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グウィネビア様、冬の予定をたてる

 考査も終わり授業がなくなっても、学園は閉鎖することはなく常に開いている。

 私たちは、お茶を飲んだり、あまり遠くない遠乗りに行ったり、ランスロットやトリスタンの手合わせで気絶した女子学生を介抱したりと、それなりに楽しく忙しく過ごしていた。


 今、一番の話題は冬の過ごし方についてである。長期の休暇になるが、地方の者が家に帰ることはほとんどない。時間とお金がかかることはもちろんだが、首都で新年を祝う祭りに参加するためだ。

 各領地で新年の祝いを行うが、首都の祭は格別だ。何より王宮バルコニーに王族が勢揃いするのはこの時だけである。

 庶民は王宮の前の広場にあつまり国王陛下の新年の祝いの言葉を聞くのだ。貴族は貴族街から貴族専用の宮殿に入り、そこのバルコニーから王族の姿を拝見することになる。


「私ね、お姉様たちと一緒に広場で陛下のお姿を拝見しようと思うの」


 エルザの言葉に私たちは様々な反応をする。


「君なら宮殿のバルコニーにいてもいいはずだ」


 と言ったのはジョフリー。


「庶民と一緒なんて危険じゃない?」


 これは、セシル。


 私とトリスタンとセスは、「羨ましい」の一択だ。


 皆の反応の違いに、エルザは思わず吹き出した。


 私たちは食堂の中庭で昼食をとっていた。すでに授業はないので学生の数も少なくなってはいるが、皆、学園に来てなんやかやとしているのだ。

 午前中、私は図書館にいた。セシルとエルザ、そしとセスは、ジョフリーとトリスタンの手合わせの応援をしていた。ちなみに2:1でジョフリーの勝利だったらしい。


「両親と一緒なら、伯爵家令嬢でバルコニーなんだけどね……。姉夫婦と一緒に、広間で宮殿を見ることにするの」


 エルザは簡潔に説明する。エルザ姉妹と領地の家族とは絶縁状態だ。


「でもね、私、すごく楽しみにしてるの。毎年平民側の入り口がどんどん華やかになっていってるんですって。見本市もあるみたいだし。あ、宮殿のバルコニーからあなたたちが見えたら手を振るわ」


 新年の挨拶はまず、貴族が宮殿のバルコニーに現れる。別に紹介があるわけでもないが、庶民にとっては貴族を見学するのも娯楽の一つらしい。ひとしきり貴族を眺めまわしたら、メインの王族の王宮バルコニーから登場となる。

 子供の頃は広場に集まる平民の姿が物珍しくそれなりに面白いイベントだったが、どうも面白おかしく観察されているのは自分たちの方だと気がついた時から、退屈な時間となってしまった。

