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グウィネビア様、下世話な話で盛り上がる

 私がソフィアからサイモンとの馴れ初めを聞き出している間、トリスタンとサイモンも同じことをしていたらしい。


 トリスタンと私は1年棟の談話室で、寝不足に悩まされながら昨日、それぞれが聞いた内容の答え合わせをしていた。

 例によってまだ早いので談話室のソファに座っているのは私とトリスタンのみである。


「サイモンはさ、早い時期からソフィアのことが気になってたんだって」


「でもソフィアは嫌われてると思ってたのね」


 時々、サイモンの視線を感じていたソフィアは、仕事をこなせない自分への非難だと感じていたらしい。


 実際は逆でサイモンはソフィアの仕事ぶりに感心していたのだ。

 一方でソフィアの様子がおかしくなっていくのにも気づいていた。


「君がアニタと話しているのをボンヤリと眺めてたってさ」


「気がつかなかったわ」


 私はソフィアを友人のように思っていた。そのつもりだった。しかし、彼女の変化に気が付かなかった。

 私とソフィアはなんでも話せる間柄――、ではなく明確な上下関係があった。

 結局のところ、自分の感情のはけ口として彼女を利用していただけではなかったか。


 いつか、私が本格的に主人として多くの人間の上にたったとき、人心を掌握しきれるのだろうか?

 ランスロットは――、常に寵を得ようとする人間に溢れているランスロットは、どんな風に対処しているのだろう。

 相談してみたいが、今はそれどころではないだろう。


 サイモンにはソフィアの不安定さの理由が分からなかった。


 以前、私がカードを渡し、ソフィアが泣いてしまった時も、本当なら厳しく諌めるつもりだったらしいが、あまり彼女を追い詰めるのは良くないと思い、強い言葉をかけるのは止めたそうだ。

 その代わり悩みがあるなら話してほしい、と声をかけたのだが、彼女は首を振るだけだったという。


 それでもサイモンはソフィアに声をかけ続けた。

 慰めでも、叱咤激励でもなく、日常的な話題をひたすら振り続けた。


「色々、話しかけたけど反応が良かったのは、仕事でヘマした話だったってさ」


「ソフィアは仕事の自信がなくして、サイモンに引け目を感じていたから、ちょうど良かったかもしれないわね」


 2人の仲が大きく変化したのは例のダンスだった。

 ソフィアは人生で一度も踊ったことがない。主人にみっともないところを見せたくないソフィアは、踊ることを固辞しようとしたが、結局サイモンのリードで踊ることになった。


「ダンスも初めてだったんですが、その……男性があんなに近くにいるというのが……」


 あの瞬間を思い出したのか、ソフィアが顔を赤らめ、震えながら言ったのだ。

 結果的によかったものの、本気で苦手な相手だったら洒落にならない事態である。

 私は2度と人にダンスを強要するまいと誓ったのだ。


 ソフィア曰く、サイモンのリードは気遣いに溢れていた。初めて踊ったにも関わらず、不思議なほど踊りやすく、心地よかったという。


「優しい人なのだと分かりました。嫌われてるかもしれないけど、気遣いの出来る人なのだと」


 この期に及んでも嫌われていると思うのは相当鈍い、というか頑固である。

 しかし、このダンスで頑ななソフィアの気持ちはほぐれたのか、自分の想いを吐露することになったのだ。


「ダンスも踊れないし、外国語も話せません。いつかグウィネビア様が社交界デビューされましたら、侍女として宮廷に連れて行くのに相応しい振る舞いを知らない私は足手まといになります、そう言いましたらサイモンが……」


 それなら僕が教えると、ダンスも立ち居振舞いも言葉も、ソフィアが望むものを全て教えると、サイモンは言ったのだ。


「君に僕の全てを教えてあげよう、さあ、手をとってくれたまえっ」


「そんな気持ち悪い言い方しないわよ、サイモンは」


 朝っぱらからテンションがおかしくなっているトリスタンをたしなめていると、セシルとエルザがやって来た。


「2人で何、盛り上がってるの」


 セシルが聞くので、お互いの侍女と従者が結婚することを伝える。


「それが、そんなに楽しい話題なの」


 セシルは理解出来ないといった顔をしている。


「子どもの頃からずっと一緒だったのよ。いつも側にいてくれたの。少し年上だから姉みたいなかんじなの」


「ふうん」


 セシルはやはりよく分からないようだ。


「お姉さんみたいな感じ、分かるわ。私の侍女もそんな感じよ」


 私の言葉に反応したのはエルザだった。

 冬にセシルの家に付き添って来ていた女性のことだろう。


「あの人が色々教えてくれるから、なんとか首都の令嬢っぽく振る舞えるの。実は2番目のお姉様と同学年だから、ほんとに姉が増えた感じよ」


「学園の友だちが侍女なの?」


 1年で卒業した彼女はしばらくコンパニオンをしていたらしい。エルザの2番目の姉が卒業と同時に結婚する際、侍女となったそうだ。


「ねえ、それってどうやって決まったの? 紹介?」


「さあ。そこまで聞いたことなかったわ」


 私の唐突な食い付きにエルザは引き気味だが、構わず話し続ける。


「お願い、聞いてみてくれない? 1年で卒業する学生にどんな就職先があるか、調べてるところなの」


 いいわよ、とエルザは約束してくれた。


「あなたたちはいいわね。忠実な侍女がいて」


 エルザの隣でセシルが暗い目をしていた。

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