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卑劣! 勇者パーティに追い出されたので盗賊ギルドで成り上がることにした!  作者: 久我拓人


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~可憐! ひとりぼっちの訓練~

 目が覚めたら夜明け前だった。

 いつもどおりだけど、今日はルビーからの奇襲がなかったので気分がいい。


「ん~ぅ~っ!」


 右手を天井に向けて伸びをする。

 うん!

 今日も体調ばっちり大丈夫。

 毎日こんな気分で目覚めたいけど、師匠の言うとおり、これは本当に弱くなっちゃいそうな気がする。やっぱりルビーの奇襲は必要なんだよなぁ、なんて思っちゃう。


「布団が気持ちいいもんねぇ~……」


 ふかふかの布団が愛しい。冬は最高にしあわせな空間になるので、出たくなくなっちゃったけど、春になると平気。

 一度あの気持ち良さを知ってしまったら、ルビーの攻撃でもないと起きられないかもしれない。

 なんてことを思いながら廊下に出ると階段上のスペースにルビーがいた。

 いつもごはんを食べているテーブルで本を読んでる。


「おはよう、ルビー。もしかして、昨日からそのまま?」


 夜にリンリーさんとごはんを食べて帰ってきたらルビーはここで本を読んでた。なんでも、部屋に戻るのも待ちきれなかったらしく、そのまま読み始めたらしい。

 退屈だ、退屈だ、って言ってるくせに好きなことには我慢できないみたい。もうちょっとで自分の部屋だっていうのに。


「おはようございます、パル。もうそんな時間ですか」

「朝だよ~。まだ読んでたの? ルビーって読むの遅いんだね」


 そこまで分厚い本じゃないと思ったけど、朝までかかってまだ読めてないみたい。

 と、思ったら――


「三週目ですわ」


 同じ本を連続で読み続けてるらしい。


「そんなに面白いの……?」

「はい。見てください、最近の流行である挿絵付きの小説です。絵が複製できるようになったおかげです。これは最早芸術の領域と言っても過言ではありません。小説に書かれている場面をより一層と想像できる素晴らしい文化ですわ」

「はぁ……そんな凄いんだ」


 あたしは小説とか全然読まないので、そこまで感動はできなさそう。


「絵本じゃダメなの?」

「絵本で殿方が水浴びをするシーンを描くと、子ども達が大変なことになります」


 ルビーがパラパラとページをめくって挿絵を見せてくれる。

 そこには痩せてるけどしっかりと引き締まった筋肉の男の人が水浴びをしている美しい絵画が描かれていた。


「えっろいですわ」

「これを見てえっちだと思うのは、おかしいと思う……カッコイイなら分かるけど」

「いいえ、これはえっちです。そこらのおばあちゃまに聞いてごらんなさい」

「おばあちゃん限定なんだ」


 年を取ると筋肉がえっちに見えるのかなぁ……?


「ところで師匠は?」


 ぜんぜん気配がないから、もう先に起きちゃったのかな。

 そう思って聞いてみたけど、ルビーは首を横に振った。


「まだ帰ってきてませんわよ」

「え!?」


 嘘、どういうこと!?


「確か盗賊ギルドに行くって言ってて、それからえ~っと……師匠どこー!?」

「落ち着きなさい、パル子」

「パルコってなによ。師匠がどっかいっちゃったらイヤじゃん」


 転移の腕輪を持ってるから、どこか遠くに行っちゃったら置いていかれたみたいでイヤだ!


「違います。あなたの頭の上に付けている、その忌々しいリボンを思い出せと言っているのです」

「あ、そうだった」


 光の聖骸布。

 能力を引き上げてくれるんだけど、今は切り札として使うようにしてる。ついつい、同じ聖骸布の位置が分かる能力を忘れちゃうんだよね。記憶力はいいけど、それを使いこなせないのがなんとも情けない。

 普段は赤色のリボンに少し意識を向けると、他の聖骸布の位置がなんとなく分かった。


「あれ、めっちゃ近い」


 もしかして近くにいる?

