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卑劣! 勇者パーティに追い出されたので盗賊ギルドで成り上がることにした!  作者: 久我拓人


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~勇気! 敵に愚痴を吐く勇者~

 知恵のサピエンチェ領。

 まさに吸血鬼の城が見える街の中で、僕は息をついた。

 目の前に広がるどこかのどかな街。ここが人間領で聞いていた魔王領とは、とても思えない光景が広がっている。

 なにせ、人間の子どもと魔物の子どもが一緒に遊んでいるし、魔物が商売をしていたり、人間の店主の下で魔物が働いていたり、その逆であったり。

 そんな様子を、少し開けた場所にある何ともいい感じの石に座って眺めていた。

 たぶん、こんな感じの用途に使われている石なんだろうな、とも思う。


「なんとも先鋭的だ」


 久しぶりにのんびりとできるタイミングができたので、ひとりでウロウロしていたのだが。

 この場所を見つけて座っているうちに、なんとも馴染んできてしまったように思える。

 日がな一日、日当たりの良い場所でたたずんでいる老人の気持ちが少し分かった気がした。


「賢者には感謝だな~」


 すっかり若返ってしまって、僕より年下になった賢者。

 しかし、内面は年上のままなので、お姉さんのように僕に振る舞ってくるのが、なんともギャップがあって面白い。

 神官は年上であっても、普通に接してくれていたのでそこまで変化はないが。それでも、なんとなく守ってくれているという雰囲気を感じていた。

 それはそのままなので、やっぱりギャップを感じるわけで。


「余裕が出てきたのはいいことだ」


 以前はベッタリとくっ付いてこようとしたふたりだ。まぁ、盗賊のあいつがずっと僕を見張っていたのだから、くっ付こうと思ってもくっ付けるタイミングがなかったこともあるけれど。

 その鬱憤が溜まりに溜まっていたせいで、魔王領に入ってからはそりゃもうアレだったんだけど。

 まぁ、僕としては嬉しくないわけではなかった。

 でもたまにはこうして、ひとりでのんびりしたい衝動に駆られることはある。

 もっとも。

 魔王領でのんびりできるなんて、思ってもみなかったんだけどね。


「よう、勇者じゃねーか」

「ん? ……って、アスオエィローじゃないか」


 勝負を決したあの激闘で、すっかり身体がしぼんでいたアスオエィローだが――幾分か元に戻っているようだ。

 まぁ、しぼむとか小さくなるとか、良く分からん体質というか種族だなぁ、とは思うけど。そういうものなのだからしょうがないらしい。

 筋骨隆々でアホみたいにパワータイプになるとか、しなやかな筋肉にしてスピードタイプになるとか、ちょっとうらやましい気がする。相手によってタイプを変更できたらいいのだが、そう簡単に体型は変えられないみたいだ。


「オーガってのは、そんなもんだからな」


 と、さらっと言われてしまってはそれまでだ。何の特徴もないニンゲンに生まれたのだから、仕方がない。うらやんだところでエルフのように耳は長くならないし、獣耳種のように頭の上に耳は生えないし、有翼種のように背中に翼も生えない。

 ニンゲンとは、あらゆる種族の特徴を削ぎ落した、もっとも面白味のない種族なのではないか。とも思えてしまう。

 唯一、頑張ればドワーフのように立派な物が作れるようになるぐらいかなぁ。


「で、こんなところで何をしてるんだ、アスオエィロー」

「修行のやり直しで、諸国漫遊しているところだ。しかし、厳しい環境に置き過ぎても身体に良くないからな。休息するならサピエンチェ領が一番だ」


 相変わらず、その見た目と能力にまったく見合わない考えをしているアスオエィローに、僕はくつくつと笑ってしまった。


「なんだ、俺を笑い者にするのか勇者よ」

「いやいや、そんなつもりはないさ、乱暴のアスオエィロー」


 ふん、と鼻を鳴らすオーガ種を見上げる。不機嫌そうなアスオエィローは、こちらを半眼で見ながら腰をおろした。


「自分の領はどうしてるんだ?」

「部下に任せている。おまえの望み通り、人間種は解放してるが……あまり進んじゃいないな。すまん」

「なに、早々と解決する問題ではないのは承知している」


 奴隷のように使っていた人間種をいきなり自由にしたところで、何が起こるわけでもあるまい。ましてや人間種だって恐れているわけで、ちょっとやそっとで平等になるようなものでもあるまい。

