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グウィネビア様、罰を受ける

しばらく物騒なタイトルが続きますが、タイトル詐欺です。

ご安心ください。

 昼休憩は、1年とりまとめ役とノーラ、グレタらと共に、この1年の流れと必要な衣装、学用品一覧の作成をするつもりだ。それと意見書箱の要望への回答も作る。


 しかし、私はロビン先生に呼び出されてしまった。一応、昼食をとってから来なさいとのことだったが、私としてはすぐにでも先生の所に行って、とっとと要件を済ませてしまいたい。


「向こうも食事をなさっているでしょうから、あまり早く行くのも迷惑というものですよ」


 ノーラの言うとおりである。

 そんなわけで、医務室の隣の部屋で食事をしている。憂鬱すぎて味が分からない。


 とりあえず、書き直した学園長への手紙をランスロットに渡しておいた。


「ありがとう、確認しておくよ。それにしても君、仕事が早いね」


「ええ、授業と授業の合間に談話室で書いたの」


 教室に居ると、諸事情で恥ずかしい思いをするので避難も兼ねていたのだ。




 食事が終ると、私は教職員棟に向かった。

 職員に案内されて教職員用の談話室に入った。青を基調とした落ち着いた雰囲気のカーペット、それに木目の美しい長椅子、全体的に落ち着いた印象だ。

 丸テーブルにお茶と軽めのお菓子が用意してある。

 給仕、ロビン先生、数人の面識のない教師たち……。


「座りたまえ、グウィネビア嬢」


(あ、長くなるやつだ、これ)


 私は給仕が引いてくれた椅子に座る。しっかりクッションが効いていて心地よい。


「昼食の後になってしまったが、お菓子は入るかな」


 用意されたお菓子は果物の砂糖漬けだ。昼食後なので軽めのものが用意されたのだろう。


「お茶とお菓子の入る場所なら、いつでも準備していますわ」


 言いながら周りを観察する。

 ロビン先生の左隣の女性は分かる。授業の時の助手の先生だ。名前は確か、ミナ。

 右隣には痩せた中年の女性。見たことはないが、ダンス教師なのは間違いない。ピンと張った背筋が美しい。

 それから、長椅子に気だるげに座る30代か、もしかしたら20代かもしれない男性。トリスタンの大人版のような人物だ。


 ロビン先生は、それぞれの教師たちの紹介を始めた。右隣の中年女性はジリアン、長椅子の男性はケイ、という名で、それぞれ2年と3年のダンス教師であった。


「今日、君を呼び出したのは他でもない。昨日の件についてだ。君は、こともあろうに教師に楯突いたのだ。これは、許しがたいことだ。まあ、私はどうでもよかったのだが、厳しい方もいてね」


 そう言ってロビン先生が視線を向けたのは、隣の中年の女性教師ジリアン、ではなく、長椅子でにやにや笑っている男性教師ケイだった。そっちかっ。


「だがね、君はいくつかの尊い行為をした。不調の生徒を気づかい、名誉を失った者に寄り添い、無知な者を正しく導いた。そして、最終的には全ての学生を救ったのだ」


「私はモリーさんの様子を見るため、更衣室に行きました。モリーさんは、しきりにグウィネビアさんのことを口にされていました。平民にも分け隔てなく接してくださるとか。同じ平民として、聞いていて嬉しかったのですよ」


 ロビン先生の左隣の助手のミナ先生が言った。


 彼女の話の間に、ロビン先生は後ろに配置してあった小さなテーブルに置かれた紙を手にとった。


「君を助けようという、学生たちからの手紙だ。平民からのものもある」


 先生の手の中には、美しい模様の入った封筒があった。モリーからだろう。それから粗末な紙、多分セイラだ。他にも手紙が複数枚。スコットだろうか。セシル、ジョフリーも書いたかもしれない。


「その方たちは、どうぞ処分なさらないで下さいませ。私はどのような罰でも受けますわ」


「うむ、彼らには処罰などないから、安心したまえ。しかしね、君の懲らしめになる罰というのをどうにも思い付かなくてね」


「3年のダンスの時間に僕と踊るのはどうかな?」


「ケイ、黙りたまえ」


 長椅子の教師、ケイをロビン先生が睨み付ける。

 この2人の力関係は、どうなっているのだろうか。


「で、君からの手紙を受け取ったんだがね」


 ロビン先生はテーブルから私の封筒を手に取り、中の手紙を取り出す。

 1枚目、ではなく2枚目の紙を開き、私に見せる。例の舞踏譜だ。


「これは一部だね。他のはあるのかい?」


 私は、10歳の時の先生から見せてもらった舞踏譜を描き写したこと、イラストは記憶を頼りに描いていること、などを説明した。


「ずいぶん書き慣れているように見えるが……」


「はい、10歳の時から、あらゆるダンスを舞踏譜として、残しています。それと先生が、書き記していた舞踏譜も写しています」


 空気がざわつく。

 私の言葉に先生たちが興奮しているのが分かる。


「君が書いた舞踏譜、できたら全て見せてほしい」


「ええ、後で返却して貰えるなら。あの……それが罰ですか?」


「いや、それは別の話だ。君には、新しい舞踏譜を書いてもらいたい。これから、学園で教えるダンスを書き記すのだ。1年から3年まで、全て。イラストもつけて欲しい」


「……分かりました」


 罰といえるかどうか分からないが、忙しくなりそうである。


「場所と時間については、追って指示を出すが、君はかなり忙しいらしいな。モルガンから聞いたが、理事を説得したいのだって?」


「はい、学園に売店を作って、学用品や実技衣装に苦労する学生を助けたいのです」


「君が、全ての学生を救う?」


「いいえ、私ではありません。学園側がやるのです。だってここは学舎じゃありませんか、学生の学ぶ権利を保障するのは、当然ですわ」


「……なるほど。学生らの窮状については私も気になっていたのだ。ところで私たちダンス教師にも独自のツテがあってね。君の舞踏譜を貸してくれたまえ、役に立つかもしれんよ」


「舞踏譜……ですか」


「ゴドウィン伯爵と、彼と親しい理事らだ。モルガンも悩んでいたようだが、君の技が役に立つかもしれん」


 ロビン先生の隣の、中年の女教師、ジリアン先生が口を開いた。


「ゴドウィン伯爵は、私の生徒だったのよ。今でも1年に1回は会うようにしているわ。私からも彼に話してみましょう」


「あ、ありがとうございます」


 これは、嬉しい。

 思わず声が上擦る。


「いや、説得できるとは限らないよ。ただ協力しよう」


 ロビン先生が落ち着いた声で言う。


 私はこれで、ダンス教師たちから解放された。

 部屋を退出し、急ぎ医務室へ向かう。


 しかし、舞踏譜をつけておいて良かった。

 余計なこともやってみるものだ。

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