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卑劣! 勇者パーティに追い出されたので盗賊ギルドで成り上がることにした!  作者: 久我拓人


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~忍者! 刺客~

 学園都市にようやく戻ってこられた時は、安堵の息を大きく吐きました。


「死ぬかと思ったな」

「死ぬかと思ったよ」

「死ぬかと思いました」


 ご主人様も那由多姐さまもシュユも、同じ言葉を漏らします。

 地図の外――世界の外。

 そこへ船と共に落ちた七星護剣を求めての幽霊船探索。中はゴースト種でいっぱいだったし、最後の最後は幽霊船が沈みました。

 なんとか脱出できたものの、落ち着くヒマも無くたどりついたのは巨大な生物が歩き回る島。大きなテントウ虫を見かけて悲鳴をあげてしまいました。


「せっかくだし、ちょっと冒険していこうぜ」


 姐さんの好奇心に呆れたものの、ご主人様もちょっとワクワクしている様子。仕方がないのでシュユも付き合うことになりましたが、何もかもが巨大な島なので、植物も巨大。

 美味しそうな木の実を見つけてお腹いっぱいになったのは良かったのですが……そこで大きな鳥に襲われてご主人様が誘拐されてしまいました。


「ご主人様!? ごしゅじんさまー!」

「旦那ぁ!」

「おぉ! どうやら巣にもちかえられるよーだー!」


 なんでちょっと余裕があるんですか、ご主人様!?

 と、叫んでいる間に大きな山の上に持ち帰られてしまうご主人様。


「どどど、どうしましょう!? 仙術を使うヒマもなかったです、姐さん!」

「おち、落ち着け、いや、落ち着こう。あの状態で鳥を落としたら旦那が落下死しかねなかったし。え~っと、とにかく旦那がさらわれた山へ行くぞ。じゃねーと、帰るに帰れない」


 というわけで、巨大島でご主人様を助けるべく大冒険する羽目になりました。

 ご主人様が鳥に食べられたのではないかと気が気でなかったのですが、その日の間に狼煙が上がったので安堵しました。

 でも、そこからが大変。

 なにせ巨大な島ですから、なかなか合流できない上に野生の動物というか昆虫ですら危険生物と化しています。

 怖かったのがアリでした。


「後から後から沸いてくるように……! ちくしょう!」


 木の上に逃げようとも追ってくるのがアリです。しかも餌と認定されたらしく、いくら倒してもいっぱい追いかけてきて、埒があきませんでした。


「さすがにアリは食えないよな、もったいない!」

「すっぱくて美味しいですよ。この大きいのは知らないですけど」

「おまえ割りと余裕があるな……」


 なんてことをやりつつ、ご主人様となんとか合流できました。


「メッセージの腕輪も欲しいところだな。作ってもらうか」

「はい、それがいいと思います」


 ほとほとに疲れ果てた気がしました。というか、いったい何日この島で過ごしたでしょうか。イヤになっちゃいます。


「小さいのっていいですね」

「うむ」

「旦那のそれは別の意味じゃねーのか……」

「いや、改めて再認識しただけだ。これは是非ともエラント殿に伝えたい。そんな気分だ」

「やっぱり別の意味じゃねーか」


 そして、ようやく転移によって学園都市に戻ってきました。


「まずは宿で休もう。さすがにクタクタだ」

「賛成。あたいは風呂に入りたい」

「シュユもです~」


 ドタバタと騒がしい学園都市ですが、今はそれが安心できるような気がしました。謎の巨大な獣の咆哮より、人間の悲鳴の方がよっぽど分かりやすいのですから。まぁ、爆発音と謎の魔法の光は同じくらい怖いですけど。