 ちょっとだけ気持ちが軽くなる程度で、生活は変わらないんじゃないか、とも思う。


「強要すると反乱や虐殺が起きそうだしなぁ。それはおまえの望むところではないだろ、勇者よ」

「魔物種が慎重であってくれて助かるよ。ありがとうアスオエィロー」

「なに。これも再戦するためよ。次は俺が勝つので、それまでに更に強くなっていてくれ」

「まったくもって矛盾しているような発言に聞こえるのだが……アスオエィローが勝ったら、また人間種を奴隷や家畜、餌のように扱うのか?」

「そうすると、おまえはまた俺に挑んでくれるか?」

「そうせずとも、いつだって勝負は受け付けるし、負けたら悔しいので挑み続けるぞ」


 俺の言葉を聞き、ガハハハ、と嬉しそうにアスオエィローは笑った。


「勇者よ。俺のことはアスオと呼んでくれ」

「ではアスオよ。僕のことはアウダと呼んでくれ」


 お互いに、うむ、とうなづきあった。


「それにしても、アスオは『乱暴』の名とは程遠い性格をしているな。好戦的ではあるが、粗野、粗暴とは無縁と思える」

「あぁ~、それなんだがな……」


 アスオは腕を組んで首を傾げた。


「魔王さまに頂いた名なんだが、皮肉と望みが込められている」

「ふむ。なるほど?」

「つまり、昔の俺はもっと理知的で動こうとしなかったんだ。自分の領地の奥底でひたすらに効率を追い求める日々だ」

「諸国漫遊の修行の旅をしているおまえがか?」


 そのとおりだ、と豪快に笑ってみせる。


「だからこそ、魔王さまに皮肉と望みを兼ねて『乱暴』の名を与えられた。もっと暴れろ、もっと無茶をしろってところだな。魔王さまに直接聞いたわけじゃなくて、俺の予想だけどな」

「ではやはり知恵のサピエンチェは……」

「あいつは本物のアホだぞ」

「だろうな」


 陰口を叩くのは本意ではないが……いつの間にかエリスといっしょに行動してて、見事に魔王を裏切っている者がアホでなくてなんだというのだろうか。

 しかも知恵だぞ、知恵。

 エリス好みの可愛らしい少女の姿じゃなかったら、今ごろエリスは危なかったんじゃないか。

 とも思えてくる。


「では、陰気のアビエクトゥスは……黙れ、という願いが込められているのか」

「だろうな。あいつはうるさくて敵わん。幽霊のくせに明るくて陽気なので、ちょっとはそれっぽくなれと陰気なんて名前を付けられたんだろうな」


 それもまた理解できる。

 やはり四天王は真逆の名前を与えられた、ということか。


「では、最後のひとり……愚劣のストルティーチァは、どういう意味なんだ?」

「高潔にして高尚。あいつは美しい物が好きでな、宝物を集める収集癖があった。しかし、その宝に汚れや傷があるのが許せない、という完璧主義。まぁ、それで愚劣と名付けられたわけだが……」


 アスオは遠くを見ながら呆れた表情を浮かべる。


「完璧主義者だもんで、妙にこじれてしまってな。なにをどう間違ったのか、全てを愛する者になった」

「なんだそれは?」

「まぁ、恐らく――ストルの中では、美しくない物や傷がある物、宝と呼べない物、それらを愛している者は愚劣、という結論が付いたんじゃねーか?」

「……愚劣の履き違えか」

「ま、そんなもんだから魔物種から人間種まで、すべてを愛する者になった」

「いいことじゃないか」

「物理的に愛するヤツだぞ。おまえも抱かれてくるか、アウダよ」

「え? あ~……そういう愛し方をするヤツなのか……あ~……話し合いで解決するか?」

「宝を差し出せば、話せるかもしれないな。まぁ、あいつは真面目だから。勇者と聞けば戦わないといけない、と思い込んでるかもしれない」

「宝ねぇ。俺はそんな物、持ってないな」

「何を言う」


 アスオは笑う。


「おまえさんの両隣には、綺麗な女がいたじゃねーか。あれを差し出せば、話ぐらいは聞いてくれるかもしれんぞ」

「冗談じゃない」


 賢者と神官を四天王に差し出す?

 そんなこと、できるわけがない。


「はぁ……真正面から戦うしかないのか。アスオ、手伝ってくれ」

「断る」

「なんでだよ。俺が負けて殺されたら再戦できなくなるぞ」

「その時はストルと戦えばいい。おまえより確実に強い相手だ。胸が踊るというもの」


 なんだそりゃ、と俺は肩をすくめる。


「『乱暴』な理論過ぎる。もっと柔軟に考えたまえよ、乱暴のアスオエィロー」


 そう言うと、アスオはガハハハと笑った。

 もっとも。

 その豪快な笑い方も、どこか演技のような気がしたので。

 なんとも生きにくい名前を与えられたものだな、と僕は苦笑するのだった。

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本物のアホ呼ばわりされるサピエンチェさん……
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