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グウィネビア様、就職について皆の意見を聞く

 次の日、私は平民とりまとめ役の面々と昼食をとった。授業が終ると発表会の準備に忙しいので、この時間になったのだ。


「お忙しいところ、お集まり頂きありがとうございます。手紙にも書いたとおり、平民学生の勤め先について知りたいのです。特に地方の学生が縁故のない首都で生きる術を」

 

 最初に反応したのはガウェインだ。


「自分の友人も騎士以外の道を模索している者がいます。首都の者ですが縁故がないという点では、平民学生と同じです。それと、家系ではありませんが騎士になりたいという者もいます。その者の力になりたいのです」


 騎士については全く考えていなかったので、想定外の反応だった。

 なんとなく騎士の家系の者が騎士科に進み、そのまま騎士になる、程度のことしか思いつかなかった。


「ガウェイン、私は騎士のことが分からないのだけど、たしか騎士科を卒業すれば各騎士団の推薦が受けられるのよね?」


 学園の騎士科を修了すれは、自動的に騎士になれるのだから、騎士に縁のない平民や、将来貴族籍から抜ける可能性のある貴族学生が騎士を目指してもおかしくない。

 しかし学園で見聞きした限り、騎士の家系が騎士になるものと、なんとなく皆、思っているようだ。


「騎士の家系の者がそのまま騎士になるわけではありません。そのための学園ですから。ただ、建前はそうなっていますけど、現実は違います。自分は、その……」


 ガウェインにしては珍しいことだが、言うべきかどうか迷っているようだ。


「自分は、騎士になりたい者が騎士になり、たとえ親兄弟が騎士であっても望むなら違う道に行けるようになるべきだと思います。自分の将来を自分で決める。それが自分の考える学園のあり方なのです」


 と、ガウェインは一同を見回し言った。

 ガウェインがこれ程、自分の理念をはっきりと言明したのは初めてのことではなかろうか。


「私は、ガウェインさんの考えに賛同します。友人たちと話しているとみんな、親のすすめる職について数年したら結婚したいと言ってるんです。でも、よく話して見るとほんとは違うことがやりたいって言うんです」


 グレタが珍しく強く主張する。ルイスがいないせいかもしれない。


「グレタさんは、仕事のこと、どう考えてらっしゃるんですか?」


 たしか、グレタは政務科のはずだ。政治、経済、歴史を学び、将来は官僚となる者も多い。領地経営も学ぶので、トリスタンなど領地を継ぐ者はここに入る。

 貴族が多く入ることで、別名貴族コースと呼ばれるらしい。


「私は親の意向で政務に入ったんです。それで女官になって、結婚相手を見つけなさいって……。親族に貴族がいますから、縁故で女官にはなれるからって……」


 ほんとは他に、やりたいことがあるんですけど……グレタは小さな声で言う。

 ちなみに良縁狙いで王宮や大貴族の邸に入るのは珍しいことでも、恥ずかしいことでもない。ここでは当たり前のことなのだ。


「縁故で女官になれたって結婚相手を探すのは無理です。周りは大貴族の令嬢や富豪ばかりなんですよ……」


 なんだか消え入りそうなくらいグレタが小さく見える。

 優しく親しげな雰囲気を持ちながら、とりまとめ役の業務をこなし、広報記事の編集をし、フルートの名手であるグレタがこんな風に自信なげに縮こまってしまうなんて、実に悲しいことだ。


「親の世代と違うんです。今は女官だってしっかり仕事をこなす人が選ばれますし、結婚したら職を辞するなんて、昔のことですよ」


 ここまで黙って聞いていたノーラが言う。


「昔……ですか、実は平民学生の話を聞くまで仕事や結婚について考えたことがなかったんです」


 私が言うと、グウィネビアさんなら仕方がありません、というようなことを皆が口々に言う。

 なんだか、あなたは無知でも仕方ありませんよ、と言われているようで悔しいのだが、事実であるので仕方がない。


「以前は女子学生といえばコンパニオンや侍女、女官を数年したら結婚といった方が多かったのは事実です。今は官吏を選ぶ人も多いし、侍女や女官だって昔のイメージで考えてもらっては困ります。ただ、どこの家も親御さんの考えがずれていて苦労しているのです」


「ノーラさんは卒業後はどうされるのですか?」


「大学に進む予定です。幸い、両親ともに大学で教員をしていますから、理解があるのです」


 古語の解読を進めたいのだと言う。


「寮生のビビアンは書記の話がもう来てるようなんです。でも本人は発表会や考査のことで頭がいっぱいでそれどころじゃないみたいで。毎年、こんなに早いものなんですか?」


「年々早くなっているのは感じます。私のクラスにも3年になってすぐに教師の話が来ていましたから」


「3年になって、すぐにですか? 考査がどうなるか分からないのに?」


「優秀な学生は1年から調べられているんです」


 今は公的私的を問わずあらゆる組織が優秀な学生を求めているのだという。


「親というのは不思議なもので、自分の娘が書記になれるとは考えないのに、王妃様のお気に入りになったり、貴族の男性と結婚出来るとは思っているのです」


 グレタはうつむき加減に話す。

 今日はみんな言いたいことが多いのだろう。食事が進まない。

 お母様がいたら、食事に相応しい会話ではありません、という説教が始まるところだ。


 しかし、似たような悩みを持っているのは、女子だけではないかもしれない。

 私の頭の中にトリスタンとスティーブンの姿が浮かぶ。

 彼らも『グウィネビア嬢』と仲良くなりなさいと親から常にプレッシャーを受けているだろうことは、想像に難くない。


 なんとなく脱線ぎみになってきているので、軌道修正を図ることにした。


「思うのですが、去年の卒業生――、例えば1年で卒業した女子学生がどんな勤め先にいったか一目で分かる一覧表があればとおもいますの。それと、直接働いている方に来ていただいて、学生の前で話をしてもらったら、卒業後の具体的なイメージがわくと思うのです」


「一覧……ですか」


「来てもらうのですか?」


 ノーラとグレタは、ぽかん、としている。

 一番、反応してくれたのはガウェインである。


「あの、来てもらうのは無理でも話を聞いて、学園広報のようにまとめるのはどうでしょうか?」


「今回の学園長の記事のようなかんじですか?」

 

 グレタが質問すると、ガウェインはうなづく。


「実は、今、兄に相談しているのです。家系でない者で騎士になった人や、逆に家系から騎士以外の道を選んだ人を紹介してほしいと。個人的にそういった方と話ができればと思っていたのですが、学園広報を見ていて、あんな風に記事にして貼り出せばいいのではないかと、考えていたのです」


「確かに記事にするのはよいと思いますわ。ルイスさんの許可があればよいのですけど……」


 グレタが控えめに賛同する。


「グウィネビアさん、学生の勤め先を知りたければやはり、学園職員に聞くべきだと思います。私も何度か仕事を紹介していただいたんですけど……」


 ノーラの話によると、専門の職員が学生を呼び出し職の話を持ちかけることがあるらしい。


「3年で卒業する者でも、1年の時に呼び出されて職が決まることもあるんです」


 内定早すぎである。

 超売り手市場ということか。


 グレタは他の広報部員と話をして見ると言ってくれた。

 私は学生に務め先を斡旋するという職員と話すことになった。


「本当は教師ではないのですけど、学生は皆、カリスタ先生ってお呼びしているんです」

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