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グウィネビア様、●文社の回し者みたいなことを言い出す

 夏の気配が完全に消え去り秋が深まるころ、学園の1年生の社交の幅は広がる。


 ある程度の乗馬技術を認められた学生は、教師の許可を得て、定められた場所のみであるが遠乗りを許される。(ただし学校職員の付き添いが必要)


 剣術も型を習得した者は、手合わせの許可がでる。そうなると練習場を使うことができるようになるのだ。ただし、男子のみである。女子は手合わせをさせてもらえない。


 楽器をある程度習得した学生は、音楽室で仲間と共に室内楽演奏を行う。


 授業が終わると、これまでは食堂でお茶を飲みおしゃべりを楽しむだけだった時間に、遠乗りや手合わせ(女子学生は応援)、演奏を楽しむことが出来るようになるのだ。


 が、私はそんな社交を楽しむことはなかった。舞踏譜、人体デッサン、そして冬の考査対策。


 今、私はセス、エイブラムらと共に座学のまとめを作っている。私とセスが作ったまとめを他の学生が書き写すのだ。複数の平民学生が集まり、書き写し作業をやっている。

 基本的に貴族には必要ないのだが、セイラら基礎学力に問題のある貴族学生も参加している。

 彼女たちの学力が、個別授業が必要ないくらい向上すれば、教師も空き時間に平民学生を見てくれるかもしれない。


 そしてここに、なぜかトリスタンも加わっている。ジョフリーに剣術練習に誘われないためだ。


「あいつ、練習場で僕を潰すつもりなんだ。女の子が見てる前でさ」


「いいじゃない潰されたら。手合わせができるだけでもうらやましいわ」


 どうも男子学生にとって手合わせとは、剣術の練習でも男同士の社交でもなく、女の子にきゃーきゃー言われるためのものらしい。

 騎士を目指す学生以外はこんなものである。


 そんなわけで今、私は授業の合間や昼休憩を利用して教師たちから、冬考査の傾向と対策を聞いて回っているのだ。


「傾向と対策……ですか」


 エイブラムは戸惑いながら、聞き返す。


「そう、各教科でここだけは習得してほしいっていうポイントがあるはずよ、そこを直接先生に聞いて回ってるの」


 ノーラ、グレタからそれぞれの座学の詳細を聞いたのだが、教師の変更や授業内容自体の変更も多く、先輩の知識が役に立たないことも多いのだ。


 実技から弓術、馬術、裁縫がなくなったように、座学の中にも消えるものがある。

 薬草の知識は基礎魔法学の一部となった。かつては貴族の婦人の必須教養だったが、今では魔術師や医師、薬師の専門分野となっているためだ。薬草について詳しく学びたいなら2年で魔法科に進む必要がある。

 一方、外国に関する知識の重要性は以前より増え、1年生で習得すべき外国語の種類も増えている。

 私が独学でやっていたバール語も、来年は1年のカリキュラムに入る可能性があるという。うらやましい話だ。


「グウィネビア、写し終えたわ」


「ありがとう、セイラ」


 セイラからまとめを受け取って確認する。初めて手紙を貰った時とは別人のように整った文字だ。相当、努力したのだろう。


「ねえ、セイラ、個別授業を受けてるの?」


「え、ええ……」


 セイラは気まずそうに小さく返事をする。


 教師は授業の遅れのある学生を個別に指導することがある。試験に合格した平民学生と違い、貴族学生の中にはセイラのように読み書きが覚束ないものもいる。そういう学生は早い段階で個別に指導を受けるのだ。そうしないと考査に間に合わない。

 以前から全員学園に入る貴族に何故試験が必要なのか疑問に感じていたが、学力に問題のある貴族をあぶり出すには有用な手段だと最近になって分かった。


 学園で全ての貴族に必要な学力と教養を授けなくてはならない。しかし、入学時の貴族の学力、教養には個人差がありすぎる。教師は貴族学生のフォローに時間をとられ、平民は後回しにされる。

 授業で教師たちが貴族ばかり相手にするのも、同じ事情だ。もちろん平民学生を軽んじている面もあるが、教師も必死なのだ。貴族学生全員に学力と教養を授けなくてはならないのだから。

 正直、入学前の教育格差は国の力でもなければ解消できない。




「15歳は遅すぎませんか? 7歳……、10歳から寄宿舎などで教育できないのでしょうか」


 私は夕食の時に父に尋ねた。

 父が理事になってから、学園の話を食事中によくするようになった。母からは晩餐に相応しい会話ではないと言われるが、父に会える時間は限られているのだから仕方ない。


「さすがに、それは貴族たちが許さないだろうねえ。子どもを取り上げるような者だよ」


 かつて貴族全員入学が決定した際も、相当の反発があったらしい。各地の貴族から王権の強化と貴族の弱体化を狙っているとの声があがった。10歳や7歳などと言ったらどれだけの反発があるか分からない。


「親から離すのがよくないなら、通える所にある平民の学校に行けばいいのではないですか。いっそ国中の子どもを学校に通わせて読み書きを覚えさせるようにしたら、 布告や伝令などもよく伝わるでしょうね」


「君は大胆なことを思い付くんだね」


 隣で聞いていたトリスタンが、会話に入ってきた。

 私の提案は異世界の知識を元にしたものだ。

 今、この世界で理解してもらうのは難しいだろう。


 15歳で3年間学べる貴族の子女は、特別扱いを受けている。私はそれを悪いことだと思わない。

 問題はその恩恵を受けるのが貴族のみ、という点だ。そして年齢が遅すぎる。

 国中のすべての子どもが7歳くらいから同じ教育を受けることができたら……。

 異世界の記憶を持つ私の妄想だろうか。

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