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グウィネビア様、条件のいい婚約を屁理屈で回避する

「無礼を承知で申します。殿下に相応しい方を決めるのはお父様ではありませんし、国王ご夫妻でもありません。もちろん私でもありません。他ならぬ殿下ご自身が判断されるでしょう。私は殿下をお慕い申しております。あの方に相応しくありたいと常に己を律することを怠ることはありません。しかし殿下のお気持ちを縛ることはしたくないのです」


 お父様の表情が動いた。瞳が好奇心に揺れているように見える。この人と話すのは楽しい。自分の話に価値があり、言葉に力があるように感じることができるから。

 これがエバンズ公爵の社交術。相手に気持ちよく喋らせ、自分の情報は出さない。

 正直、お父様が今何を思っているのか、私ごときには推察することさえできない。


「いやあ、我が娘ながら立派だねえ。なんというか……うん、求道者のようだよ。でも君、自分にはずいぶん厳しいのに殿下には甘いんだね。将来の国王が自分の配偶者を決めるのに自分の心のままに動いていいものかな」


 どうも上手くお父様を説得するできない。

 仕方がないと言えば仕方がない。お父様の考えの方がこの社会の主流だ。生まれてすぐ婚約することもある世界で15歳の婚約など珍しくもない。早く相手が決まれば余計なことにわずらわされることなく勉学に励めるとも言える。


 私は別の角度から攻めてみることにした。


「懸念は他にもありますわ。エバンズはグラストン建国以前から存在していた古い家系。同じような家系は他にもありますがエバンズのように当主が現職の大臣なのはお父様だけです」


 古い家系は尊重されている。しかし政治的な影響力は皆無に等しい。エバンズ公爵家が特殊なのだ。

 ではこの国の主流はどこにあるのか。これは少し難しい。国王の家臣の多くは建国に尽力して爵位を賜った伝統貴族と最近になって生まれた新興貴族出身である。両者が拮抗しているのだが、今、ここに爵位を持たぬ第3の勢力が迫りつつある。


 エバンズはどの勢力にも属さぬ孤高の存在だ。

 中立といえば聞こえがいい。しかしどの勢力からも仮想敵として扱われやすい微妙な立ち位置でもある。


「当主は大臣、家系はもっとも古く、領地は大きい。その家の娘がいずれ王妃になる。表立っては誰も何も言わないでしょう。しかし内心面白くないと思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。」


「『エバンズは多くを持ちすぎる』か。娘のきみにそんなことで気を使わせたくなかったよ」


 お父様は悲しげにそう言う。芝居ではない。本心だろう。


 私だって本心から言っている。未来の王妃になる覚悟はまだできていない、殿下のお心がどこにあるのか分からない、エバンズが力を持ちすぎることでパワーバランスが崩れることが怖い。

 すべて昨日までの私の心の片隅にあった小さな憂いだ。


「分かった。返事を書こう。娘はまだ殿下の隣に立つには足りないところがある。成長を待ってほしい、こんな所かな」


「ありがとうございます」


「でも向こうが待ってくれなかったら、それっきりだよ。君の夢がひとつ、叶わないかもしれないんだよ」


「その時はその時です。殿下の選択をいさぎよく受け入れます。」


 上手くいった。

 いや、今さらの婚約不成立もかなり不自然ではあるが、婚約成立後の解消よりは傷が少ない。

 これで殿下が誰を選んでも、私の名誉は守られるだろう。





 お父様との交渉が済ませた私はすぐさまソフィアに指示をだす。学園生活に入る前にやることがいくらでもある。


「学園に入る前に最低限の座学と実技、それからマナーについてもう一度、学び直したいの。先生たちに来て貰えないかしらね。」


 プレイ時間2時間のタイトルも分からないゲームの記憶などはっきりいってこの先役に立たないだろう。


 頼るべきは、私――、グウィネビアとしての15年間の記憶のほうだ。

グウィネビアの婚約者としての条件が良すぎて断ることに口実ひねり出すのが難しかった……。

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