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グウィネビア様、一喜一憂する友人に付き合う

 学園発表会の内容は正門の掲示板に大きく貼り出された。

 既に各学生には個別に教師から話がついているのだが、改めて公式に発表されたのだ。

 発表されたのはダンス、朗読、外国語、楽器演奏の出演者だ。

 その他にも絵画、研究発表などがあるが、それらは発表会が近づくまで調整が続く。

 しばらく学園はこの話題でもちきりになるだろう。


 発表には悲喜こもごものようて、セシルはカップダンスに選ばれなかったことがかなり堪えているようだ。


「エルザ、エルザ、ごめんなさい。私、悔しいし、悲しいの。グウィネビアなら仕方ないわ。でも……。エルザ、酷いこと言ってごめんなさい」


「いいの、セシル。私も同じ事を考えていたわ。先生にどうして私なんですかって聞いたのよ。でも面白いからとかなんとか、意味が分からないわ。パトリス先生から刺繍を頼まれた時はすごく嬉しかったけど、なんでよりによって……」


 食堂はちょっとした愁嘆場となっていた。

 エルザはセイラらと共に刺繍のタペストリーを作ることになっている。

 寄付係で仕事をしている時に、2人の裁縫技術の高さに気付いたパトリス先生が刺繍で作品を作ることを提案したのだ。

 得意の刺繍の腕が生かされる機会を得て、2人ともとても喜んでいた。


 その後、ロビン先生に呼び出されたエルザは、青ざめた顔で戻ってきたのだ。


 青ざめている人物がもう1人、セスである。

 彼は南方の言葉でスピーチすることになった。これは始めての試みであり、1年で選ばれたのセスのみなのだ。

 南方の主要な言語は2年で取り入れられているが、1年ではまだ習わない。セスが選ばれたのは、父親の仕事柄、南方の人間との会話に慣れているからである。


「独学で学んだ言語が評価されたのよ。名誉なことだわ」


「会話ができるだけだよ。みんなの前でスピーチなんてそんな……」


 会話が出来るのがすごいのだ。もう少し自信を持ってほしい。


 その他、スティーブンはバイオリンの合奏に選ばれたがソロになれなかったことで、父親の男爵に怒られたそうだ。


「ソロなんて譲るよ。セシルは実力だけど、僕はどう考えても家柄だしね」


 トリスタンが首を降る。彼もバイオリンのソロパートがあるのだ。


 大役に青ざめる者、欲しい役が得られず失望する者がいる中、満足しているのがジョフリーだ。


「僕は朗読だ。絶対、英雄王をやる。先生も好きに選んでいいって言ってくれたからな」


 鼻息でこちらが飛ばされてしまいそうなくらい興奮している。王妃様のお茶会の時からの目標だったのだ。無理もない。



 とりまとめ役の定例会でも発表会の話で持ちきりだった。


「発表会の花形はやはり、ダンス、朗読、外国語、演奏ですね。その中でもダンス、特にカップルダンス。毎年、誰が選ばれるかみんな気にしてますよ」


 特に今年はランスロット殿下がいらっしゃいますしね、とグレタが言う。

 そして室内の視線はランスロットに向かう――と、言いたい所だが今日はいない。

 かなり珍しいことなのだが、ランスロットは1日欠席なのだ。


「1年のカップルダンスにだれが選ばれるか賭けてたんだ。やられたよ。まさかエルザ嬢とはね。いや、失礼」


 オスカーが笑う。

 まあ、確かに順当にいけば私かセシルだろう。


「僕は君のカップルダンスが見たかったよ。ダンス教師たちを虜にしたっていうね。でも、ダンスに名前があったけど、何するの?」


「トリスタンのリュートに合わせて、忘れられたダンスの再現をします。アレンジはしますけど」


 私はオスカーに説明した。

 オスカー以上に反応を示したのはノーラだった。


「楽しみですわ。今年の1年はこれまでと違いますね。群舞の生徒は大半が平民のようですし」


「これまでと、そこまで違うのですか?」


「ええ、ダンスは貴族が選ばれます。貴族以外なら名門の出になりますね」


 ダンス以外も朗読、外国語、ソロ演奏などはほぼ貴族で絞められという。

 ちなみに楽器の上手い平民学生は、ダンスの演奏に選ばれる。このポジションを狙う平民学生が多いとう。


「グウィネビアさんのダンス、カップルダンスの意外な人選、平民の群舞……ロビン先生は野心家ですね」


ノーラが言う。

ロビン先生はやり方はかなりこれまでと違うようだ。


「ふっ、毎年1年は退屈だからな。少々、変わったことをするほうがいいだろうよ」


