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グウィネビア様、浮かれる面々に冷や水を浴びせる

 3日間の臨時売店が終わり、私たちはとりまとめ役、最初の定例会をしていた。

 そう、最初である。


「やあ、みんな。毎日顔を合わせてたような気がするけど、第1回目の定例会と売店の結果報告をしよう。まずは売店の報告からだ」


 オスカーが疲れた顔で進行役を努めている。

 まずは、寄付の物品はほぼ全てなくなった。木剣と割れた石板と私的な手紙らしき物が残ったのみである。衣装も男子の男子用ズボンが残っているだけだ。


 商人たちの成果も、セスがまとめた物が、読み上げられた。

 文具では紙とインクが飛ぶように売れた。街で買うより安価だからであろう。

 そして比較的高価な印刷の紙やら、絵の具、カード類の売れ行きも想像以上で、連日完売であったらしい。

 わずかだが、新品の教本も売れたようだ。


「3日間のみの売店だから、特別感があったのでしょうか?」


 祭りで、いらない物を買ってしまう。そんな感じだろうか。


「それもあるかも知れないけど、あんなに面白いカードは見たことないよ。私も1枚買ったからね」


 私の疑問にランスロットが答える。

 え、ずるい、買い物、出来たんだ。


 衣装の方だが、2日目に方針を変えたのが功を奏したようで、有償貸与衣裳、小物ともに好調な売れ行きだったらしい。


「小さなトラブルや想定外のことはあったけど、売店はおおむね成功、ということでいいかな」


 オスカーは一堂を見回して言う。

 みんなの表情には、やりきったという満足感が見える。

 私の中で、じわり、と焦りが広がっていく。


「待ってください。売店の目的は1年生に足りない学用品、実技衣装を行き渡らせることです。どれだけ商人が儲けても意味はありません。ガウェイン、どうだった? みんなに衣装は行き渡った?」


