グウィネビア様、不本意ながら○○になる
学園で侍女を伴って歩くのは入学式などの式典やイベントの時のみである。また、ダンスや馬術の前の着替え等がある場合も各家庭から侍女がやってくることがある。
貴族、とくに令嬢のなかには人生で始めてお供のいない生活を送るものも少なくない。
私もその1人だ。
不安もあるが解放感もある。
初日の午前中の授業は滞りなくなく終了した。朝、教室に入って私の方から平民に挨拶したら周囲が若干凍りついたくらいで大きなハプニングはなかった。
食事のあと私はセシルたちと教室に向かう途中、ランスロットとオスカーに出会ったので、3人で少し立ち話をした。
その間にセシルたちは教室に行き、私も話を終えて教室に向かうことにした。そして気がついた。
グウィネビアの人生で初めて完全に1人になったということに。
私は教室にまっすぐ向かうのを止めた。
渡り廊下の左には噴水とベンチが見える。制服の学生が座ってパンをかじっていた。なるほど食堂に行かなくてもあんな風に外で軽食をとるというのも悪くない。
私は、魔術棟に向かう。1年の基礎魔法学ではほとんど使用されることのない魔術棟は昨日もちらっと外観を見ただけであった。
魔術棟の中でも建国以前からあったという古い塔の前に立つ。この塔は残念ながら使用されておらず、入り口にはロープが張られ、立入禁止の立て看板がたっている。
その隣には塔の歴史を刻んだレリーフが設置されている。これが見たかったのだ。
ここにはこの大陸の魔術の歴史が刻まれているらしい。
もっとも文字はなく、絵のみである。それも時の風化に耐えきれず、あちこちが欠け、何が描かれているのか分からない。
見ることができただけで満足だ。
私はきびすを返し教室に帰ることにした。
さて、私は貴族令嬢である。
外を出歩く時は馬車で移動して、歩くときには前後に誰かが付いている。
いつも誰かに案内されながら歩いているので自分の方向感覚がどんなものなのか分からない。おそらく方向感覚に極めて優れている、というわけでもないだろう。
しかしグウィネビアはあらゆる能力において、やや優れているといってよい人物である。
そんな私が方向感覚を失う、ということは、歩けども歩けども目的地にたどり着けないということは、率直に言って学園内の建築物の配置の問題であり、デザインの敗北と言ってもよいのではないだろうか。
何が言いたいのかというと、私は迷っているのだ。
早い話が迷子である。
気がつくと周り誰もいない。皆授業に向かったのだ。もう誰かに教室の場所を尋ねることもできない。
しかし奇跡は起こる。背の高い木の側に佇む制服の女子学生の後ろ姿が見えたのだ。
木の幹に手を触れ何かに祈っているかのように見える学生に私は話しかけようとした。その時彼女は振り返る。
明るいピンクがかったふんわりとした金髪に、やはり明るい空色の瞳。
私は彼女にあったことがない。
しかし私の直感は告げていた。
「あなた、もしかしてリリアさん?」
「!! 私が分かるんですか」
そう、彼女は特待生、そしてあのゲームのヒロインとなる少女なのだ。
そして
「あの! す、すいません。1年の教室、どこですか?!」
迷子である。
ピンクがかった金髪は、ストロベリーブロンドのイメージです。