 ルイスが小馬鹿にしたように言うが、去年の1年というと――、


「君、1年のカップルダンスだったじゃないか」


 オスカーが投げ掛けた言葉に、ルイスは返答しなかった。変わりに、軽く睨み付けたあと、目を反らした。なんだろう、ひどく屈託したものを感じる。


 再び、発表会の話題に戻る。


 ガウェインはホレスと共に、剣術大会にエントリーされた。通常、騎士科の2、3年から選ばれるのだが、1年でも優秀な学生が選ばれることがあるらしい。


「本選は4日目になりますので、なんとか頑張って予選を勝ち進むつもりです。それで、その、もし本選に行くことができましたら……」


 そこまで言ってガウェインは黙ってしまい、周りを見回すと「あとで」と、だけ付け加えた。


「僕とノーラは研究発表だよね」


 かなり、不自然な割り込みでオスカーが話題を変えた。ルイスは朗読劇。グレタはダンスでフルートを演奏らしい。


「ランスロットはいないけど、じゃ、始めよう」


 オスカーの声で、雑談は終了した。


「まずは報告、図書資料部と学園広報部が正式に認められた。以前話した通り、図書資料部は僕とノーラ、広報部はルイスとグレタが責任者となる」


 発足したての両部は、最初のみ、とりまとめ役が責任者となり、ゆくゆくは独立した組織になる予定だ。

 なんだか、異世界の学園に近づいてきて少しどきどきしている。


「図書資料部では、すでに図書館の石板を書き写す作業に入っています。一部は発表会までにまとめて公表する予定です」


「広報部は、しばらくは発表会関連の記事を書くつもりだ。好評だった国王夫妻訪問記も含めて、発表会にだすつもりでいる」


 ノーラもルイスもやる気に漲っている。


 図書資料部、学園広報部より先に立ち上げた寄付係の1年は、ガウェイン、ホレス、ビビアン、スティーブン、パーシーとなった。ガウェインとホレスは引き続きとなる。

 スティーブンがこの手の仕事を引き受けるのは意外だったが、最近父親のロス男爵がかなり厳しいらしく、少しでも学園での立場をよくしたいようだ。


 もう一つ、とりまとめ役で提出した『提言』は検討中となった。内容が内容だけに即答もできないのだろう。


「両部の立ち上げと寄付係の新メンバーの発表、それと『提言』が検討中である、という内容を掲示板に貼り出すことにする。もっとも今回は発表会の掲示があるから、みんな、そっちに気をとられるかもしれないね」


 オスカーが笑いながら言った。




 ダンス練習初日は、群舞だった。私は舞踏譜とスケッチを書くために、トリスタンとともに見学をした。ランスロットはいないが、エルザも見学することになった。


「最近、ランスロットって授業が終るとすぐに帰るじゃない? 通しで練習できる日があるのか心配なのよ。ただでさえ、私が足を引っ張る可能性があるのに」


「途中まではトリスタンに代役させたらいいわよ」


 エルザの不安に、私はなんて事ない風を装ったものの、ここしばらくのランスロットの様子を思うと、どうにも気になって仕方がない。


 練習場につくと、簡素な私服を着たリリアとパーシーが来ていた。練習着なのだろう。ビビアンも一緒だ。


「私、選ばれるなんて思わなくて」


「あ、僕も」


 2人は元気にぴょんぴょん跳ねるような勢いで、話しかけてくる。大役を任せられて青ざめるようなそぶりも見せない。


「ダンスや朗読は貴族や、平民でも上流の人ばっかり選ばれるって聞いて、私のほうが緊張してるんです。でもこの2人は余裕なんですよ」


 ビビアンは苦笑いだ。


 ビビアンとエイブラムは、カリグラフィ作品を仕上げることになったらしい。カリグラフィは簡単に言えば文字を美しく書く技術であり。書道のようなものだ。

 さらにビビアンは魔法陣も書くらしい。私たちが魔法陣を書いても何の効力もないが、魔法科に進むなら必須となる。


「ビビアン、魔法陣の練習もしてたの? もしかして2年からは魔法科に行くつもり?」


「あの……、えっと……」


 私の質問にビビアンは答えようとしない。

 まだまだ先のことと考えているのか、それとも考査で頭が一杯なのか。


「いえ、私、1年だけなんです。1年で卒業します」


 今度は私の言葉が出なくなった。

 変わりにパーシーが口を開く。


「ビビアン、どうして?」


「最初から、1年って決めてたんです。すいません、言ってなかったですね」


 ビビアンは笑いながら言った。

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