グウィネビア様、ダンディパパを説得する
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『キャメロット学園恋愛日記~ときめきのdistance』のメインターゲット、通称王子さま、あるいはラスボス。
それがランスロット王子である。
グラストン王国の王子であり彼と結婚すると未来の王妃様となる。
この王子、腹黒とか実は闇を抱えてますとかいっさいない正統派貴公子だ。
しかし攻略は吉田さんいわく『激ムズ』。
まずは全てのパラメータを最高まであげて、他のターゲットとの親密度だけでなく、攻略対象でなくても隠し親密度が存在する一部キャラ(会話選択があるキャラには親密度があるらしい)を一定以上あげつつ、他のキャラとの恋愛フラグはたてず、会話選択ノーミスが最低条件。
さらにここにグウィネビア様の暴走がくわわることにより初めてランスロット攻略の可能性が見えてくる。
ようするにランスロットを落とすにはグウィネビア様の暴走と破滅が必要なのだ。
何かするとグウィネビア様と友情を育みつつ、ランスロット攻略が可能になるらしいが、未だその方法は分かっていない。
ちなみに俺が2時間しかプレイできなかった原因のひとつは、こいつにある。初っぱなからランスロット攻略を目指したために失敗が怖くなり先に進めなくなったのだ。
あとで吉田さんに無謀なことはやめろと怒られたものだ。
さて、話は戻して婚約の件である。
この先、ヒロインが誰と結ばれるかは未知数だが、ランスロットとの婚約が成立していないのならグウィネビア様発狂イベントもおこらないはずだ。
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「驚いたな」
お父様の表情はあまり動かない。
「きみは殿下のことが好きで、未来の王妃になるべく日々努力しているものと思ったのだが、違うのかね」
お父様の言葉に私は胸が締め付けられる思いがした。
そう、私はランスロット様が好きだ。ランスロット様の隣にいるのに相応しい人間になるべく精進してきた。
だから先日、城からの使者がきてランスロット様との婚約話がきた時は、内心の興奮を抑えるのに随分苦労した。
もちろん言うべきことは弁えている。
私は「父に従います」と一言添える。使者に対してお父様はしばらく考えさせてほしいと、即答は避けた。
すべては予定調和である。数日したら、婚約承諾の返事をするのだ。
これが落馬2日前の話である。
「はい……、ずっと夢でした。でも怖くなったんです。私、ほんとに殿下にふさわしいのでしょうか」
これは本心だ。
自分が王妃の重責に耐えられのか分からない、そして王子は私を愛してくれるのか?
同じだけの愛が欲しいとは思わない。でも王子が誰かに心を奪われ、私を冷ややかな目で見る未来が怖い。
いや、そんな無慈悲な方ではない。殿下のことだ、きっと自らの心変わり、不誠実に苦しむことになるだろう。誰が悲しむ未来もイヤだ。可能なら回避したいではないか。
「お父様、わたしも殿下もまだ15。学園が始まりましたら、新しい世界、新しい出会いがありますでしょう。殿下を想う気持ちに代わりありません。ですが、今はまだ……。時間をくださいませんか」
「学園に行ったら君以上の女性に出会うと? 親バカかもしれないけどねえ、『グラストンの薔薇の君』より殿下に相応しい娘が学園にいるとは思えないよ」
『薔薇の君』
この名前で呼ばれるようになったのは1年前の王妃様主宰の茶会でのことだ。
社交会にデビューする前の貴族の子どもたちが集められた場で、王妃様からお言葉と新作の薔薇を頂いた。
『グウィネビア。あなたはいずれ社交会の華となるのだと思っていました。でも違いましたね。あなたはもう薔薇の大輪そのものなのね』
あの日から私は『薔薇の君』になった。
王妃様の行為は気まぐれか作為的なものか――。貴族たちは様々な憶測をしていたようだが、私にはどちらでもよいことだ。
ただその名に相応しい淑女になれるよう、常に学び、研鑽を怠らないよう心掛けるだけ。
努力を怠らなければ必要なものは全て手に入れることができる。立派な貴婦人になればそれに相応しいだけの愛を得られる。
15歳の純粋培養された少女は無意識にそう思っていた。
昨日までは。
私にはもう1人の人生の記憶がある。
彼は知っている。
どんなに必死に足掻いても手に入らないものがある。
コントロールしようとすればするほど、人の心は離れていくことがある。
誰かを支配することは出来ない。
時に自分の人生を支配することさえ叶わないのだ。
悪役令嬢物お約束二つ名登場。
悪役令嬢のパパは、いい人率高いよね。