~卑劣! もうちょっとだけ(拷問が)続くんじゃよ~
本当ならパルに色々と拷問を実践してもらうところだったのだが。
その前に女盗賊の心が折れてしまった。
「なんかやっておきたい拷問とかあるか?」
「う~ん? あ、くすぐるのやってみたいです」
「アレ、あんまり効果ないと思うぞ?」
そうなんですか? と可愛らしく首を傾げるパルにルビーがやわらかそうな鳥の羽根を差し出した。
どこに持ってたんだ、というツッコミはいらないだろう。
いま、影から作り出したに違いない。
「ちょうど裸足ですし、やってみてはいかがでしょうか」
「はーい」
パルは女盗賊の足を羽根でくすぐる。
しかし――
「……うぅ、ぐす……」
泣いてた女がその程度で笑い転げるか、という問題の前にあえなく玉砕した。
「ルクスさんだったら、今ごろ死んでそうなのに」
「それは、さすがにゲラゲラエルフを見くびり過ぎだろ……」
この程度で死んでしまっては、おちおち笑い話もできない。毎日瀕死の重要を追うのではないだろうか。かわいそうに。
「くすぐりは、まぁ時には拷問に成り得るとは思うけど。自分の命が危険にさらされている時に笑っている場合か、みたいな感じで効かないんだよなぁ」
「そういうものなんですか、残念」
可愛らしい拷問、としてはいいけどな。
パルの全身をこちょこちょとしたい欲求はあるし、それでケラケラと笑ってくれるパルとイチャイチャしたい――
「やめろ」
ナーさまに蹴られた。
「ありがとうございます」
思考の暴走を止めていただき、感謝の極み。痛くないのが素晴らしい。
「こほん。基本的に、くすぐったい場所ってのは人体の急所だ。人間の中心ラインにある急所は除外するとして、脇腹や足の裏がそうだ。で、ここを触られるとくすぐったいのは信頼の証と言われている……と、聞いたことがある」
「そうなんですの?」
ルビーの純粋な言葉に俺はうなずく。
「本来なら傷を付けられると危険な場所だ。他者に触らせると本能的に危険を感じる部位でもある。だが、自分を傷つけることがないと信頼している相手に触られると、本能が混乱を起こしてしまう。危険だが、危険ではない。よって、奇妙な痛みとなってくすぐったさ、を感じるらしい」
「ほへ~。ふひひ」
俺の説明を聞いたパルとルビーが手をわちゃわちゃと動かして俺の脇腹を触るが――
「そうだった……師匠ってば、隠しナイフだらけで硬いんだった……」
「つまんない男ですわね。むしろ周囲をまったく信頼していないのでは?」
そういう結果になる。
ごめんね。
「俺の代わりにサチでもくすぐってくれ」
「……え?」
普段物静かなサチが笑い悶え苦しむ様子は、少し見てみたい。
「分かる。解かる。理解る」
ナーさまが三度うなずいた。
「あははははは! やめ、て! んっ、んぅ! あ、あ、あっ、んぅ、ダメ、ダメだからぁ……あ、あっ、んっ、ふあ……んっ、んあ……はぁ、はぁはぁ、あんっ……!」
……な、なんか途中から笑い方の種類が変わった気がするが。
う、うん。
気のせい気のせい。
ですよね、ナーさま。
「さて、どうかしらね」
なんで嬉しそうなんですか!?
「よ、よし。では情報を洗いざらい話してもらおうか」
「アタシはなんで、こんなヤツらに……」
がっくりと女盗賊はうなだれたまま、俺の質問に答えていく。
本来なら、ひとつひとつ情報の精査は必要なんだろうけど。ここで嘘をつくメリットは女盗賊になさそうだ。
なにせ最初にお金を提示した時点で裏切る気まんまんだったしなぁ。
いわゆる忠誠心は低いんだろう。
「ふむ。ではまとめるので訂正があれば教えて欲しい」
「はい……ぐす、どうぞ」
「内容が少々性的な小説を偽装して売って欲しい、という最初の依頼があった。そのうち、偽装した本が高値で貴族に売れ始めた。だが、このままでは中身は同じで、わざわざ高価な偽装本は売れなくなるのではないか。そう考えたおまえ達はニセの神を作り出し、本来の本を売れなくしようとした」
以上で問題ないか、という問いに女盗賊はうなずく。
「問題ないです……」
ふむ。
大筋で予測は合っていたようだな。
「では、途中で本が大量に詰め込まれた木箱を無くさなかったか? これくらいの大きいヤツ」
と、俺は手で大きさを示してやると、女盗賊はコクコクとうなずいた。
「無くしました。というか、それを運んでたヤツがいなくなったので、裏切ったのかと思ってたけど……」
「たぶん殺されたな、そいつ」
「え、どういうことですか……?」
俺は血まみれの木箱が見つかっている事と近くに新種のスライムがいたのを教えてやった。
「は、はぁ……食べられた、と」
「あくまで予想ではあるが」
