グウィネビア様、ポンコツ化防止のために予習復習を頑張る
主人公がひたすら勉強してるだけの回です。
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平民竹中れいじから令嬢グウィネビア様へーー。
ポンコツ平民から完璧貴族に華麗なる転身である。すばらしい。
ところでゲームのグウィネビア様がどれくらい勉強できるのか正直分からない。
ヒロインがある程度ステータスあげなきゃ友情イベントがおこらないところを見ると優秀なのは間違いない。
ゲーム内だと、ヒロイン、王子、グウィネビア様の順じゃないかと思う。
学園トップ3くらい?
超優秀なのに恋愛しまくってるヒロインはバケモノだな。
グウィネビア様、この色ボケに負けたんだから、そりゃまあキレるのもわかる。
ヒロインがどんなキャラかいまいち分からないけど来たるべき対決(?)のときのためにもグウィネビア様をポンコツにするわけにはいかないのだ。
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最初こそ私の指示に首を傾げたソフィアだったが、すぐに準備をしてくれた。正確にはソフィア→侍女頭→お母様→執事→お父様→執事……みたいなことがおこっているわけだが。
2日の安静中に過去の日記を読み、この国の概要、学園のカリキュラムの確認などをざっとしてみる。
過去の記憶が甦ったと言ってもグウィネビアとしての記憶が上書きされたわけではない。性格、能力ともにこれまでのグウィネビアであることは間違いない。
しかし殿下との婚約話を忘れていたように肝心な時に肝心な事柄が抜け落ちてしまう可能性がある。
社交の場での凡ミスは『薔薇の君』にとっては致命傷である。
そして学園では何がおこるのか分からない。勉強に手がつかず成績を落とすわけにもいかないから、カリキュラムをできるだけ早く進めておきたい。
2日の安静が終わると、実技、座学の教師陣が集められて集中講義が始まった。いくつかな講義ではすでに学園卒業レベルであると太鼓判を押され、馬術と剣術の教師からはすぐにでも騎士コースに入ることができると言われた。
その中で少々やっかいなのが『魔法学』だ。魔法、そして騎士とくれば、天馬に乗って魔剣を空高くかかげ雷のひとつでも落とす魔法騎士的なものがあってもよさそうだが、この世界の魔法はそんなに派手なものではない。
魔法学は魔法のしくみ、精霊の種類や魔法の属性、魔法陣の描き方、魔法の歴史等、非常に雑多な学問だ。さらには動植物、毒、薬に対する知識も魔法学なのだ。
ちがうのはこの世界では万物に魔法が宿ることだ。人間も例外なく魔力を持っている。ただし大抵の人間は魔力を持っているだけで、日常で魔法を使うことはない。
一定水準の魔力量を有する人間なら魔力を使うことが出来る。ただし魔法陣や魔術具を用いなければならず、そのためには専門的な知識と技術、国による認可が必要となる。
私はすでに基礎魔法学の全てを修めている。簡単な魔法陣なら描ける。しかし魔法を使うことはできない。魔法陣発動には特殊な紙とインクが必要である。さらには使用者の魔力量、精霊との契約、属性の有無によっては描けても発動は不可能な場合も少くないそうだ。
ただし例外がある。極めて魔力の多い生物というのがわずかながら存在するのだ。人間の中にもそんな人たちがいて、彼らは日常的に魔法を使うらしい。
私は魔法学の中に気になる記述を発見した。
『魔導』である。
『魔導とは、万物に宿りし魔力を抽出し、純粋な魔法として用いる技術である。実現すれば誰でも自由に魔力を使用することができるとされるが未だ実用化のめどはたっていない』
私が持っている基礎魔法学の本にあるのはこの説明だけである。書斎の本棚にも数冊魔術関連の本があるがいずれも、魔導の記述は皆無である。
気になったので魔法学の先生に尋ねたのだが、彼女は口にするのも汚らわしいといったかんじで「高貴な女性が興味を持つものではありません」とだけ言ってそのまま沈黙を保った。
彼女がそこまで頑なになる理由が分からない。グウィネビアの記憶の中には『魔導』に関する知識が一切存在しない。以前のグウィネビアは『魔導』にまったく興味がなかったのだ。
この世界で魔法とは選ばれた人間のみが使う特殊な能力であり、誰でも魔法が使えるなど夢物語なのだ。
しかし『誰でも自由に魔法が使える』世界になったら、世の風景は大いに変わるのではないか。私はその世界が見てみたい。せっかく魔法のある世界に生きているのだから、もっと身近に魔法を感じたい。
とはいえ教師のあの態度は尋常ではない。うかつに人に尋ねるのは止めたほうがいいだろう。
いきなり読み書き、単純計算レベルの勉強を改めて学びなおしたかと思えば、学園のレベルを超えるような領域に手をだしても、まわりの人々はあまり驚きはしなかった。
これまでのグウィネビアの性格から考えてもさほど不自然な行動でもないのだ。
実のところグウィネビアには突出した能力があるわけではない。私を特別なものにしているのは日々の努力だ。
グウィネビアは反復の人である。基礎の鬼と言ってもよい。
早朝人々(家族のこと、使用人はもちろんすでに仕事を開始している)が寝静まっている時に起き、剣術、舞踊の基礎を一通りさらい、朝食のあとは軽い読書。読み終わった本でも何度も読む。教本も読み込む。以前読んだ本でも自分の知識と経験によって見えるものが変わってくる。『魔導』のように見逃していた知識を得ることもあるのだ。
特別な才のない私にとって基礎を徹底的に叩き込むことこそ上達への近道であることを、自身の経験から学んだ。
なお私が早朝から夜にかけて、勉強やら剣術やら音楽やら絵画やらと忙しく動いているまわりでは常に数名の使用人が私よりさらに忙しく(ただし主人の気を散らさないよう気をつけながら)動きまわっている。
異世界での生活に比べて人員動員数が桁違いの生活である。なんだか申し訳ない気分になるけど、完全無欠の公爵令嬢を作るには人件費を惜しむわけにはいかないのだ。