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~流麗! 貴族ごっこはこれでおしまい~

 わたしの多大な犠牲によって、拷問を行うこともなく拷問が成功しました。

 言葉にすると意味不明ですが事実なので仕方がありません。

 絶句する演技のサティスに神殿から連れ出されたわたしは、外に出た瞬間にケロっと表情を入れ替える。


「嘘泣き、うまいねルビー」

「ふふ。女の武器ですわよ、パル」


 ルビーと呼ばれたのでパルと呼び返す。

 つまり、学院の生徒ごっこはここでおしまいということですか。


「拷問大丈夫だった?」

「実際には痛くはありませんので、気にしないでくださいな。なんなら首を落としてくださってもいいですわよ」

「ルビーって、ほんとどうやったら殺せるんだろうね?」

「太陽の下ですべてが無くなるまで燃えるしかないでしょうね。文字通り、影も形もなくなるまで燃やし尽くしてくださいな」

「耐えられる?」

「無理でしょうね、きっと。途中で心が折れるのが目に見えています」


 生き続けるのは退屈ですが、死に続けるのは苦しい。

 そんなイメージでしょうか。

 いつか退屈が苦しみに変わった時、燃え尽きることを選ぶかもしれません。

 永遠の苦しみより、一時の苦しみのほうが遥かにマシですから。


「さて、苦しんでいる演技を続けますので移動しましょう」


 そのままわたし達はお姫様の邸宅に入る。パルが案内してくれた部屋に素早く移動すると、ふぅ、と息を吐きました。

 なんだかんだ言って緊張するものですね。

 恐怖と傷みにおびえる美少女。

 そこそこやり切ることができましたので、満足です。


「ほらほら見てくださいまし、パル。わたしの右手の指、なくなってしまいましたわ」

「見せなくていいよぅ。うわぁ……これ、どうなってんの?」


 見せるな、と言ってるくせに見てくる変な娘。

 切断面は影に覆われておりますので、骨とかそういうのとか見えません。まぁ、影を解除すると血とか出ちゃうかもしれません。

 なんというか無意識でやってしまうんですのよね。

 これが吸血鬼の本能なんでしょうか。

 首を切断されても死なないのは、この影によって身体と繋がっていることでしょうし。死のうと思っても死ねないのは、これが原因でしょうか。

 やはり太陽の下でず~っと焼け死ぬというか消滅するまでいないといけませんので。

 どうしても途中で心が折れて影に入ってしまう。

 本能とは恐ろしいものです。

 死のうとしてるのに、生きようとしてしまうのですから。


「にゅぷにゅぷにゅぷ」


 というわけで、指を生やしました。


「変な音つけないで」


 そう言いつつパルは気に入ったみたいで、ゲラゲラと笑う。

 生えてきた右手の指をわしゃわしゃと動かして、ぐっぱーぐっぱー。


「はい、元通り。問題ありませんわ」

「これって、上手くやれば指の数も増やせるの?」

「え……できるのかしら? ふんっ!」


 気合いを入れて小指の隣からもう一本、六本目の指を生やそうとしましたが……出てくるのは影だけで、ちゃんとした指にはなりませんでした。


「どうやら訓練が必要ですわね。こう、眷属の指なら可能なのですが」


 影を眷属召喚と入れ替える。オーガみたいな指になら普通になりましたが……やはり自分の指として顕現するのは難しいです。


「ふ~ん。じゃぁ頑張れば巨乳になれるんだ」

「デメリットしかないじゃないですか、それ」

「師匠のイヤそうな顔が見れるよ」

「ですからデメリット……いえ、メリットでもありますが」


 ロリババァ巨乳。

 ひどく師匠さんがイヤそうな顔をするのが分かる単語ですわ。うんうん。

 ケラケラと笑うパル。

 まったくもって、楽しそうでなによりです。


「さて、とりあえずこれで学院の表舞台から降りました。あとは真犯人を捕らえるだけですわね」

「上級貴族だよね。難しくない?」

「ベル姫の権威があれば可能でしょう。お茶会とでも称せば、参加せざるを得ませんし、なんならマトリチブス・ホックで一網打尽ですわ」

「お茶会って……断られたら?」

「後ろめたいのがバレバレになりますので、自分が犯人と自白しているようなものです。それならば、マトリチブス・ホックを突入させる理由になりますので問題ありません。どちらにしろ、犯人は『詰み』の状態ですわ」