「自分の知り合いの中には、体が大きすぎて作法用の礼服が入らない者がいました。商人が用意した有償の貸与も嫌がる学生もいたようです」


 柔らかだった表情を引き締めて、ガウェインが言う。


「女子学生は皆に衣装が行き渡ったと思います。ただもしかしたら、買いに来なかった人もいるかもしれないので、全ての1年に行き渡ったかどうかは分かりませんね」


 困窮していても貸与や安物を拒む者もいるでしょう、とノーラは続ける。

 ガウェインとノーラの報告は重い。


「全ての学生をなんとかできるわけ、ないだろう?」


 ルイスが冷たく言い放っ。


「グウィネビア、君は……、私たちはやるだけやったんじゃないかな」


 ランスロットが気遣うように言う。

 その言葉を加勢と感じたのか、ルイスは勢い付く。


「誰かを助けるのは簡単じゃないってことさ。それとも、君は聖女にでもなるつもりか」


 売店の時は比較的柔らかい態度だったルイスだが、たった1日でいつもの攻撃的な性格が復活している。

 まあ、この方が慣れてるからいい。


「……簡単……。そうですね……簡単じゃありませんわね。学園を去る生徒に、『全員助けるなんて無理、仕方ない』なんて簡単には言えませんわ」


 皆、何も言わない。

 先程までの明るい雰囲気は消え、皆の表情は固くなる。

 ランスロットの顔つきは特に厳しい。


「私、『これだけやったから、もう十分』で、終わらせる気はありません。継続的な売店の設置を訴え続けます。それと寄付による無償貸与を継続します」


「うん、僕もこれで終わりにしちゃいけないと思う。それは皆、同じ思いだ。学園には、『成果はあったが新たな課題も浮上した。継続的な売店を求む』と、報告しておこう」


 オスカーがいい感じにまとめてくれた。


「すいません、私、なんだか浮かれてましたわ……」


 グレタのしょんぼりとした様子に、私は動揺する。


「いえ、あの……、皆さんのがんばりに水を差す気はなかったんです」


「僕も浮かれてるよ。だって凄いことやり遂げたんだからさ。しばらく浮かれてようよ。その後、次の課題に取りかかる。で、いいんじゃないかな」


 オスカーが更にいい感じにまとめてくれる。

 実務能力には若干不安を感じるオスカーだが、調整役としてはかなり優れた人物だと思う。


「無償貸与を継続するとなると、とりまとめ役とは別組織の立ち上げが必要だと思うね」


 オスカーの言葉に私とガウェインが答える。


「それについては、1年の間でも話しています。セイラ、リリア、エルザと言った裁縫の出来る学生が名乗りをあげています。裁縫以外にも本の補修などの仕事をしたいと複数の学生から申し出があります」


「男子も必要でしょう。自分の知り合いも参加したいと言っています」


 新しい組織の立ち上げについては、臨時売店の期間中に1年の間で話し合ってきた。


 私たちの提案に対してグレタとルイスから抗議の声が上がる。


「待ってください。貸与は1年のみですか? 次からは2、3年も対象にして貰えませんか?」


「全学年対象にすべきだ。2年の貴族からも不満の声が上がっている。これ以上、放置できない」


 珍しくグレタとルイスの意見が一致した。


 これにオスカーとノーラも賛同して、貸与は全学年対象となった。

 私としては貸し出しの対象は今のところ、1年のみにして欲しいのだが、売店にあれだけ協力してくれた上級生の要望を無下には出来ない。



 次に意見書箱の話にうつる。


「1年のやり方を真似てね、2、3年も意見書の掲示をしたんだ。好評だね。取り上げるべき意見は今回開けた時点ではそう、多くなかったけど、次からが大変だよ」


 オスカーが笑いながらルイスを見る。

 その視線を受け、ルイスはニコリともせず話し始めた。


「年度の始めに意見書も少ないのは、2年も同じですね。ただ次は大変でしょう」


 大変なのは1年も同様だ。意見書箱を少し動かしてみたのだが、すでに重かった。

 次の定例会を早めることが決定した。


 2、3年の意見書の中身は、1年と同じ、食堂の不満の他、図書館の資料の補修、図書資料の貸出の緩和、新しい書籍の購入など、図書館に関する要望が多かった。


「授業に関する不満は出なかったのですか?」


 私が尋ねると、オスカーが笑う。エイブラムの意見書のことを知っているのだ。


「学年始めは生活に慣れるので精一杯だよ。それに教師に文句を言う平民なんて、普通はいないからね。今年の1年は豊作で頼もしいよ」


 豊作とは、エイブラムだけではないだろう。

 私は確実に豊作組だろうけど素知らぬふりを貫くことにした。


「今年は特待生に、殿下もいらっしゃるのですから、オスカーさんも大変ですわね」




 夕食の後、私は久々に居間でトリスタンとゆっくり過ごした。


「書き物が何もないなんて最高だよね。さようなら、貼り紙作りの日々。グウィネビア、君も少しは休んだらいいよ」


「私は御礼状を書かなくちゃいけないの。理事と学園長、それから寄付をしてくださった人ね」


「寄付はこれからも続けるんでしょ。僕も手伝うの?」


「それがね、私もあなたもお役御免になったのよ」


 私は、寄付は全学年で関わることになった経緯を説明した。


「寄付係はね、各学年から5人出すことになったの。冬の考査までの期間はガウェインと彼の友人、それからセイラ、スコット、エルザに頼むつもりよ」


「リリアたちは?」


「寮生から、服作りを頼まれてるみたいだから、頼まないことにしたわ」


「うーん、あの子たち、便利に使われてない?」


「学園内ならともかく、寮のことは分からないからなんとも言えないのよね……。ねえ、話は変わるんだけど、売店の初日にゴドウィン伯爵が来たでしょ? あの時、ちょっと変な感じがしたのよ、あなたなら何があったか分かるかしら?」


「あ、何? もしかして面白いことがあったとか」


 トリスタンの目が輝く。

 下世話なことが大好きなのだ。

 ただし、自分が関わらない限りで。

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