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グウィネビア様、何も喋ってないのに注目される

 ここまで聞き役に徹してきたガウェインがオスカーに発言許可を求めてきた。オスカーが促すとガウェインが話し始めた。


「自分はランスロット様の推挙を受けここにいます。しかしながら自分に平民のとりまとめ役が出来るとは到底思えないのです。私の家は代々騎士職についています。身内には貴族に嫁いだ者もいます。そんな私を他の学生が信頼してくれるでしょうか。お恥ずかしながら入学して以来、旧知の者以外とはあまり会話をしていないのです。今、この場でみなさんの発言を聞いているうちに次第に責任の重さを痛感し、誘われるままにここに来てしまった自分の浅はかさに後悔しているところです」


 ガウェインは最後、ランスロットを見て「申し訳ありません」と呟いた。真面目である。


「ガウェイン、言ったろう。平民が貴族と対等に会話することは難しいんだ。同じ場にいるだけで萎縮してしまう。君なら貴族に臆せず話すことが出来るだろう? 普段のような調子でいいんだ」


「ランスロット様、王宮の修練場とは勝手が違います。このような場で自分の意見を出すという経験は自分にはありません」


「経験? 1年なんだよ、経験なんて誰だってないさ。ああ、グウィネビアかい? 彼女は特別。気にすることはないさ」


 ランスロットとガウェインの会話なのに、皆の意識がこちらに集中しているように感じるのは気のせいだろうか。


「あの、とりあえずやってみて難しいようなら他の方に声をかけてみてはどうでしょうか。実は私も3人目なんですよ」


 納得していない様子のガウェインを見かねたのか、グレタがこんな提案をした。


「平民の要望をこういった席で主張するのは難しいということで、2人も辞めてしまわれたんです。私よりずっと優秀な方々でしたけど。私が選ばれたのは親族に貴族に取り立てられた者がいるからなんです。優れているわけでも、他の学生に慕われてるわけでもありません」


「いいえ、グレタはよくやっているわ。あまり謙遜がすぎるのもよくないでしょう。あのね、ガウェインさん。平民学生は一枚岩じゃないのよ。誰が代表になっても誰かは不満を持つでしょう」


「ガウェイン、君の評判はランスロットからも他の学生からも聞いているんだ。君は君が思っているより慕われてるんだよ」


「……分かりました」


 グレタ、ノーラ、オスカーの波状攻撃が効いたのかついにガウェインは陥落した。


 とりまとめ役の顔合わせはこれで終了した。

 ルイスは一礼すると足早に去っていき、オスカー、ランスロット、ガウェインは3人連れだって退出した。





 残ったのはノーラとグレタと私である。


「お茶、いれ直しません?」


 ノーラが言ったので私とグレタがうなずく。

 給仕には下がってもらい、グレタが新しいお茶をいれる。

 さっきまではなかったコケモモのジャムと、はちみつを塗って焼いたトーストも用意してあった。


 グレタによるととりまとめ役のお茶会のあとにこうやって女子だけでお茶とお菓子を楽しめるように、オスカーが事前に手配してくれるそうだ。

 たしかに平民の女性が貴族の前で美味しくお茶を楽しむのは難しいだろう。


「グウィネビアさんは、甘いものがお好きですか」


「私、甘い物大好きです。特に今は、なんだかお腹が空いてしまって。でも私が入ってもいいんですか」


「もちろんですわ。あの、少しくだけたようなお話をしてもよろしいでしょうか?」


 グレタが遠慮がちに尋ねる。


「もちろんですわ」


 そして女子会が始まった。


「ルイスさんにはっきり言って下さって、ほんとありがとうございます」


 グレタが言うと、ノーラも加わった。


「私からもお礼を言わせてください。ルイスさんは伝統貴族なんですけど、私たちだけでなくオスカーさんまで見下したような態度をされるので、本当に悔しい思いをしていましたの」


「あの、オスカーさんは……」


「グウィネビアさんと同じく古い家系の方です。本来なら王家の次に尊ばれる家柄のはずなのに、あの方は……」


 ノーラは怒りを露にする。オスカーが見下されるのがよほど許せないらしい。


 古い家系は建前上は王家に次ぐ地位である。建国以前の地方豪族であり、かつては今の王家と対等な存在だったのだ。

 しかし今ではその影響力はほぼない。

 当主が現職大臣をしている我が家は例外なのだ。

 だからだろうか古い家系として尊重されこそすれ、無礼な扱いを私は受けたことはない。

 いくら昔の力を失ったとはいえ、見下されるなどあるのだろうか。


「平民のノーラさんやグレタさんに聞くのはおかしな話なんですけど、古い家系を伝統貴族があからさまに軽んじるということはよくあるのでしょうか? 私には経験のないことなので」


「そうですね……私も詳しいことは分かりませんがあの2人の場合、性格の合わないことも原因かもしれませんね」


 グレタもよくは分からないようだ。

 かわりにノーラが答える。


「オスカーさんは明るくて鷹揚な方でしょう? それでいて細かいことにもよく気がついて立場の弱い者にも配慮ができる。ルイスさんは神経質なたちで、平民と同じ空間にいるのも嫌だとしょっちゅう言うような人です。平民の私が、ずけずけと物を言うのを、オスカーさんが許しているのも我慢ならないと、はっきり言われたこともあります」


 なるほどルイスは私とも相性が悪いだろう。


「いくらなんでも酷すぎると思うのですが、誰も咎めなかったんですか」


「去年の3年の貴族のとりまとめ役も同じような平民嫌いな方だったんですよ。去年は本当に雰囲気が悪くて。定例会はいつも殺伐としていました。まあ、私も引かないたちなので嫌な雰囲気を作ってた原因の1人なんですけど」


 私は去年のとりまとめ役の定例会の様子を想像してみる。

 ……うん、怖い。

 お茶なんか飲めそうにない。


「やめた2人もルイスさんの態度が嫌だったようです。で、親族に新興貴族のいる私ならルイスさんもあたりが柔らかくなるだろうと言うことで選ばれたんですけど……」


 グレタは深い溜息をつく。


「新興貴族を目の敵にしている伝統貴族は多いですからね」


 とはいえ、私はどちらに属しているわけでもないので、2つの勢力の事情は正直分からない。


「はい。でもその時は貴族の事情がそこまで分からなかったので簡単に受けてしまって大変な思いをしました。オスカーさんとノーラさんがいなかったら、私も辞めていたと思います」


「今年はランスロット様とグウィネビアさんがいてくださって本当に助かってます。ガウェインさんのお考えは分かりませんが、貴族に嫌味を言われても動じるような方には見えませんね」


 1年とりまとめ役の評判はおおむねよいようだ。ルイス以外とはなんとかやっていけそうである。


 それから平民の事情などを一通り聞いて、お菓子もお茶もたっぷり頂いた。

 今度は私が他の部屋を予約して3人でお茶会の計画もたてた。とりまとめ役とは関係なく楽しみである。

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