 お母様がそう言ったので、私はお父様を見る。

 とりあえずお父様の話に集中しようと、雑多な思考を頭の中から追い出した。


「昨日のうちにね、あの方には使者を向けたのだ。アリシア姫の遺児が見つかった、とね。あの方はすぐに首都にいらっしゃるか、使者を寄越されるだろうけど、その時にはエーリヒ様の処遇は決定していて、あの方もご実家も手のだしようもない状態になっているはずだったのだよ」


 なんだか騙し討ちのようだ。

 エーリヒがアリシア姫の実子であることが証明された時点で知らせるべきではないのか。


「うむ、いや、分かっている。まあ、そう皆で睨まないでくれ。後見人を陛下としてエーリヒ様は学園に入る。卒業後、公爵位と王領の一部を領地として賜ることになる予定だ。あの方が王宮に入られる頃にはすでに決定事項として発表されている手筈だったんだよ」


「そこまで、その、重臣の皆様は前王妃殿下を怖れていらっしゃるのですか?」


「うむ。たとえザールがエーリヒ様を利用して我が国に介入してこなくてもね、国内にエーリヒ様を擁して影響力を強めようとする者がいるかもしれない。その筆頭が前王妃様とそのご実家だよ」


「でも、20年近く政から遠ざかっていらしたんですよね。今さら、大きな力を振るうことが可能なのですか」


私は生まれてから一度も前王妃様の実家の話を聞いたことがない。

 貴族名鑑に印字されている文字くらいの認識なのだ。

 古い家系と同じような尊重されるが、政治的影響力のない家柄だと思っていた。


「そこだよ。正直、私も懐疑的ではあったのだ。しかし、今日のあの方の言動を見たまえ。国王の母を名乗るということは、これから政に介入される気だよ」


 お父様は私とトリスタンを見た。


「君たちには学園に入られるエーリヒ殿下を守って欲しい。殿下の存在が我が国にどのような影響を及ぼすのか、私としても予測がつかないのだよ」


「お父様、そう言われましても、エーリヒ様がどうなさりたいか、私には分からないのですけど」


「自身の素性を知って、まだ日数もたっていないのだ。ご本人も混乱しておられるだろう。今はまだ、先のことを考える余裕はないかもしれないね」


 森の人になりたかった青年が、いきなり異国の王族となったのだ。

 父と母だと思っていた人は祖父母で、本当の両親は別にいた。

 今、彼が何を思いながら過ごしているのか、私には想像もつかない。


「エーリヒ様には、政治の干渉の及ばない学園で過ごしながら、これからのことを考えてもらいたいのだ。エーリヒ様はね、エバンズの居間で過ごした時間をとても大切にしていらしてね。またあんな風に皆と話がしたいとおっしゃられているよ」


「ああ、それなら簡単なことです。リリアやパーシーなんかすごく喜ぶんじゃないかな」


「でもそれは、外国の貴族だった時の話よ。今度は王族として会うのよ、同じようにはいかないかもしれないわ」


「そこを君たちでなんとかしてもらいたいのだよ。エーリヒ様が他の学生たちと上手く付き合えるようにお膳立てを頼むよ」


「努力はしますわ……」


「なんだか、僕、わくわくしちゃうな」


 トリスタンは随分気楽なものである。

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