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グウィネビア様、問題だらけの売店初日を終える

 私が庭に戻ると商人たちが品物を片付けていた。初日が終了したのだ。

 庭で商人たちと話をしていたモルガン先生とセスが、私を見つけて近寄ってくる。


「大変だったわね、グウィネビアさん。さあ、報告会に行きましょう」


 再び、食堂へGOである。


 食堂では、とりまとめ役がすでに集まっていた。


「グウィネビア、大変だったね」


 オスカーがにこにこ笑いながら、話しかけてくる。モルガン先生と同じセリフなのに、なぜか腹立たしい。

 あのメンツと1人で対峙させられたことに、文句のひとつでも言いたいところだが、ゴドウィン伯爵の息子ルイスの前ではさすがに言えない。


 私とモルガン先生、セスが席につくと、早速、報告会が始まった。


 まずは寄付で集まった物品売り場だが、金銭トラブルが発生していた。ボランティアの学生が上手くお金を扱えなかったのだ。

 お金の受け渡しがスムーズにいかず、ボランティアの上級生と1年が口論になっていたところに、庭で学生の案内を担当していたトリスタンが気がつき、仲裁に入った。結局、文具売り場の売り子を借りてきて、ことなきを得たらしい。

 トリスタン、こういう時にさっと動けるのは大したものである。


「ただね、売り子の女の子が、トリスタンにぽーっとなっちゃってね。女子生徒がそれが面白くなくて、ちょっと……。まあ、トリスタンはいつもの気さくな感じで接しただけなんだけどね」


 オスカーが奥歯に物がはさまったような言い方をする。


「分かりました。詳しいことはあとで本人に聞きます。明日からは、寄付物品売り場を商人にまかせますか?」


「いや、それが寄付で売る物がもうないんだ。あとは、薪にするしかないような木剣くらいだよ」


 木剣しか残ってないということは、汚ない笛とか小説は売れたということか。そっちの方がおどろきだ。


「商人が売ってる方も、紙やインクがなくなりました。学生の苦情が大変でしたが、文具屋はかなり喜んでいました。絵の具や蝋、刻印、印刷の紙などが、売れたみたいです」


 セスの報告は意外だった。普通の紙やインクなら分かるが、華やかな紙類はどちらかと言うと贅沢品である。絵の具は絵画の授業で使うが、学園が用意している。必需品とはいえない。

 私の疑問に答えたのはランスロットだった。


「店の前にね、君がモリーとセイラに送った手紙が飾ってあったんだ。あれを見たら、みんな絵の具が欲しくなるのも道理だよ」


 この世界では、手紙は基本的に回し読みが基本、絵が描いてあるなら皆に見せるものだ。しかし、店先に飾られるとは……。

 そういえば、入っている商人の1人がモリーの家だった。娘の友人関係フル活用である。


「ところで私は、あんな情熱的な手紙を君から貰ったことがないんだけどね。セシルとエルザも怒ってたよ。トリスタンが言うには、君は新しい友だちに夢中になってるところらしいけど、古い友人をたまには思い出して欲しいところだね」


「あら、私、そんなつもりじゃ……。余裕ができたら書くわ、みんなに」


 手紙のハードルが上がってしまった。

 手紙は貴族の必須教養のひとつだ。作法の時間にも手紙の書き方の授業がある。手紙を怠ると、上流階級でつまはじきになることもあるのだ。

 作法に則った内容+少し親密さを表す物を付け加えることも忘れてはならない。それがカードだったり、ちょっとしたイラストだったりする。

 手紙にいろいろ細工をするのは大好きながら、強制となると楽しくはない。


 私が手紙のことであれこれ考えている間にも、セスの報告は続く。


「商人は明日は小説と詩集を置きたいと言っているのですが……」


「え? 文具を中心に売っていたんじゃないの? 小説ってどういうことなの」


「物語がついたカードが人気で、それなら簡単な短い小説が売れるんじゃないかって」


「売店の主旨とかけ離れていってませんか?」


 ガウェインの表情は厳しい。


「確かに、今回の主旨とは違うね。ただ僕は悪くないと思うよ。手紙用の紙は欲しいよ。あと本なら小説より詩集かな。朗読も練習になるし、手紙に気の効いた文句を入れたいかな」


