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グウィネビア様、プライバシー権について、思いを馳せる

 翌日、私は早めに学園に行った。事務職員に手紙を渡し、医務室の隣の部屋でランスロットと合流した。

 理事への手紙は、まずは私が書いて、それをとりまとめ役の他のメンバーに見てもらう予定なのだが先んじて、ランスロットとモルガン先生に見て貰った。


「内容は悪くないね。貴族、平民問わず学用品や実技衣装が揃えられず苦労している者がいること、全ての学生の学びの保障のために臨時で売店を開くことを承認して頂きたい……と、それにしても、君の字は美しいね」


「ええ、結構頑張ったからね」


 以前から、手紙や舞踏譜のために美しい文字を心掛けてきた。しかし、ここ半年は更に美文字に磨きをかけてきたのだ。正確な魔法陣を書くためである。


 これが『日ペンの○子ちゃん』なら、あっさり理事を説得できるのだが……。


「父上はね、私と同じだったよ。学生たちの窮状にはまったく気がついてなかったみたいだ。ただ、学園内に売店を作ることには賛成してる。父上の態度が明確になったから、何人かは賛成に回るんじゃないかな」


「難しいのはルイスさんのお父様、それから学園長……」


 理事は学園長より、上の立場だ。しかし学園長の意見は尊重されている。学園長が反対に回ると理事を説得するのは厳しくなってる。



 医務室側の部屋のドアからノックの音がして、モルガン先生とセシルが入ってきた。


「私たちも混ぜてもらって、よろしくて?」


 モルガン先生が言う。


「もちろん、セシル、君も手伝ってくれるのかい?」


 ランスロットの問いに、セシルは「もちろん」と答える。


「セシル、いいの? あなた……」


 セシルは、あまり平民が好きではないはずだ。

 私の考えを見透かすように、セシルは言った。


「学生全体の話でしょう? だったら、みんなの問題じゃない。貴族でも、困ってる方がいらっしゃるわ」


 セシルも真剣に考えてくれていたのだ。


「セシル、お父様はどんなかんじ? 説得できそうかしら」


「……。分からないわ。お父様はあまり実技の方は関心がないの。座学の方で話をした方がいいかもね。割れた石板を使ってらっしゃる方が貴族でもいるでしょ」


「学園長の手紙は、座学中心に訴えた方がいいかもね。昼……までに考えておくわ」


「ねえ、グウィネビアさん。どんなに立派な手紙を書いても、それだけで理事は動かせないわよ」


 モルガン先生が言う。もっともだ。


「私ね、何人かの理事とは親しいのよ。話して見るわ」


「ありがとうございます」


「でもね、問題もあるの。アーバイン子爵。これまで学園の物資納入を引き受けてた業者をはずすでしょう? 実は子爵の贔屓にしてる商人なのよ」


「それは……」


 まずい。


「だったら子爵が贔屓にしている別の商人を、学校の販売業者の一つにするのはどうでしょうか? あ、セスのお祖父様はよく思われないかも……」


「グウィネビア、アーバインの所業は許しがたいものだ。あの者は、長年に渡り不当に利益を得ていた者らと結託していたのだ。恩情を与えるような真似はしてはならぬ」


 ランスロットが厳しい表情を見せる。

 え、贔屓の業者が追い出されて面子丸つぶれってだけじゃないの?


「殿下のお気持ちは分かります。しかしながら、子爵が『自分は何も知らなかった、騙されていた』と言い張れば、それでおしまいです。それよりグウィネビアさんの言うとおりにした方が、こちらの自由にできる理事が1人、増えますでしょう?」


 そう言って、モルガン先生は艶然と微笑む。この辺り、ゲームのモルガン先生にそっくりである。


「子爵を解任しても、次の理事が厄介な人になる可能性もありますからね」


 そう言いながら、モルガン先生が視線を向けた先には、ランスロットではなく、私がいた。


「あら、私、そう言ったことはさっぱり分かりませんわ。一学生ですもの」


 いや、ほんと知らないから。

 なんで否定したのに、思わせぶりな台詞になってしまうのか。

 これは誤解されてる。

 セシル、ドン引きしてるし。


 理事を知る必要があることに気がついたのは昨日のことだ。

 食事の後、父に呼び出された時に、事情を話し、理事のことを可能な限り知りたいと訴えたのだ。


「子爵はね、自分に利のある方につく方だから、意外となんとかなるかもしれないわ。問題なのはゴドウィン伯爵、ルイスさんのお父様ね」


 モルガン先生がそこまで言ったところで時間終了。

 急がないと授業が始まってしまう。




 私とセシルが教室に入ると、学生たちの視線が一斉にこちらに向けられた。

 いつものようにあいさつをすると、制服の学生たちのかたまりの中から、1人の女子学生がこちらにやってきた。モリーだ。頬が上気したように赤い。


「おはようございます、グウィネビアさん。あの、私……。こんな美しいお手紙を頂けるなんて」


「あら私こそ、あんな素敵なお手紙を頂けるなんて思いもよりませんでしたわ。急いでいたので大した工夫もありませんでしょ。そんなに大袈裟にされたら、恥ずかしいわ」


 などと言いながら、内心、冷や汗を書いていた。

 忘れていたが、この世界、会話も筒抜けだが、手紙も筒抜けなのだ。


 モリーは学生たちに囲まれながら、私の手紙を朗読する。自分が書いた手紙を目の前で(声を出して)読まれるとか、木っ端恥ずかしい。


 前の席に行くと、今度は私服の一団がいる。中心にいるのはセイラだ。


「セイラ、読んでちょうだい」


「わ、私、人前で読めない……から……」


「なら、変わりに僕が読むよ」


 そう言って、セイラから手紙を取り上げたのはジョフリーだった。

 ジョフリーは高らかに朗読を始める。以前、詩の話をしていたことがあるが、なるほど、いい声だ。


 モリーやジョフリーの行為は、特に無作法なものとは見なされない。手紙は、特別な場合を除き、皆で読むものとされているのだ。


 たが、しかし。だが、しかし、である。


「『セイラ、私はもっとあなたのことが知りたい。入学式の日のお茶会を覚えていて? あの日から、あなたのことがずっと気になっていたの。――』」


 やーめーてー。


 プライバシーぃぃっっ!!!!


 私は心の中で、この世界では通用しない叫びをあげていた。




 試練はさらに続く。

 学校職員からの連絡で、ロビン先生からの呼び出しを受けたのだ。

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