グウィネビア様、放置プレイに耐えかねて、いつものように仕切り出す
教室で一年間のごく簡単なカリキュラムの説明を受け、私たちはあっさり解放された。学校の施設などの見学、クラスメートの自己紹介など一切なしである。
え、おしまい?……え?
という空気が教室中に蔓延している。
しかし終わったのである。
職員は一切の質問を受付ずさっさと教室を出ていった。
周りを見るとめいめいが知り合い同士で集まっている。知り合いがいない生徒たち、私服組も制服組にも1人で呆然としている子たちがいる。
「ねえ、学園の施設の説明って何もないけど、どうしたらいいのかしら」
私はセシルに訪ねるとまわりの生徒もこちらを向く。
「私たちが式典に出ている間に侍女たちが聞いてるわ 、ほら」
セシルは、教室の入り口に目を向けた。そこには複数の人影があった。貴族の学生たちが連れてきた侍女や従者たちだ。個々に彼らに案内させるようだが、どう考えても非効率だ。
「セシル、一緒にまわりましょ。ジョフリーさんはどうされます」
「うーん、僕は兄について来たこともあるけど……。ちゃんと見学しとこうかな」
ジョフリーも一緒に行動することになったので、私は思いきって周りの学生にも声をかけた。
結果、クラスの貴族が一団になって行動することになった。
途中、トリスタンやエルザ、セスとも合流し、私たちは魔術棟や武術訓練所、ダンス練習場などを見学した。ちなみにランスロットはいない。どうやら上級生に呼ばれたらしい。
「ねえ、平民の学生はどうするのかしら、誰もついてきてないわよねえ」
私はさっきから気になっていたことを誰にとはなしにつぶやいた。
疑問に答えてくれたのはセスだった。
「平民はね、早い時間に来てもうあらかた見ちゃったんですよ」
数年前まで平民だったセスは、もしかしたら制服組に知り合いがいるのかもしれない。
「あら、そうでしたのね。でも一度見ただけではとても覚えられそうにありませんわ」
私が言うと、周りから同意の声があがる。
学園は広い。複数の建物があり、見たことのない建築様式のものもある。
庭が点在しているが、生徒の憩いの場として計画的に配置されたというより、たまたま空いた土地を庭にしてみたといった感じである。
増改築を繰り返したのであろう建物内部はかなり入り組んだ作りをしている。
一度確認したぐらいではとても覚えられるとは思えない。それでも私たちが確認したのは1年が使う施設のほんの一部にすぎない。
各建物の入り口、廊下の壁の要所要所に地図があり、迷わないよう配慮してあるのだが、それでも真っ直ぐ目的地にたどり着くのにはそれなりに時間と慣れが必要だろう。
「もう歩けない……」
誰かがつぶやいた。正直私も同じ気持ちである。
「最後は食堂にしましょう。お菓子とお茶くらいなら用意してもらえると思うわ」
セシルの言葉にしたがい、一同で食堂に向かう。
食堂は独立した建物になっていて、入口前までいくと待機していた給仕が扉を開けてくれた。
「ここからは、私どもが皆様をご案内いたします」
別の給仕が出て来て、私たちに会釈をする。ここからは連れてきた侍女や従者は入れないようだ。
給仕に案内されながら私たちは食堂に入る。そこには数人の学生がいて、本を開いたり、歓談を楽しんでいた。慣れた調子で座っているので全員上級生だろうか? 皆、私服である。
「今、いらっしゃるのは2年生以上の皆様です。今日は授業はないのですが、自習や研究などは出来ますので、食堂もこのように開いています」
給仕が丁寧に説明してくれる。私は食堂をゆっくり見回す。
『食堂』という名からは向こうの世界の学食をイメージしていたが、どちらかというとレストランに近い。6人がけのテーブルには全て白いクロスがかけられており、簡素ではあるが上流階級の食卓仕様となっていた。
「向こうはテラス席、さらに個室がございます」
給仕が示す先には中庭があった。
今日は天気がよいからなのか、両開き扉が全開になっている。
テーブルが用意されているが学生はほとんどいない。
中庭の向こうは廊下があり、さらに先に部屋がいくつかあるようで、そこが個室らしい。
「ねえ、せっかくだからテラスでお茶にしませんか?」
私が言うと、皆が同意してテラスへ向かう。
私は給仕に向かって今日はどんなものが出せるのか、今来たもの全員でお茶をすることが可能かを訪ねる。
数人の給仕がやってきて、こちらの要望に答えて席を近づけたり椅子を並べかえてくれている。
自分で言うのは何だが新入生のクセに態度がでかいような気がする。
大丈夫だろうか? 今さら手遅れだがこんなに仕切っていいのだろうか?
などとつらつら考えていると、テラス側とは反対小さく入口があるのに気がついた。
「あちらは何? 厨房かしら」
私が聞くと、給仕が「従者の方々や平民の学生の食事をする場所」と答えた。
「あら、分かれてますの? その……貴族でない方々と私たちは、同じ場所で食事は出来ないのですか」
私は尋ねると、給仕にとっては予想外の質問だったようで、しばらく間があった。
「え……、いえ、その。とくに分けられているものではなくて、その自然とそうなっておりまして……」
「そうでしたの」
私はそこで興味を失ったようなそぶりをして、会話を打ち切った。
同じ学園で、同じ教室で学ぶものがここまで隔たっているとはどういうことだろうか。これなら貴族と平民で学舎自体分けたほうがまだマシなような気がする。
同じ空間にあからさまに差別を受けているものがいると思うと気が滅入るのだが、他の学生はどう考えているのだろうか。
私は、内心、うんざりしていた。




