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グウィネビア様、盛大に誤解されているのに訂正できずに終わる

 決心しましたのは、1年前のことです。


 1人の森の人がエーリヒに会いにやってきました。

 彼はブルーノと姫の森での生活を支え、エーリヒとエラを我が家に送り届けた人物でした。


 あの後、彼はグラストンにある魔術師の塔に行き、魔術を学んでいたようです。

 そして子どもの親を特定する技があることを私に伝えてくれました。


 ちょうどその頃、代王の後継が決まらず国内が再び荒れるのではないかと噂がありました。

 そうなると国を出ることが困難になりますので、もう今しか出奔のチャンスはないと考え、主だった家の者を連れて領地を離れたのでございます。


 道中、賊やら、あるいは真相を闇に葬りたい者に襲われましたら、家の者らが命をはってエーリヒと手紙と遺髪を守る手筈でありました。

 しかし、私たちは物見遊山の田舎貴族としてあっさりグラストンに入ることが出来たのです。


 拍子抜けするほど簡単に首都につき、ザール貴族として宮殿に招かれましたので、すっかり安心していたのですが、むしろそこからが問題でした。


 果たしてグラストンの王様にどうやって手紙を渡せばいいのか、付いてきた者も私と同じ田舎者ですから誰もよい知恵を思い付かないのです。


 おまけに宮殿のザール貴族からはうろんな目で見られます。

 ただの田舎貴族として侮られているうちはいいのですが、私の秘密に気がつく方が出てくるともかぎりません。

 宮殿内も安全とは言えませんでした。


 そんな時、博覧館で例の絵を見たのです。

 絵の中の姫は、この国の大臣のご令嬢で、大臣の家の客になれば姫にお会いできると聞いたのです。

 浅はかなことだと思いますが、まさに、これだと、この方法しかないと思いました。


 私は社交の場で公爵に近づきました。と言っても、公爵は上手く周りに馴染めない外国人たちに声をかけ親切にしてくださっていただけだったのですが……。


 私が、うちには立派な息子をおりますので、是非、お宅のお嬢さまと懇意になりたいのですと伝えました時の公爵のお顔を思い出しますと、まさに赤面の至りであります。


 それでも年の暮れの客を断ってはならないという、グラストンの流儀のお陰で公爵は私どもを拒むことはありませんでした。


 なんとか、薔薇の姫を一目見ようとする外国人としてエバンズの邸に入り込むことに成功した次第であります。

 しかし、そこからがまた困難でした。

 公爵様のお屋敷には私と同じことを考えている者が溢れておりました。

 姫ぎみは奥に仕舞われておりましたし、公爵とも挨拶程度しか話すことができませんでした。


 おまけに訳も分からず外国に連れていかれ、あちこち連れ回されたエーリヒはすっかり具合を悪くしてしまいました。


 そこで私は強硬手段に出ました。体調の悪いエーリヒを1人、置き去りにしたのです。

 その日はちょうどお嬢様のご友人の方々が来ていらしたそうで、エーリヒはそこにお邪魔する形になってしまいました。


 エーリヒは随分楽しい時間を過ごしたようです。

 その日を境に私とエーリヒは、エバンズの方々から心のこもったもてなしを受けました。


 何も知らないエーリヒは、自分の話をあちこちでしたようです。

 敏い方々は、次第にエーリヒの正体に気がつかれたようで……。

 昔のことを知っている年長の方ばかりか、そちらの姫君や若様もうすうすとは察しておられたのですね。


 思えば危ういことでした。エーリヒの存在をよく思わない方々と知らずに接触したなら、私もエーリヒも今頃、このような場にいなかったでしょう。


 頃合いを見計らって公爵に知っている全てを話し、手紙と遺髪を託しました。

 私どもは宮殿に移りました。

 それから魔術師たちがエーリヒの血筋を証明しました。


 エーリヒの父親は亡き王太子殿下ではないかと言われたのですが、とんでもないことです。そんな高貴な身分ではありません。

 エバンズ公からエーリヒの血筋に何も問題ないと言われて私は安心しました。


 国王陛下や王妃殿下もたびたび私どもと話しに来て下さいましたし、公爵は毎日のように様子を見にこられました。

 ご令嬢や若君からの手紙もいただきましたし、本当に丁寧に扱って頂いたのですが、エーリヒの身がどうなるのかさっぱり分かりませんので、宮殿の一室で日々に不安を感じておりました。


