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グウィネビア様、初めての実技で阿鼻叫喚の周囲にびびる

 次の日の昼休み、食堂でエルザ、トリスタン、セス、そしてランスロットが魂の抜けたような表情で食卓を囲んでいた。

 すでにあちこちで噂が広がっている。

 貴族の少女が失神したとか、踊りの上手い平民が罵倒されたなど。

 今日、実技を受けた学生の様子からしてまんざら大袈裟ということはないだろう。


 しかし、ランスロットもトリスタンもかなり上手いはずだ。何が問題だったのだろうか。

 明日、実技を受ける私たち(ジョフリー、セシル)としてはなんとか情報が欲しい。


「1年のダンスの先生は新しい方だから、私もよく知らないのよね。でも宮廷でダンスを作ったこともある方だとか」


 セシルが途方に暮れたように呟く。父親が学園長のセシルでも分からないらしい。

 しかし、宮廷ダンスとは……、相当の人物ではあるが教師としてはどうなのか。


「へー、それでかな、平民に当たりがきつかったのは」


 トリスタンの言葉にドキリとする。あの3人はどうなっただろうか。


「いや、誰に対しても厳しかったと思うね」


「あら、ランスロット、あなたにも?」


「私には特にさ。『おや、殿下。お人形ですか、あなたは。あなたと踊る婦人はさぞつまらない思いをするでしょうね』」


 ランスロットが先生の真似をする。似ているのかどうかは分からないが腹立たしい口調だ。


「私、聞こえたわ。あの方、なんなのかしら」


 エルザの声が震える。


「嫌な先生なのね。明日が憂鬱だわ」


 セシルが沈んだ声をあげる。


「陶器人形にように美しい以外何も合ってないわ」


 私の殺る気スイッチも点灯している。


「いや、それは言われてない」


 ランスロットが静かにつっこむ。


「でもランスロットがそこまで言われたのなら、みんなはどんなこと言われたの」


 私の問いに、エルザがため息混じりに答えた。


「『その藪睨みの目はなんだ。その動き、君はゼンマイ仕掛けなのか』」


 次に答えたのはトリスタンだ。


「僕はなんだったけなあ。『町のダンスホールにでも行きたまえ、さぞ人気者になるだろう』かな。何がダメなのかサッパリだよ」


「君の評価は適切だな」


 ジョフリーがにやりと笑う。


「みんなまだいいよ。僕なんか『自分の手足がどこにあるか確認してから来たまえ』だよ。言われても仕方ないけどさ。右足って言われても左が出ちゃうんだ」


「ああ、確かに困っていた子たちは多かったようだね。前に出なさいって言われても動かない子たちが多かったな」


 ランスロットが授業風景を思いだしながら言う。


 昨日、3人を見ていて感じたのだが、この世界の人は指示通り体を動かすのが下手な気がする。


「いきなり右足、左足なんて言われても分からないわよ。先生はお手本を見せてくれないの?」


「ちゃんとやってくれたよ。でもさ、何やってるか分からなかったよ。真似しろって無理だよ」


 言いながらトリスタンは首を竦める。


「しかし見事だったよ。あんな上手い踊り手が宮中にいるとはね。母上肝いりとは聞いてたがあそこまでとわ思わなかった」


「王妃様の!?」


 宮廷ダンスを作り、王妃の肝いりとは大物すぎる。


「そんな、聞いてないわ、そうなのセシル」


 エルザは震えている。


「いいえ、私も知らなかった。知りたくなかったわ、明日が来るのがどんどん怖くなるじゃない」


「じゃあ、もう何も知らないほうがいいかな」


 動揺する私たちを、トリスタンがからかう。まるで他人事だ。


「トリスタン、あなた笑ってるけどね、終わったわけじゃないのよ。どうするの、次」


「そういえばグウィネビア、君の名前が出たよ」


 セスが急に話題を変える。


「私?! どういうことセス」


「ああ、そうだった。リリアだよ」


 トリスタンとセスの話を総合すると、先生はリリアの動きをじっと見たあとに、宮廷のダンスをしっているのかと尋ねたらしい。

 リリアは、グウィネビアさんから借りた本を読んで、動きを見てもらったと答えたという。


「突然、君の名前がしたからさ、思わず見ちゃったよ」


「トリスタンもひどいよ、みんなでダンスの練習したらしいじゃないか、僕も誘って欲しかったよ」


 セスは悲しげに呟く。


「ごめんなさいね。リリアたちがすごく困ってたから……実技で平民が苦労するって聞いて助けないと、と思って」


「グウィネビア、あの、ちょっといいかしら。リリアさんって誰のこと」


 話についていけないセシルが聞いてくる。

 セシル、ジョフリーあたりは平民をよく思ってないだろう。正直、今話題にしたくはなかった。


「ほら、特待生の話をしたことがあったでしょ。その子がリリアっていうの、勉強は出来るんだけど地方の子でいろいろ苦労してるのよ」


「なぜあなたが平民の面倒を見るの? あなた貴族のとりまとめ役でしょう?」


「学友が困っていて、自分に出来ることがあるならなんでもするわ」


「平民よ」


「誰でも助けるわ」


「そう……。でも平民にかまけて私たち貴族のことを忘れないでね」


「気を付けるわ」


 納得したわけではないだろう。

 しかし、セシルはそれ以上何も言わなかった。


「ねえ、だったらダンスを見てくれない? 知ってるよね、僕がその……」


 セスはそれ以上のことは言いづらいようだった。

 彼が数年前まで平民だったことは、ここにいる全員が知っているのだが、それでも言葉にするのは抵抗があるようだ。


「グウィネビア、明日の授業の前に僕も見て欲しい」


「あら、なら私も」


 ジョフリーとセシルが矢継ぎ早に話し出す。


「待って、貴族を相手に私が見ても意味ないわ。あと今日は他に予定があるの」


 今日は、ノーラとグレタの2人とお茶会なのだ。

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