 王族はともかく私たち貴族なぞ猿山の猿扱いだ。


「宮殿のバルコニーって退屈に感じるのよね。私も平民みたいに見本市に行ってみたいわ」


「僕も見本市行きたいなあ。屋台があってさ、揚げパンが売ってあるんだって。あと串焼きを食べながら歩くのやってみたいね」


 私の言葉に反応するかのように、トリスタンが言うと、「やめとけ、腹を壊すぞ」と、ジョフリーが言う。経験があるのだろうか。


「僕は元々あっち側だったからさ、バルコニーに出るわけじゃないのに、宮殿って意味ないよね」


 セスが悲しげに言う。貴族は宮殿に集まるが、バルコニーに出ることが出来るのは伯爵以上で、新興貴族の男爵家であるセスやジョフリーは、宮殿の小窓での見学となる。

 セスとは正反対にエルザは愉快で堪らない様子だ。今から新年が楽しみなのだろう。


「みんなの変わりに私が見本市に行ってあげるわ。あとランスロットさまーって叫ぶつもりよ、平民の女の子みたいに」


 何それ、面白そう。


「いいわね、私も叫ぼうかしらバルコニーで」


「僕もやりたいランスロットさまーってやりたい」


「もう、バカなこといわないで」


 ふざける私とトリスタンをセシルがたしなめた。


「でもエルザ、宮殿に入らないなら次に会えるのっていつかしら」


「そうね……冬はお姉様方と過ごすことななりそうだわ」


「私もよ。屋敷で挨拶ばっかりしてると思うわ。従兄弟が来るんだけど、すごく騒々しいのよ。子どもの世話なんて、ぞっとするわ」


 セシルがほっとため息をつく。


「大人なら、謁見や宮廷ダンスもあるのにな。学生の身分がうらめしいな」


 ジョフリーの言うとおりだ。

 学生の身分はひどく曖昧だ。カルタや鬼ごっこするほど子どもではないが、社交界デビューもしてない。学生を社交の場に連れていくもいかないも周囲の大人の判断次第だ。


「僕は王宮に連れていかれるみたい。ランスロットにも会えないし、大人の社交に混じるわけでもないし……、混じりたくないけど……」


 謁見や宮廷ダンスをする自分を想像したのだろうか、セスはぶるっと震えた。


「僕も王宮だね。父上の仕事仲間に挨拶しなきゃな。で、君らはどうするんだ?」


 ジョフリーが私たちに尋ねる。

 私とトリスタンはお互いを見る。そういえば特に宮殿に行くような話は聞いていない。トリスタンも同様のようだ。


「多分行かないと思うわ、お客様の接待もあるしね。セシルは?」


「行かないわ、あのね、グウィネビアもエルザも行かない方がいいわ」


「なんで?」


 セシルの言葉に、エルザと私は同時に反応する。


「あのね、えーっと、何って言ったらいいかしら……」


 セシルはかなり言葉を選びながら、慎重に話し始めた。


「うちのお母様がね、来年の夏にとある男爵家の招待を受けてるの。そこに私も行くはずだったんだけど、お父様が絶対ダメだって……。学生の身分ではだめって」


「あら、どうして」


 セシルの話に、エルザが疑問を投げ掛ける。

 私はというと、どうも聞いたような話なのでピンとくる。トリスタンも得心顔だ。


「その男爵には独身の息子がいるってとこかな」


「そうなの。トリスタン、よく分かったわね」


 セシルの言葉にトリスタンはこっちを見てにやり、と笑う。


「私たちはダメで、セスやジョフリーならいいの?」


 エルザは納得しかねるようだった。


「僕らがこの時期、親について回るのはさ、将来の仕事のためだからだよ」


 セスの言葉にジョフリーが頷く。


「長男じゃない、土地持ちでもない。学生の時分から身の振り方を考える必要があるのさ」


 言いながらジョフリーは、長男で土地持ちのトリスタンを睨み付ける。トリスタンは困ったように微笑むだけだが、今日も居間で泣くのだろう。


「男子学生なら、そう言うことね。そして女子学生なら――」


「嫁ぎ先探しね」


 セシルの言葉を私が引き継ぐ。


「特に最近じゃ、南の方が大勢いらっしゃるでしょ。本当かどうか知らないけど、南の国の貴人が花嫁探しをしているって話よ」


 セシルの言葉に、私は少し前の南方の教師たちとの食事を思い出す。あれは、そういうことなのか。あるいは、ジリアン先生たちの気の回しすぎか。


「お父様は冬の間、私を外にだす気がないのよ。騒々しい子どもと退屈な大人の相手だけよ。ひどい冬!」


「なら、私とトリスタンがあなたのお宅に訪問するわ。学友なら男友だちも大丈夫じゃないかしら」


 私の提案に他のみんなも賛同して、新年が開けたらセシルの屋敷に行くことになった。



 昼食が済むととりまとめ役の集まりに出席した。普段ならまだ昼休憩の時間である。多忙のランスロットに合わせてこの時間に集まったのだ。

 定例会ではないが、いくつかの案件を冬に入る前にまとめておきたくて、1、2年のとりまとめ役の主張で実現したのだ。

 オスカーは「君ら、働き者だよね」と笑いながら了承してくれた。ノーラが、「あの人と一緒でなかったら役を降りていた」と言うくらい、オスカーの人柄はいいのだが、多分仕事のできない人なんだと思う。


 寄付係を作ったことで、学生で自主的に動く組織をもっと作れるのではないかと考えた私たちは、新たに図書資料部と学園広報部を立ち上げの計画をしている。

 図書資料部は2、3年からの要求が多かった図書館資料の補修、保存等を学生が行う組織である。

 そして学園広報部は、国王夫妻訪問の記事からの思い付きで、学園で起こった出来事を定期的に記事にして広報することが目的だ。

 学園に申請して、通れば休み明けにも部員を募る予定である。


「私、もう何人か声をかけてあるんです」


 ノーラがうれしそうに言う。よほど図書館に思い入れがあるようだ。


 広報部は私の提案だったが、意外にもルイスが気に入ってくれたのでまかせることにした。


 そして、もう一つ。

 以前私が作った『提言』を手直しして、学園に提出することにしたのだ。

 すでに実現したものは削除し、対象を全学年とした。そして怪我や病気の学生のための休学制度を設けること、個人授業の無料化を盛り込んだ。


やるだけのことはやった。そんな思いで私は長期の休暇に入った。

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