グウィネビア様、破滅エンド回避のために動き出す(後編)
「ソフィア、ガウンをとってちょうだい」
「?! グウィネビア様、まだ動くのは…… 」
「とくに来客はないわね。お父さまのところに行きます」
「いけません! 寝間着ですよ?! ガウンを羽織っただけで部屋の外に出るつもりですか? 先生の言い付けを守ってください。安静です。絶対安静ですっ」
いや、絶対安静は言われてない。
さすがお嬢様付きの侍女。心配性である。くしゃみひとつで軟禁されそうな勢いだ。
ソフィアは私より少し年上の17歳だ。頭の回転も早く細かいことにもよく気がつく。私にたいしても立場をわきまえた上ではっきりと発言するかことができる。友人であり腹心である。
ゲームに登場したかどうかは分からない。もしも私が我を忘れ、無様を晒すことがあればどれほど苦しみ悲しむだろう。
私を愛する人、私が愛する人たちのためにも私は最悪の未来を回避しなければならない。
「大事な話があるの。お父様に伝えて。今すぐお話したいことがありますと」
ソフィアが部屋を出ていき侍女頭の元へ向かう。相当時間がかかるだろうと覚悟をしたが、意外にもお父様はすぐに来てくれた。
落馬して気絶していた娘が急に話をしたいと言いだしたのだ。心配したのだろう。
「わたしとグウィネビアだけにしておくれ」
執事+αを伴い部屋に入ってきたお父様は、すぐに人払いの指示を出す。ソフィアを含めて全員が出ていった。
「さて、可愛いお嬢さんとどんな話をしようかな」
そう言いながらお父様は優秀な侍女ソフィアがぬかりなくベッドの側に用意していた椅子に腰をかける。
ちょうどベッドで上半身起きあがっていた私は同じ目線になったお父様の顔をじっとみつめる。
エバンズ公爵。
娘グウィネビアとおなじ暗い髪をもった父。年齢は35歳。若くして国務大臣に就任した、家柄、能力ともに揃った男。娘が王子と結婚したならその権力は絶大なものになるであろう。
結婚したならば。
意を決して私は口を開く。
「お父様、先日のお話。まだ返事はしていませんよね。私と殿下の婚約ですが、お断りしていただけますか?」
実は現時点でグウィネビアは王子と婚約していないのだ。
そもそもゲームはまだはじまっていない。
ゲームはキャメロット学園の入学式から始まる。今から半年後のことである。
婚約さえ回避できれば、婚約者の王子を他の女性にとられた令嬢はいなくなる。
グウィネビアの悲劇は回避できるのだ。
まだ間に合う。
……はずなのだ。