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グウィネビア様、新しいダンスに感動する

 ビビアンの話を詳しく話を聞きたかったが、すぐに練習が始まってしまった。


 ロビン先生は、今からするダンスは宮廷のダンスではないこと、地方の農村に伝わるダンスが元になっていることを学生たちに伝えた。

 ロビン先生、以前よりちゃんと説明してくれるようになった。良い傾向だ。


 群舞はゆったりとしたタイプではなく、かなりテンポが速い。ステップとターンがふんだんに盛り込まれている。

 ロビン先生は、激しい動きを要求しつつ、静止している時には一瞬のブレも許さない。静と動のメリハリの効果で、忙しない印象はない。


 まだ初日なのに、みんなよく動く。ロビン先生の厳しい声にもへこたれない。

 選ばれた学生たちはかなり身体能力が高い。そういう人選なのだ。


 その中で郡を抜いていたのがリリアとパーシーだ。

 リリアはロビン先生のイメージを形にしていくのが上手い。というより、リリアの動きはロビン先生のイメージさえ、越えているのだろう。


 パーシーはリリアほどの自在に動けるわけではないが、長年培った独特の動きがあり、ロビン先生はそれをある程度尊重するつもりのようだ。


 振り付けはまだ決まっていない。

 ロビン先生は個々の学生の動きを見て少しづつ振り付けを変えていく。

 覚えた動きをすぐに変えられてしまうし、やったことのないステップやターンを要求される。が、学生たちはよく動く。

 ロビン先生にくらいついて離れない貪欲さがある。



「授業と全然違うよね?」


 トリスタンはとまどいながら言う。


「ねえ、私、こんなの無理だわ……」


 エルザが震えている。


「大丈夫よ。エルザが踊るのは宮廷ダンスだから、授業と大きく変わらないわ」


 ロビン先生は1人1人の個性を見ながら振り付けをしていくタイプなのだろう。群舞に集められた学生とエルザとは求めるものが違うはずだ。

 しかし、そうなると代役にトリスタンをたてての振り付けは難しくなる。やはり、ランスロットと合わせなくてはならないだろう。


 やがて群舞は男女に別れ、舞台の端でそれぞれポーズをとったまま静止する。

 両端からリリアとパーシーが勢い飛び出し、ターンとステップを繰り返しながら交差する。


(高い)


 もはやステップというよりジャンプといった方がいいだろう。

 パーシーの動きは森の人のダンスに近かった。

 リリアも驚くほど高く跳躍する。

 2人の身体から溢れんばかりの喜びが迸る。

 若く、軽やかで、力強い。


 次の組が飛び出し、ターンとステップで交差する。いい動きだが、最初の2人ほどのインパクトはない。

 ロビン先生は全ての組の動きを確認したあと、順番を入れ替えた。リリアたちを中心に据えるつもりだ。妥当な判断だろう。


 ダンス用の小さなバイオリンを引きながら、ロビン先生は細かく指示を飛ばす。

 時には、自ら踊ってみせる。

 まだ完成形ではないものの、形としては纏まったところで練習は終了した。


 しかし、群舞がテンポの速い、激しい動きなら、私のダンスはゆったりの方がいいのかもしれない。

 頭の中で自分のダンスを作ろうとするが、さっきの群舞のインパクトのせいでイメージをうまく掴むことができない。


 踊っていた学生たちは椅子にもたれ掛かるように座っている。

 皆、呼吸も荒く、肩や胸が上下していた。

 ダンス授業ならまずあり得ない光景だが、ロビン先生も特に注意はしない。


(うーん、部活)


 懐かしい光景を思い出す。


「こんなダンス初めて見ましたわ。舞踏譜を元にしてますけど、音も動きも随分違いますわね」


 私は興奮気味にロビン先生に話しかけた。


「2、3年と比べてどう思うかね」


「比べて……ですか?」


 正直、比べるという発想がなかった。

 舞踏譜作りのために、2、3年のダンスも見ているが、向こうは宮廷ダンスである程度、型が定まっているのだ。自由な発想のこのダンスとは違いすぎる。


「そうですね……印象としては……明るく溌剌としていて、2、3年生のような洗練や端正さはないのですが、もっとこう……、感情に訴えかけるものがあります」


 ダンス中のリリアやパーシーの笑顔は心からのものだった。最初は固い表情や、無理な作り笑いをしていた他の学生も、次第に自然に笑みがこぼれていた。


「自由気ままに、ただただ楽しく踊っているように見えるのに、技術は高いのが分かります。荒いところは気にはなりました」


 粗削りも魅力かもしれないが、あくまで作品としてのダンスだ。自分たちが楽しければそれでよい、という訳にはいくまい。


「聞いたかね、グウィネビア嬢の言うとおりだ。君たちの強みは高い身体能力と感情の解放にある。優美さや、端正さはない。大人としても魅力も。だか勢いがある」


 いや、そこまで言ってない。


「洗練された2、3年に伍するには君たちのその勢いを殺してはならない。ただし、雑になってはダメだ。常に観客を意識しなさい。観客の方に心を向けなさい」


 学生たちは、「はい」と力強く返事をする。なんだか体育会系のノリでちょっと面白いのだが、隣のエルザは固まっていた。

 ロビン先生、授業の1.5倍くらい厳しかったし、要求水準も高いのだ。

 青ざめるのも無理はない。


「あなたの練習の時も私たちがいるから、ね」


 一応、なぐさめておいたが、効果はあるだろうか。


 しかし、ダンス自体が完成していない上に、これまでの記号では表しきれないターンやステップがある。舞踏譜作りは難航しそうだ。


 私は、持ってきた筆記帳に即興でステップの記号を作った。

 新しいステップ。

 とりあえずリリアステップと名付けた。

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