 と、思ったら一階の入口が開く音がした。


「師匠~?」


 階段の下へ向かいながら声をかけると、あぁ、と声が返ってくるけど弱々しい。

 一階まで下りると、ふらふらの師匠がいた。


「わぁ、大丈夫ですか師匠!?」


 慌てて支えようとするけど――


「うわ、お酒くさっ!」


 すっごいお酒のにおいが師匠からただよってきた。


「すまん。ゲラゲラエルフに付き合わされて飲まされた。大丈夫だから、まぁ、離れててくれ」


 あ、くさいって言われたので気にしちゃってる。

 師匠は酔っ払ってても可愛いなぁ。


「大丈夫です。あたし、路地裏出身ですから」


 酒場の近くなんかは食べ物とかよく捨ててあったので、お酒のにおいはよく嗅いでた。

 あんまり好きなにおいじゃなかったけど、逆に食べ物があるにおいって感じ。

 まぁ、競争率が激しかったので、危険なんだけどね。あと、冒険者が多いので睨まれたりしたら本当に危ない。

 朝方をちょっと過ぎたあたりが狙い目だよ。


「はい、師匠。こっちこっち」


 手を繋いであげて、師匠を部屋まで連れて行ってあげる。


「ルビー、お水取ってきてあげて」

「分かりました」


 パタン、と小説を閉じたルビーは水瓶を持って外へと出ていく。それを見送りつつ、師匠をベッドへと寝かせた。


「ふひひ。今なら師匠とイチャイチャし放題かも」

「やめてくれ、パル。マジで襲いかねん」

「……むしろ嬉しいんですけど?」

「酒の力でそんなことをやってみろ……死ぬまでその思い出に浸ることになる」

「いいことでは?」

「俺はもっとロマンチックがいい……」

「師匠、そういうこと言うのやめて」

「すまん……キモいよな」

「違います。師匠が可愛過ぎて、あたしが我慢できない」


 なんかこう、胸の奥がきゅ~ってなった。


「ちゅーしていいですか」


 返事を聞かずに師匠とキスしたけど……


「お酒くさ!?」

「ほらみろ……酒の力はやっぱ思い出が悪くなる……」

「師匠が正解でしたぁ」


 残念。

 ロマンチックじゃなくてもいいけど、お酒くさいのはイヤだなぁ。と、思いました。


「お水持ってきましたわよ。はい、師匠さん飲んでくださいな」

「ありがとう。パルとルビーがいてくれて、本当に嬉しい。最高。しあわせ」

「ふふ。今すぐ抱いてくださってもいいのですよ。今ならお酒の力を借りて――」

「ルビー、それもうやった」

「え、さっきの間に初体験を!?」


 違うちがう、とあたしと師匠は首を横に振る。師匠はそのせいで、余計にぐったりしてしまった。


「お酒くさいと悪い思い出になっちゃうよ、って。師匠ロマンチック~って思ったけど、キスしたらホントにお酒くさかったので、やめたほうがいいよ」

「キスしたんですか。では、わたしも」


 ルビーが師匠さんにキスするが……


「ホントにお酒くさいですわね」


 苦笑しつつもルビーは師匠のベルトに手をかけて、外しはじめる。


「ちょっとちょっと!?」

「あぁ、勘違いしないでください。衣服をゆるめると楽になるんです。ただでさえガッチガチに装備を固めてるんですから、少しはゆるめないと休めませんわ」

「そっかぁ。びっくりした」

「はい、ですのでこれは師匠さんのため。仕方がないですわよね、仕方がない。はい、仕方がないんですのよ。うん」


 すっごく言い訳しながら、なんか必要以上に脱がせてない?


「わぁ、師匠」

「お元気ですわね、師匠さん」

「おまえらが悪い……見ないでくれ、こんな俺を見ないでくれぇ……」


 師匠は丸まるように布団の中に隠れてしまった。

 ただし、顔だけ。

 見えてる見えてる。


「はいはい、見ませんので下半身も隠してくださいな。ちゃんとお水も飲むんですよ」


 ルビーといっしょに師匠にお布団をかけてあげた。


「うぅ……ありがとう、パル、ルビー」

「どういたしまして師匠。ところで、朝の訓練はどうしたらいいですか?」

「ひとりで頼む……すまん……すまん……メニューはいつもどおりで。問題があればすぐに戻ってこい」


 酔っ払ってても的確な命令。

 さすが師匠!


