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グウィネビア様、リリアの笑顔を見る

 さて、第2回1年とりまとめ役会議(名前がないので勝手に命名)である。集まった3名の怒りのオーラで個室はすごいことになっている。


「自分は……平民とりまとめ役でありながら、このような非道にまったく気がついていませんでした」


 ガウェインの怒りはまず自分に向かっているようである。


「ガウェイン、あなたが知らないのは仕方がないのよ。基本的に女子寮で起こったことだし、 寮自体が今まで無視されてきた存在だったのだしね」


 グレタもノーラも寮に関しては何も知らなかった。意見書箱には寮からの訴えはなく、寮監の噂も聞いたことがないという。

 意見書箱は記名が必要だ。何か訴えれば寮監に知られることになる。おそらくそれを恐れたのだろうと言うのが、エイブラムたちの考えだ。


「寮で起こっていること、そして座学の問題については、とりあえず後回しだ。最初に意見書箱を見てみよう」


 ランスロットが感情のこもらない声で話す。どうやらランスロットは怒りがある一点を越えると、無になるらしい。新たな発見である。


 私たちは意見書箱を開け、中の紙を見る。

 数は多いが、同じような内容も多かった。

 授業への苦情、次の臨時売店の早期開催、または売店の常設。楽器、教科書の無償貸与……、私たちは同じような意見をまとめた。やはり売店関係が多い。その中にどうにも気になるものがあった。


「ねえ、平民学生からの寮生に対する苦情があるわ」


 内容は寮生の食堂でのマナーの悪さに関してである。業者が変わって内容もかなり豊かになった食事を寮生たちが独占する勢いでとっていく、というのである。平民用の食堂は、作り置きの数種類の料理を銘々が食べる分だけとる、というセルフサービス式なのだが、寮生は大量の料理をとり、どうやら寮に持ち帰っているようなのだ。


「自分のところに直接苦情が上がっています。食堂で注意したことも何度か、あります」


「変ね……、寮も業者が変わったのよね。食事もよくなっててもいいはずなのに……」


「そのことだが、どうやら寮監たちが予算を横領していたらしい」


「本当? ランスロット、確かなの?」


「ああ、確かな話だ。実は寮監たちはアーバイン子爵の息のかかった者たちでね。以前の業者とは結託していたのだが、新しい業者になっても横領を続けていたのだ。不審に思った業者が調べて露見したというわけだ」


「……その、なんだか間抜けな話ね。業者が変わったことで用心しなかったのかしら。アーバイン子爵の影響力が削がれている状況なのよ」


「本人たちに聞かないとなんとも言えないが、彼らは余り長いこと寮に君臨しすぎておかしくなっていたのかもしれないな」


 他にも余罪のある寮監らはすでに拘束されているらしい。


「せいぜい追放だと思っていたけど、大きなことになりそうね」


「これでアーバインも言い逃れできまい、理事を辞することも内々に決まっている」


 アーバイン子爵の息のかかった者は、みな取り調べを受けることになると言う。大規模な追放劇となると、学生が動揺しないだろうか、心配である。


 寮監たちの話題はとりあえずここまでにして、再び意見書を読む。


「これは……、グウィネビアさん、あなた宛ですよ」


 そう言って、ガウェインが1枚の意見書を取り出した。

 紙いっぱいにびっしりかかれた文字。かなり乱れ、あちこちに修正の跡があり、筆跡も違う。複数の者が慌てて書いたのだ。署名はなく、ただ最初の方に『グウィネビア様へ』とだけ書いてある。


「ランスロット……大変、リリアに何かあったんだわ……」


 リリア、と言う単語に反応して、ランスロットも私に近づいて、意見書を読み始める。


「昨日の夜だわ……」


 内容はこれまで行われたリリアとビビアンに対する陰湿なイジメの詳細と、昨晩リリアが同郷の学生と口論をしたことが書いてある。

 口論の内容は紙面が尽きかけたため、かなり端折られていたが、リリアは孤児院の先生や領主との不名誉な噂への抗議をしたあと、故郷の先生へ学園での経緯を話すこと、寮でのいじめと不公平を学園に直接訴えるつもりがあると言ったらしい。