 これは祖父である私に問題があるのだろうと思いまして、ある時、エーリヒに罪はありません、私はいかように罰を受けますと、公爵に申しました。


 すると公爵はあなたは領主として領民を守ってこられた。

 アリシア姫の遺児を守り育て、危険を冒してグラストンに来られた。誰があなたを罰しましょうか。

 そうおっしゃって下さったのです。


 それから公爵はエーリヒに向かって、わが領地に来られませんか? 森の近くにあなたの土地を用意しましょう、と言ってくださったのです。


 無知蒙昧な田舎者ですが、公爵のおっしゃる意味は理解できました。大変なことです。

 そうしましたら、公爵はエーリヒに向かってこうおっしゃったのです。


 我が娘グウィネビアを妻に迎え、小領地でひっそり暮らすなら、あなたの身分を保証します。

 エバンズがあなた方を全力で守ります、と。


 エーリヒも私も驚きました。


 あの……、お嬢様はそちらの若君と、ああ、まだ婚約はされてないのですね、失礼しました。 

 ただお若い2人が互いに想いあっておられるのは、エーリヒを通じて知っておりました。

 

 エーリヒがそんなことは出来ないと、誰かを犠牲にして生きていたいとは思わないと、公爵に訴えましたところ、いや、あなたをお助けしなくては娘に憎まれてしまいますとおっしゃられて……。


 公爵がお帰りになられたあと、エーリヒと2人、エバンズの方々にもう迷惑はかけられないと、もうどこへなりと捨ててもらおうと話しておりました。


 そうしましたら、次の日でした。

 今度はランスロット殿下がお越しになられて……。

 エーリヒに向かって、ずっとあなたに会いたかったと、これからは堂々と従兄弟と名乗ることができると。


 エーリヒはエバンズのご令嬢の話はなかったことにして欲しいと頼みました。

 もう迷惑はかけられないと。

 そうしましたら、殿下は、もう大丈夫だと。


 元は私の浅慮から皆様にいらぬ迷惑をかけてしまいました。本当に、本当に申し訳ありませんでした。

 そして、エーリヒを受け入れて下さり誠にありがとうございます。

 ああ、エーリヒ、お前からも……。



◆◇◆


 ティテル男爵に促され、エーリヒは私たちの方を見た。エバンズの邸にいた時と変わらない遠慮がちで柔らかい笑顔でエーリヒは話し始めた。


「公爵様、奥方様、エバンズ邸で過ごした日々、私は本当に幸せでした。それから、あの……、グウィネビア、トリスタン……。エバンズ邸にいた時のように、接してもらえないでしょうか。あの、友だちとして……」


「ええ、ええ、もちろんですわ、エーリヒ様」


「あの……エーリヒと呼んでほしいんだ、ランスロットみたいに」


 エーリヒがランスロットの方をちらちら見ながら言う。ランスロットは目で頷いている。

 2人の間で話がついているのだろうか。


 それから国王陛下、王妃殿下とも言葉を交わし、私たちは王宮をあとにした。




「まさか、あの方がいらっしゃるなんてね……」


 帰りの馬車の中で最初に口を開いたのお父様である。


「あなた……マーゴット様はいらっしゃる予定ではなかったの?」


「予定どころか、エーリヒ様の存在を知らせる使者を出したばかりだったんだよ。あの場にいらっしゃるはずがなかったのさ」


「なんだか随分、お詳しいようでしたわね……」


「うむ……後で陛下と話さなくてはならないだろうね。ある程度予測はしていたんだがね……、うん、やっかいだよ」


 大変なことになるよ。と、お父様は低い声で付け足した。お父様の表情は厳しい。馬車の中に重苦しい空気が漂う。

 お陰でトリスタンと私の関係が盛大に勘違いされていることを指摘することが出来なかった。

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