「はーい。じゃ、行ってきまーす」


 師匠をルビーに任せて、あたしは家を出た。

 ちょうど太陽が昇ってくる頃。空が紫色に染まっていた。

 今日はいい天気になりそう。

 そのまま体を温めるために軽く走りながら街の外を目指す。冒険者の人たちが冒険に出発したり、商人の馬車が街から出たりしている。

 いつもの衛兵さんに挨拶しながら外へ出ると、少し速度をあげて走り始めた。

 同時に魔力糸を顕現させる。

 最初は太いのから初めて徐々に細くしていく。次はわざと切れる魔力糸を顕現したり、逆に丈夫なものを顕現したり、を交互に繰り返した。

 それを走りながら繰り返し練習すると、街の周囲を一周してしまう。

 二週目はツールボックスから盗賊スキル用の針の練習。これも走りながらさっきの応用みたいな感じ。

 魔力糸を顕現させつつ針に糸を通す練習。

 これは難しいので、どうしても速度が落ちてしまう。糸を通すのに集中すると走る速度が落ちちゃうし、走る速度を一定にしようとすると、針に糸が通らなかったりする。

 もっともっと練習しなきゃね。


「ふへ~」


 外周二週を終わらせると、近くの林に移動。


「ほっ」


 投げナイフの訓練。

 狙ったところへナイフを投擲しつつ、威力を高める練習。

 師匠の投擲する姿をしっかりと思い出して、それをトレースするように投げる。もちろん、師匠とは体がぜんぜん違うので、そっくりそのままやってもダメ。ちゃんとあたし用に改良していかないといけない。


「あ、お水飲まなきゃ」


 夢中になっちゃうとついつい飲むのを忘れちゃう。

 いつもなら師匠が言ってくれるけど、今日はひとりだから注意しないと。


「アクティヴァーテ!」


 休憩の後はマグを使った投げナイフでの攻撃。ナイフの重さを上げることによって、威力をアップさせたり、ナイフにかけると思わせておいて対象にかけたり、または単なるブラフで発動させなかったり。

 って感じなのを一通り繰り返した。


「ふぅ」


 投げナイフの訓練が終わったら、いつもなら師匠と接近戦をするんだけど……今日はひとりでナイフを振ってみる。

 素振りみたいな感じ?


「う~ん」


 でもなんか、しっくりこない。


「やっぱり相手がいないと……」


 師匠がいたとしたら、こんなふうに振ったりできるのに――


「あ、そっか」


 単なる素振りをするんじゃなくて、相手の動きを想定した素振りをしたらいいんだ。

 師匠がこう正面から迫ってくると仮定して、脇をすり抜ける感じで、こう!


「なるほど、素振りの意味が分かった」


 同じ動きを繰り返し練習できるから、それが強みになるわけか。

 ふむふむ、と納得しつつ繰り返し素振りをやってみる。


「はぁはぁ~……ふへぇ~」


 疲れ切ってヘロヘロになるまでそれを繰り返して、訓練終了。地面に座って、息を整える。

 いつもどおり汗だくになっちゃったけど、風が気持ちいい。

 少しだけ休むと、街の中へ戻る。

 いつものように衛兵さんに挨拶をした。


「今日はお嬢ちゃんひとりなんだな」

「師匠、今日は酔っ払ってさっき帰ってきたから」

「朝帰りか。こんな可愛い弟子がいるっていうのに悪い師匠だなぁ」


 あはは、と笑ってしまう。

 悪い師匠だよね~。

 ジックス街に戻ると、黄金の鐘亭に行く。


「おはよう、リンリーさん。お風呂入らせて~」

「おはようパルちゃん。昨日の女子会楽しかったらから、またやろうね」

「うん!」


 お風呂でしっかりと体を洗って汗を流す。

 ふぅ、さっぱりした。

 そして、ここからが朝の重要なポイント!


「パルちゃん、朝ごはん食べてく?」

「食べる!」


 食堂でリンリーさんと朝ごはん。

 いつもの朝で、一番しあわせな時間かもしれない。

 えへへ~。


「パルちゃん、今日は何するの?」

「師匠が酔っ払って帰ってきたから、今日はヒマかも。お手伝いしていい?」

「もちろん!」


 今日の予定が決定。

 さてさて、今日も楽しい一日になりそう!

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