 一体、誰にどんな目的で贈る手紙なのか、オスカーが好き勝手なことを言い始める。


「今後、2、3年を対象にした売店を開くことを考えると、詩集、小説を置くことは、悪くないかもしれないわね。でも、今回は難しいわ。内容を吟味する時間がありません」


 モルガン先生の意見によって、今回は小説を置くことは見送ることになった。

 しかし、学園内に書店があるというのも悪くないと、私は内心思っていた。


「実技衣装は、どうだった? ここが一番大事な部分だからね」


 オスカーの疑問に、ノーラとガウェインが答える。


「女子ですが、時間と人が足りませんでした。皆さん、馬術、剣術は購入で、ダンスと作法は貸与を望まれていました」


「男子も事情は同じです。ダンスと作法の衣装選びは何を選んでいいか皆、分からず困っていました。自分たちは剣術と馬術ならアドバイス出来るんですが、あっちの衣装はさっぱりで……、もっぱらランスロット様とトリスタンさんの側近の方々に頼りっぱなしでした。」


「ねえ、ガウェイン、騎士の家系の方はダンスや作法の衣装は大丈夫なの? 」


「自分は、兄の物があるのですが、他の者は不安がっていました。明日、明後日で借りるつもりだったのですが、もしかしたら借りることはできないかもしれません」


 少し集めすぎてしまったと思っていた衣装が1日で足りなくなるとは……。


「衣装は、やはり好みがありますし、サイズが厳しい方もいらっしゃいました。……その、特に大きい方が……」


 グレタが言うと、ガウェインも同調する。男子は女子以上に体格差が激しく、衣装があっても着ることが出来ない状態だったらしい。


「どうやら、予測が甘かったようですね」


 私の言葉に、一同、シンと静まりかえってしたまった。重い空気が場を支配する。


「あの……」


 セスがおずおずと声をあげる。


「古着商からの提案なのですが、自分たちも衣装の貸与をしたいと言っています。今の値段の5分の1から10分の1で考えているようです」


「待って貸与なら返さなくちゃいけないわけでしょ? いつ、どうやって返すつもり?」


「商人は冬の考査後を考えているみたい」


 冬の考査後の返却は、無償貸与と同じ条件だ。


「でも……古着屋としてはそれでいいの? こちらが心配することではないけど、元がとれるのかしら」


「考えがあるみたいなんだ」


 セスによると、ドレスは売れなかったものの、コルセット、ベスト、小物類はそこそこ売れたらしい。また、学生からパニエの種類や髪飾りを増やして欲しいとの要望もあったそうだ。

 安価な貸与と、剣術、馬術衣装、そして小物と下着類で売り出したいらしい。


「ここじゃ、決められないわね。学園長に話を持っていかないと」


 モルガン先生が学園長に掛け合ってくれることを約束してくれた。


「3日間の売店が終わっても衣装の無償貸与はできるわ。あと、教本や楽器もあった方がいいと思うの。衣装と教本や楽器の寄付を継続してはどうかしら」


 私の提案に皆が賛同してくれた。


 その他の問題としては、貴族と平民学生の対立、商人に対する学生たちの態度が横柄だったこと、2、3年からの売店利用を臨む強い要望、などがあった。

 上級生の問題はオスカーたちにまかせるとして、売店の優先順位は早く来た者とすること、店員への態度の注意喚起などを掲示板に貼り出すことにした。

 あとは何か起これば、直接注意するしかない。ジョフリー、ルイス、ガウェイン、私、そしてランスロット。色んな意味で圧が強い面々で対応しついくつもりだ。



 トリスタンと共に家路につく。

 そういえば寄付売り場のトラブルの話をするつもりだったが、もうそんな気力がない。

 あと、伯爵との奇妙な対話も気になるがそれも考える気にならない。


 リリアたちは衣装を手に入れただろうか? セシルやスコットは?


 1年全員に必要な衣装と学用品を届けるのだ。私は、まだあきらめてはいない。

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