 近くにいた学生らは寮監に知らせに言ったが、寮監は現れなかった。


「昨日の夜には、彼らは拘束されていた? 寮生は何も知らないのかしら」


「おそらく、ひそかに拘束されたのだと思う。寮生は何も知らないはずだ」


 意見書の最後はかなり乱れていた。リリアとビビアンを助けてほしい、2人を守ってほしいと切々と訴えている。


「自分たちの危険を省みず、リリアたちを救おうとした子たちがいるのね」


「君なら訴えを聞いてくれると思ったんだね。グウィネビア、君がこれまでしたことが彼女たちが動かしたんだ」


 今すぐにでもリリアとビビアンの元に行きたい。寮生たちに大丈夫だよ、と伝えたい。

 そんなはやる気持ちを抑えて、意見書のまとめと回答の準備をした。


「知っているかも知れないが、売店は常設となる予定だ。有償の実技衣裳の貸与もだ。その他、楽器、教本の貸与は無償となる予定だ。寮監の追放で寮も変わるだろう。まだ確定事項ではないから、回答も検討されているぐらいしか、書けないな」


「自分は、寮生の名誉回復が必要だと思います。寮生は無作法な田舎者として他の平民学生から蔑まれてきました。私も、学生の要望で寮生たちの無作法を注意したことが何度かあります。彼らの苦境を省みず、偏見を強化し、居場所を奪う行為でした」


 ガウェインが厳しい顔で言う。


 3人で話し合った結果、寮生への苦情については、公表を控え、寮監の処分が正式に決まるまで一旦、保留ということになった。


「ねえ、リリアやビビアンに会わなくていいかしら。意見書の子たちも。皆が守られることを伝えないと……」


「すでに教師が臨時の寮監として寮を守っている。彼らにまかせよう」


 ランスロットは、落ち着いていた。数日前とは別人である。

 匿名の意見書は臨時の寮監に預かって貰うことになった。臨時の寮監は、私の知らない教師だったがランスロットが人となりを保証したので信じることにした。



 続いて授業についてである。

 寮の問題にメドがたった今、最大の難関が授業だ。

 現在、1クラスに60人ほどの学生が詰め込まれ、授業を受けている。大学の講義と思えば多すぎるとは言えない。しかし、この世界にはマイクはなく、教師の声はボソボソと通りが悪い。

 さらに前では貴族が余裕を持って座り、後ろでは平民がひしめき合っているのだ。


「後ろはまったくと言っていいほど聞こえません。自分も兄の帳面を頼っているところです。ただ教師が変わると授業内容が違ってくるので、やはり授業をちゃんと聞きたいですね」


「『提言』には、30人規模とあったね。人数を減らせば、少しマシになるかもしれないが……」


「今年の1年は間に合わないわね……」


 そもそも授業の問題は、教師の問題というより、学園、そして貴族社会の抱える問題なのだ。

 私たち学生に出来ることはそんなに多くはない。


「今、セスやエイブラムを中心に座学の内容をまとめた筆記帳を作ってます」


 当面は、これで乗りきり、全学年のとりまとめ役の集まりでも話し合いをすることにした。






「グウィネビアさん」


 明るいよく通る声が、私を呼び止める。

 振り替えるとリリアとビビアンがいた。

 とりまとめ役会議の翌日のことである。2人の様子から事態がよい方向に動いたことが分かった。

 彼女たちの後ろには数人の女子生徒。意見書の書き手たちだろう。遠慮がちに頭を下げる。


「リリア、ビビアン、お茶にしない? そちらの皆さんも一緒に」


「はい、よろこんで」


 リリアがはずむような声で答えた。

 これで寮の問題が片付いたわけではない。彼女たちはこれから、いくつも問題にぶつかるだろう。それでも、今はただ、リリアたちとこれまでの通り付き合えるのが、うれしかった。

いじめ問題、解決しました。

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