「うひゃ~、久しぶりの布団!」


 宿を取り、三人いっしょの部屋に入ると姐さんはベッドに倒れ込みました。

 気持ちは分かりますし、シュユもやりたいですけど、今は我慢です。

 窓に近づき、気配察知。

 誰もこちらを見ていないことを確認すると、この部屋を狙える場所を重点的に確認する。あの角とあの屋根とあの部屋。

 それらを確認して誰もこちらを探っていないことを確認すると、ようやく息を吐いた。


「こっちは大丈夫です、ご主人様」

「ありがとう須臾。廊下側も大丈夫だ。あとは左右の部屋だが……」


 ご主人様は壁に耳を付ける。

 シュユは反対側の壁に耳を付けて隣の様子を確認した。


「……隣はいないな」

「こっちもいないみたいです」


 外に出ているのか、それとも誰も宿泊していないのか。とりあえず、今この段階で見張られている様子は無し。

 改めて、ふぅ、と息を吐いてシュユもベッドの上に乗りました。

 姐さんの隣に座ると、やわらかい感覚にホッとします。

 硬い地面に野宿を続けたので、ホントに疲れました。修行時代はもっともっと酷い環境だったけど、疲れるものは疲れますし、知らない動物や環境ではやっぱり緊張します。

 無事に帰れたので、気が緩んでも許して欲しいですよね。

 まぁ、そう思っちゃうからこそ、シュユは『失格』なんでしょうけど。


「ちょっと風呂に行ってくる」

「あ、はい。行ってらっしゃいませご主人様」

「須臾は付いて行かなくていいのか? たまには旦那の背中を流してやりなよ」

「むむむ、無理ですぅ!」


 いえ、ホントは無理ではないし、是非ともやりたいのですけど……恥ずかしくてとてもじゃないですが、できません。


「ははは。さすがに風呂の中で誘拐されることはないだろう」

「他の女に誘惑される可能性はあるんじゃねーのか、旦那……と、思ったけど。旦那に限ってそんな話は無いな」

「うむ」


 ご主人様は力強くうなづく。

 もしもご主人様が誘惑されるとしたら、それはシュユみたいな小さい女の子です。なので、そんな小さい女の子がご主人様を誘惑するわけがありません。

 起こらないことは起き得ないのです。

 というわけで、ご主人様は安心してお風呂へ行けるわけです。


「でも、小さい子って親といっしょに風呂に入るよな。旦那は目移りするかもしれんぞ須臾」

「シュユも付いていく!」

「来なくていい、来なくていい。こほん、それでは行って参りますね」


 あ、ご主人様が商人のフリを始めた。

 柔和な笑顔を浮かべたので、シュユもそれに合わせる。


「はい、では行ってらっしゃいませ」

「あたい達はあとで行くか。まずは休ませてくれ~」


 ばたん、と倒れる那由多姐さまにくすくすと笑っている間にご主人様はお風呂へ行かれました。

 その後、さっぱりしたご主人様と入れ替わるようにして那由多姐さまといっしょにお風呂へ向かう。

 久しぶりのお風呂ということで、綺麗に洗ったのでスッキリしました。

 やっぱり定期的にお風呂に入りたいものです。

 できればいつかほんのちょっぴりでいいので、ご主人様といっしょにお風呂に入りたいんですけど……それはまだまだ先になるかもですね。


「はふ~」


 湯舟につかりながらそう思いました。


「こらこら、あたいのしっぽで遊ぶんじゃないよ。人懐っこい子だねぇ、あたいが怖くないのかい?」


 姐さんは居合わせた小さい子と遊んでいる。

 母親は恐々としているので姐さんは少し悲しそうな表情を浮かべたけれど、子どもが懐いてくれるのは、その悲しさを上回ったようです。


「ほら、お母さんのところへ戻りな。あたいは怖いぞ、がおー」

「きゃっきゃっ」


 笑いながら逃げるお子様。

 可愛らしい。

 いつかシュユもご主人様との子どもを生んで、こんなふうに姐さんといっしょにお風呂に入りたい。

 そう思いました。

 部屋へ戻ると、ご主人様は七星護剣を並べていました。

 全部で七つあるという剣。

 それはご主人様の一族に伝わる大切な剣であり、ご主人様の使命として言い渡されたもの。

 すべての剣を集めるまで戻ってくるな。

 どんな経緯があって、この七星護剣が大陸中……いえ、地図の外側へ及ぶような規模でバラバラになったのかは分かりませんが。

 致死征剛剣とも呼ばれているようで、その歴史の長さを感じさせます。

 今そろっているのは木・火・金・水・月。

 この五振り。


「あとは『土』と『陽』か」

「なにか情報が集まってるといいですね」


 学園都市を拠点にしているのは、七星護剣の情報を集めてもらえるから。好奇心の塊というか、知識欲の塊みたいな学園長のハイ・エルフに協力してもらってます。

 なにより、魔具という新しい道具の開発もやってもらっていて、エルフが秘匿する技術も使わせてもらっている。特に転移の腕輪があるからこそ、こんなにも容易に大陸中を移動できるようになったこともあります。


「ま、少しはゆっくりできるかもしれないねぇ」


 那由多姐さまがベッドに寝転びながら言う。いつの間にかお酒を買ったらしく、酒瓶から直接飲んでた。


「姐さま、行儀が悪いです」

「半龍人では、これが許されてるのさ」

「嘘です。倭国人として恥ずかしいです」

「へいへい。あたいを倭国の人間と見てくれるのは嬉しいねぇ」

「……返事だけじゃないですか。ほらぁ、こぼれちゃうからちゃんと座ってください」

「分かった分かった。だから押さないでおくれ。あたいを押すより、旦那の肩を揉んでやったほうがよっぽど有意義になると思うよ」

「ご主人様、肩こってます?」

「ふむ。たまには須臾に揉んでもらうのも悪くないか」

「はい! おまかせください」


 姐さんの背中をパーンと叩いてからご主人様の後ろへ移動する。

 そのままご主人様の肩を軽くもみもみと揉んだ。


「気持ちいいな。やはり、肩を揉んでもらうのは須臾に限る」

「えへへ~」

「那由多、拙者にも一杯くれ」


 気分を良くしたように、ご主人様は手を掲げる。そこに合わせて那由多姐さんは器を投げつけるようにすると、酒瓶を持ってベッドを立った。


「はいよ、旦那」

「お酌してくれるとはありがたい」


 なに、気にすんな。

 そう言いながら、那由多姐さまは窓に背を向ける位置に自然と座り直して、酒瓶をあおる。


「気付いているな」


 ご主人様は酒を飲むフリをしながら、器で口元を隠しつつ言った。


「はい」


 シュユも窓の外の視線から口の動きを読まれないように、ご主人様の頭に隠れながら答える。


「さて、何か恨みは買ったかねぇ。それとも旦那の実家関連か」


 姐さんは窓に向けて背中を向けているので、平気で内容をしゃべる。

 お風呂に行っている間に、どうやら宿を特定されたみたいで。何者か知らないけれど、こちらを見ている者がいた。


「排除しますか、ご主人様」

「いや。しばらくは休みましょう。良い品はあせったところで手に入りませんからね」


 商人のフリをしてご主人様はそう答えた。

 はい、とシュユは後ろでうなづく。

 何者かはまだ分かりませんが。

 ご主人様を狙っているのなら容赦はしません。

 そう誓いながら、ご主人様の肩をもみもみしました。

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