あまりショックを受ける様子はないので、やはり忠誠心は無いようだ。
「他に情報はあるか?」
「別に……」
女盗賊は首を横に振った。
ようやく落ち着いてきたのか、涙は引っ込んだようでなによりだ。
「ではおまえ達の組織を壊滅させてくる」
「え、はぁ……どうぞ」
なんとも気の無い返事だなぁ。
やはり、忠誠心とか帰属意識とか皆無のようだ。他の組織に所属しているわけでもなさそうだし、マジで野良の盗賊だったのかもしれない。
冒険者でもやってりゃいいのに。
貴重なんだぞ、盗賊って。
「では遠慮なく襲撃させてもらう。全員死ぬかもしれないが、いいんだな?」
そこまで言って、初めて女盗賊は思考を巡らせるように視線を動かした。
「……ひとり、仲良かった子がいるので。その子は助けてあげて欲しいような……うぅ」
「分かった。そいつの特徴を教えてくれ」
「助けてくれるんですか?」
「いや。利用するだけだ」
「あ、はい……」
ちょっぴり落ち込みながら特徴を教えてくれる女盗賊。仲良かった、というので同年代の女性かと思ったら、年下の若い男の子らしい。
「聞き捨てなりません言葉を発しませんでしたか、いま!?」
「ややこしくなるから、今は来るな」
吸血鬼を退けておく。
危ない危ない。
話が大幅にズレるところだった。
「よし。では、さくっと壊滅させよう。パル、行けるか?」
「いつでも!」
「よろしい。ところで、サチは大丈夫か?」
「……ダメ」
ぐったりと神官服を乱しながらベッドに息も絶え絶えで倒れているサチ。
う~む。
今までサチに色気はぜんぜん感じなかったが、なかなかどうして素晴らしいのかもしれない。
いいな、幼気な少女から感じる色気というものは!
「でしょう」
なぜかナーさまが自慢気に薄い胸を反らす。
素晴らしい。
全てが素晴らしい。
「では作戦を伝える。とりあえず、前報酬で上級銀貨だ」
「えっ、いいの?」
女盗賊の縄をほどいて、上級銀貨一枚を渡した。
裏切らせるには充分な金額だが、ダメ押しをしておこう。
「成功したら金貨一枚やる。裏切るなよ?」
「裏切りません」
「ついでに盗賊ギルドに入れ」
そこは嫌そうな顔をする女盗賊。
「なにが不満だ?」
「上納金……」
「それは我慢してくれ。別に強制的に徴収するわけじゃないし、余裕ができたら払う程度でいい。なにより、偽装本を安全に貴族相手に売りさばいてくれるぞ」
まぁ、売り上げからピンハネされるが。
「そうなの?」
「何か勘違いしてるようだが、上納金は強制徴収じゃない。任意だ。多少は払わないと文句を言われるかもしれないが、基本的には自由だぞ。加えて、仕事もまわしてくれる。場合によってはおつかい程度で金がもらえる美味しい組織だ」
「もしかして、あなたって盗賊ギルドの幹部……?」
「そうですわよ。聞いて驚きなさい。この素晴らしいお方こそ、盗賊ギルド『ディスペクトゥス』のギルドマスターであるエラントさまです!」
ルビーが、じゃじゃーん、と奇妙な言葉を発しながら俺を紹介した。
「ディ、ディスペクトゥス……! 聞いたことあります! 凄腕の盗賊集団で、貴族や王族の依頼を解決してるスペシャリストだって! そ、その幹部さまですか!」
「お、おぅ」
いや、そうなるように噂を流させたのは俺自身であり、ほぼ真実ではあるのだが……
面と向かって言われると、なんとなく恥ずかしい。
「アタシもディスペクトゥスに入れるってことですか!?」
「いや、ダメだ」
えぇー!? と、女盗賊は驚く声を出した。
「な、なんでダメなんですか?」
「ババァだからですわ」
「ちょっと黙っててくださいますか、本物のババァ」
誰よりも年上が加入してる時点で年齢制限はありません。
「年齢制限……十代じゃないとダメ……い、いったいどうして……ハッ、まわりがカワイイ女の子ばかり……そ、そういうこと!?」
「ほらぁ! ルビーのせいで、こんな理解になっちゃったじゃないか!」
女盗賊が自分の顔を触っている。
充分それなりにまぁまぁ整っている顔立ちですから安心してください――なんて俺が褒めるとでも思ったか!? 俺が二十代の女を褒めるわけがないだろうが! ババァが!
あぁ、ちくしょう!
情緒が!
情緒が壊れる!
慰めたいけど、慰めたくない!
「愉快よね、あんた達。やっぱり面白いわ、地上は」
「……高みの見物ですね」
「あら、上手いこと言うわねサチ。くすぐってあげましょうか」
「はい」
「即答したわね。ほらっ」
「ふふ、あははは……んっ、はい、ナーさまも」
「あ、こらやめなさい、サチっ! あは、あはははははは!」
あぁ。
俺、あっちに混ざりたいです。
なぁ、おまえもそう思うだろ勇者よ。
――否定される気がするのは、なんでなんだろうな?




