グウィネビア様、ヒロインと攻略対象者を無意識に近づけさせる
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田舎から来たヒロインは何も分からない。おまけに学園内でしょっちゅう迷うのだ。
そんなヒロインを助けてくれるのが各種イケメン&グウィネビア様だ。
同じ1年のはずなのにグウィネビア様はなんでも知っているし、聞いてないのにステータスの伸ばし方を教えてくれる。
さすが公爵令嬢、完璧仕様である。
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「実はね。私も1年生で道に迷っていたの」
私はなさけないことを告白しなくてはならなかった。
「そ、そうなんですか。すいませんてっきり上の学年の方かと……」
「謝ることじゃないわ。普通は魔術棟の近くに1年はいないものね。ああ、まだ名乗ってなかったわね。私、グウィネビアと申します」
「リリアです。あ、もう知ってますよね。あの……どうして私の名がリリアだと分かったんですか」
「そうね……」
私はさも当然と言った体で、話始める。
内心、どう言い繕おうかと考えながら……。
「制服が新しかったこと。あと1人で行動していたこと。あなたが特待生で地方から来たと聞いていたので、勝手の分からない学園内を1人で歩く大胆な方は特待生のリリアさんくらいかと。あとは勘かしら」
待てよ。
この理屈だと私も大胆な方になってしまう……。まあ、事実か。
「はあ、特待生のリリアって有名なんですね……」
リリアは盛大にため息をつく。
「ところでここで何をしてたの? あなたも魔術棟に興味があるのかしら」
地方で勉学に励む子だから、魔術に興味を持っていてもおかしくない。
「いえ、私はお腹が空いてたので食べる物を探してました。ちょうど小さなリンゴがなっている木を発見したのでもいで食べていたところです」
はい?
欠食児童?
野生児?
はてなが尽きない。
何から聞いていいのか分からない。
「えっと……、それは、おいしかった?」
「いえ、すっぱかったです。きっと食用じゃないんですね」
でも、食べたと。
そうこうしてるうちに職員を発見した私たちは無事1年棟にたどり着くことができた。授業時間にもなんとか間に合ったのだ。
ゲームでは絶妙なタイミングでヒロインを助ける役どころのはずだが、実際にはしょっぱい出会いになってしまった。
その日の夜、私とトリスタンは昨日と同じように居間で話をしていた。
「リリアに話かけたよ」
トリスタンは昨日とほぼ同じ態勢でソファに座っている。
「もしかして『へー、君が特待生のリリアさん』とか言って話しかけたの」
「え、なんで分かるの?」
ゲームと同じセリフである。
なぜか都合よく攻略対象者がヒロインに絡んでくるのをツッコミをいれながらプレイしていたものだが、裏にはこんな事情があったわけか。
「あなたが言いそうなことだから。でもなんでいきなり話しかけたの? 昨日は様子を見るつもりだったじゃない」
「あ、それがさあ。朝クラスに入ったら前の真ん中の席だけ変な空間が出来ててさ、そこに女の子がぽつんと1人座ってたんだよ」
「…………」
暗黙のルールで前の席は貴族が座るものと決まっている。
もちろん馬鹿げた話である。
「どこに座ろうと彼女の自由だわ。私がそこにいたら、彼女の隣に座ってたわ」
「うん、君ならそうすると思ってさ、彼女の隣に座ったよ。セスもつきあってくれた」
「正しい判断だと思うわ。それでリリアさんはどんな様子だった?」
「彼女には前の席は貴族が座るのが通例になってるって説明したんだけど、とにかくきちんと授業が受けたいからって今日1日前の席で頑張ってたけど。まあ、明日からは、どうかな」
真面目なのだ。きっと故郷の学校でも一番前の席で勉強していたのだろう。間違ったことではないのにこのままじゃ、彼女が孤立してしまう。
「トリスタン、明日からもリリアさんをささえてほしいの」
「はいはい。どうなるか分からないけどね」
リリアの問題は翌日には前進が見られた。同じ平民のビビアンという女子学生が彼女の隣に座ったのだ。
トリスタンによると同じ寮の同室の子らしい。昨日は一緒にいる勇気がなかったのだそうだ。
そういえば、ヒロインの親友キャラがそんな名前だったような気がする。
このまま上手くリリアが馴染めるといいと思ったのだが、そこまで上手くはいかなかった。
結局平民の中でリリアとビビアンは浮いた存在になってしまい、授業は前の席でビビアン、リリア、トリスタン、セスという固定メンバーで受けているらしい。
1年の平民学生のとりまとめ役は騎士の家系のガウェインに決定し、全てのとりまとめ役の集まった会合が行われることになった。




