グウィネビア様、トリスタンと旧交を温める(強制)
それから数日、いつものように学園に入る前の準備をしていた。ときどきトリスタンも加わって馬術、剣術、ダンスの練習をした。薬草の調合、魔法陣の練習にも誘ったが、「必要ない」と言ってやらなかった。
最初の日に見せたようなよそよそしい態度こそなくなったものの、トリスタンの私に対する態度はどこか距離をかんじるものだった。
こちらから話かければ応えてくれるものの、けして自分からは話そうとはしない。誘っても2回に1回は断られる。
もう15歳、子どもではないのだ。昔のように無邪気に遊ぶことはない。それでももう少しなんとかならないものか。これから3年間、一緒に学園に通うのだから気心の知れた友人関係になりたい。今のような穏やかな無視を続けられるのはつらい。
私はトリスタンをお茶に誘った。次のお茶会の練習を兼ねてのものだったのでトリスタンも断る理由がない。
私としてはお茶の席でトリスタンの本音を知りたいと思っていたのだが、どうも考えが甘かったようだ。部屋には侍女のソフィアを筆頭に使用人が3人控えている。うち1人は辺境伯が連れてきた者だ。たぶん、ここでの会話はトリスタンの両親に筒抜けだろう。本音など出せようはずもない。
「トリスタンは王妃様のお茶会は初めてでしょ。必ず王妃様がお声をかけられるわ」
「そもそもお茶会自体が初めてだよ……。だいたい王妃様は僕なんて知らないよね。どんな話をするのか想像がつかないんだけど」
「お茶会では王妃様が誰に話しかけるか事前に決まってるの。話しかける相手のことはちゃんと調べてあるわよ。それにトリスタンのことはお父様から聞いてるでしょうね。夜な夜な屋根から屋根を渡っているとか……」
「ええっ? そんなことしてない!」
「あら、屋根の上であなたを見たことあるわ。一緒に古語の解読している最中に窓から逃げたのは昨日だったわ」
「古語は学校でやればいいよね。君の勉強、だいたい進みすぎてるから僕ついていけないよ。あれ、2年の内容じゃない?」
「先生がおっしゃるには大学のカリキュラムで扱う本らしいわ」
「?!」
「それよりあなた、玄関から入るんじゃなかったの? 相変わらず変な所からあなたが現れるって家の者たちが騒いでるわ」
「3回に1回くらいは玄関から入ってるよ。しかしここのお屋敷の人、ヒドイね。僕が玄関から入っていったら、ぎょっとした顔で見るんだよ。もう居たたまれないからつい壁を登っちゃうんだ。首都のお屋敷って立派なバルコニーがあるから縦にも横にも自由自在なんだよね」
トリスタンにとってはここら辺のお屋敷は侵入し放題のようだ。貴族の坊っちゃんがあっさり窓から入れるというのは警備上どうなのだろう?
こんな会話をしながらふとあることを閃いた。あまりよい手段とは言えない。トリスタンが乗ってくるともかぎらない。
しかしお茶会までにぎこちなさを取り除きたい。場合によってはますますぎこちなくなってしまう可能性はあるが。
その後も当たり障りのない会話に終始しつつ時間が過ぎていった。
「ソフィア、お願いがあるの」
小さなお茶会が終了したあと、他のメイドに気がつかれないよういソフィアの耳元でそっとつぶやいた。