グウィネビア様、やたらと濃い入学初日にひたすら疲れる
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入学式の後、ヒロインは学園内で迷子になる。
迷っていると出会うのはランスロット様だ。いきなり本命登場である。ここでヒロインは自分が首席だったことを知る。
ランスロット様は「君こそ、新入生代表として挨拶するべきだった」とか言って、ヒロインはひたすら恐縮するのだ。
現代じゃあるまいし身分制の社会で王子を差し置いて庶民が代表になるわけないだろ、とかツッコミいれながら画面を見ていたものだ
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その後も学生たちの現況やら学園の諸問題についてざっくり説明を聞いた。
次に集まるのは2年生が落ち着き(1年とは違いコース別に分かれるのでいろいろ準備があるらしい)、1年の平民のとりまとめ役が決まってからとなった。
すでに1年のお茶会は終了し、トリスタンたちは先に帰ると連絡を受けている。
オスカーとノーラが退出し、私たちはそれぞれの従者を待つ間、二人きりになった。
「エバンズ公爵から君の奮闘ぶりを聞いてね。頑張ったのさ、でも君にも例の特待生にもかなわなかった。まいったよ」
すいません、すいません、すいません。
「君こそ新入生の代表にふさわしい生徒だよ」
「そんな……」
いや、まあ、ちょっとは思う。
もしも学園が貴族だけのものなら、私が代表でもいいだろう。
それでもランスロットほど新入生代表にふさわしい学生はいないだろう。けして王子だからではない。
「試験の点数だけで計れないものがあるわ。ランスロットは2階席や1階の平民の方へ視線を向けてたでしょ。私はできない。今日、講堂に入った時、平民たちがこっちを見る不躾な視線が怖かったの。どの学生とも公正に接したいと思ってるの。本心から。でも、怖いって気持ちを押さえられなかった。ランスロットだから平民に語りかけるように話すことができたのよ」
ノックの音がしてソフィアとランスロットの従者が入ってくる。学園生活1日目はこれでおしまいだ。なんだか濃い1日だった。ランスロットはまだ用事があるようで教職員棟に向かう。私は門に向かいながら、ふとあることを思い出した。
入学式のあとヒロインは迷うのだ。あちこちをうろうろしているうちに王子に出くわすという珍事に遭遇する。
そこでランスロットから「君こそ新入生代表にふさわしい」と言われるわけだが、このセリフ、さっき私がランスロットに言われている。と、いうことはヒロインとランスロットはどんな会話をするのだろう。
そもそも2人は出会うのだろうか。
屋敷に帰り、食事を済ませると私は居間で読書をしていた。トリスタンがやってきて手前の長椅子に座る。
お父様たちがいらっしゃる食事中には1年のお茶会は無難に終了したようなことを言っていたが、例によってジョフリーに絡まれ気味だったようで、早速嘆き節が始まった。
「でも変ね。今日のジョフリー、すごく紳士的な態度だったわよ。ランスロットがいなかったら、あなたたち対立する必要ないんじゃない?」
「僕がさ、エルザやセシルに話しかけるたびに睨み付けてくるんだよ」
「ジョフリーはエルザかセシルが、そのう……好みっていうこと?」
王子争奪戦の次は女の子の取り合いなのか。忙しいことだ。
「いや、それもあるかもしれないけどね。君がいなくなってからは、自分が中心になりたかったみたい。でもあいつ、自分の知り合いしか話しかけないからさ。田舎の子とか話始めると睨むんだよ」
その場に居なかったから状況が上手く把握できないが、ジョフリーとは同じクラスだ。彼のことはおいおい分かるだろう。
きりがないので私は話題を変えることにした。
「ねえ、トリスタン、頼みたいことがあるの」
「何なりと女王様」
「嫌だ、やめてよ、そんな言いかた」
「いやー、生まれてこの方頼み事を断られたことのない人の圧を感じたもんでついね」
なんだか既視感のある会話である。
「あなたのクラスにリリアっていう名前の平民の女子学生がいるんだけど、知らない?」
「初日だよ? 平民なんて分からないよ」
まあ、その通りだ。
「今日、ランスロットや上級生と話しをしたんだけど、その子、初めて特待生制度を利用して入学したらしいの。平民っていっても学園に通えるくらいだから、裕福な子が多いけど、その特待生の子は田舎の農民の子なんですって」
「富農ってこと」
「ううん、そういうんじゃなくて……」
首都に住んでいると分かりづらいが、田舎では裕福な農民が強い力を持っているらしい。
学園の地方出身者には富農層も若干だがいるようだ。しかしこのあたりのことはほとんど分からない。
今日1日で思い知ったのだが私には平民に対する知識が絶望的にない。平民が学生の中にあれほどいるなど知らなかったくらいだ。
「聞いた話だから私もいまいち分からないのだけど、家が貧しくても優秀な子を学生にするのが特待生制度なの。特待生になれば学費は無料らしいのよ。他にも制服や住む場所も学園から提供してもらえるんですって」
「へー、いいね、それ。貴族よりよくない? 特待生になれるなら、僕も勉強頑張ればよかったかなあ」
「成績優秀なだけじゃダメなの。学費が払えないほど貧しいとか地方出身とか。今までは審査が厳しすぎて誰も条件をクリアできなかったみたい」
特待生制度自体が3年前に出来たもので、反対意見も結構強い上にこの制度の存在自体知らない人間も多いらしい。
今のところ試験運用といったところだが、試験運用に利用される学生はあまりにも気の毒ではなかろうか。
「ふーん、で、田舎の農民の女の子ですごく賢い子がいるってことなんだね」
「おまけに彼女の周りに学園の特待生制度に詳しくて手続きしてくれる人が多分いたんでしょうね」
彼女は平民に文字書きを教える田舎の学校で、学園出身の教師に才能を見いだされ特別に教育を受けることが許されたのだ。
たしかそんな設定がゲームの冒頭で紹介されていたのだが、グウィネビアが知っているはずのない知識であるので、トリスタンに言うわけにはいかない。
「で、その子……リリアさんが何?」
「彼女をそれとなく守ってほしいのよ」
「はあ? なんで僕が……」
「クラスで一番身分が高いのはあなたでしょ。リリアさんは、平民といっても首都出身でも裕福な家庭の子でもないの。同じ平民でも、価値観や常識が違うかもしれないから平民内で孤立する可能性もあるの。3年のオスカーさんたちも心配してたわ」
「いや、いや、それ平民の問題でしょ。僕が口だしたらかえってその子の立場が悪くならない?」
トリスタンの言うとおりである。
「だから見守るだけでいいの。その子がクラスで上手くやれるなら問題ないの。困ったことになってるようだったら、その時は守ってほしいの」
「いや、それ、難しいと思うけど……。はあ、まあ、とりあえず頑張るから、期待しないで貰えるかな」
かなり曖昧だがトリスタンの協力を取り付けた。
寝室に入ると1日の疲れがどっと出たのか、立っていることさえ困難に感じた。
明日から本格的な学園生活が始まるのだ。