「なるほど~」


 さてさて。

 師匠さんが黒紺貴族から情報を聞き出している最中でしょう。老騎士のおじいちゃまは最後まで口を割らないとして、黒紺とその従者から別々に聞きだしているはずです。

 情報はひとつだけでは信用度が下がりますが。

 ふたつそろうと、グッと信用度が上がりますので。

 できれば、おじいちゃまから補足の情報を得られますと確実性が上がるんですけどねぇ。

 そこは難しいでしょうか。


「ただいま……というのは変か」


 しばらく待っていると師匠さんが部屋に入ってきました。


「おかえりなさい、師匠」

「おかえりなさいませ、師匠さん」


 ただいま、と言われるのであれば、おかえり、と返すのが良いでしょう。


「悪かったなルビー。痛くないか?」

「問題ありませんわ。お確かめになられます?」


 わたしが手をさしだすと、師匠さんはそっと撫でるように手を添えてくださりました。なでなで、と触られるのでくすぐったいような嬉しいような。


「それでいて、ゾクゾクとしますわ」

「そんなつもりは一切ないぞ。ホントに痛くないんだな?」

「はい。なんなら手首ごと落とされても問題ありませんでしたわ」

「こちらとしては問題ありまくりだ」


 はぁ~、と重い息を吐いた師匠さんはぐったりと椅子に座る。

 相変わらずお優しいこと。大丈夫だと分かっているのに、吸血鬼の身体を心配するなんて、無駄ですのに。


「身体は大丈夫でも、心は大丈夫じゃないかもしれないじゃないか」

「そういうところ、大好きですわ師匠さん。今すぐ別の拷問をはじめませんか?」

「なんで?」

「ぐちょぐちょに犯し続ける拷問」

「なんで?」


 だって師匠さんがステキなことをおっしゃられるので!

 という感じでしたが、じっとりと半眼でこちらをにらみつけてくるパルがいたので、やめておきました。


「それで、情報は引き出せましたか?」

「あぁ。一応、あの老騎士の表情で裏取りもできたと思う」

「表情?」


 パルが首を傾げる。


「反応を見るんだ。なにかしらの言葉を告げた時に視線や頬、呼吸の状態なんかを見る」

「あのおじいちゃま、そのあたりはクリアしてきそうですけど?」

「あぁ。だから逆だ」


 逆?

 と、わたしとパルは声をそろえました。


「まず関係ない名前をあげる。嘘というか無関係の人物の名前をあげて通常状態を引き出す。そのあと、本命の情報をぶつけるんだ」

「そうすると、どうなりますの?」

「情報を喋らないぞ、と身構えている人間は殊更に『無』になろうとする。反応を押し込めるんだ。その差異を見る」

「そんなこと、できますの?」

「かなり難しいが、できないことはない。まぁ、答え合わせ程度に使うくらいか」

「ふ~ん。パル、反応しないでくださいまし」


 うん、とうなづくパルの顔を覗き込みました。


「あなたは路地裏が好きですわね」


 もちろん、この情報は間違っていますのでパルの反応は無い。


「あなたはお肉が好き」


 続けて、真実をぶつけてみる。

 う~む……反応がない。というか、分かりませんわね。

 悔しいので表情を読み取っているフリをしながら顔を近づけて、そのままキスをしました。

 スパーン、とビンタされましたが。


「反応しました。わたしの勝ちです」

「うぅ~、師匠~」


 師匠さんに抱き付いて、その服で口をぬぐうパル。

 めちゃくちゃ失礼ではありませんか、それ。

 もう!


「なにやってんだ……まぁ、とりあえず情報を伝えるぞ」


 休憩はここまで、と師匠さんが表情を入れ替える。いつもの優しい表情から、盗賊のそれに変わりました。


「下級貴族であるゴーエン・ルーフランド並びに、その従者であるガダイックから情報を聞きだした。ゴーエンに放火を指示したのは上級貴族であるデイセンド・ライトフェルンだ」


 デイセンド・ライトフェルン。


「それが犯人ですか」

「あくまで、今回の放火犯の黒幕は、という注意書きが必要だがな。まぁ、十中八九ユリファの件にも関わっているだろう」


 しかし、情報はそれだけで終わりませんでした。


「加えて、従者ガタイックからはカタリナ・オールエンという名前も出てきた。これは上級貴族の女性だ」

「どういうことですの?」

「さてな。知ってることを話せ、とナイフを指に添えたら出てきた名前だ。なにをしていたのか、なにをされたのか分からないが……まぁ、話の流れ的には上級貴族同士で繋がっていたのかもしれん」

「ふ~ん。師匠さんからみて、従者ガタイックの印象を教えてくださいな」

「俺から見て?」


 そうだな、と師匠さんは腕を組んで考える。


「長身痩躯という感じで、見た目の性格は良さそうに思える。悪人ではない雰囲気だったな。生真面目、とも言えるが……まぁ、あくまで表向きならイイ男なんじゃないか」

「つまりモテる男ですわ」

「……カタリナ・オールエンが手を出していた、と?」


 師匠さんがイヤな顔をしました。

 なるほど。

 カタリナ上級貴族は12歳以上が確定しましたわね。

 もしもカタリナが12歳未満でしたら、師匠さんはイヤな顔をしません。ガタイックに憎悪の感情を抱きます。


「憶測にすぎませんけど。ですが、可能性はゼロではありませんわ。なにせここは高貴なる牢獄。退屈を殺すには、自然と方法は限られてきます」

「……ルビーがえっちなのって、ヒマだから?」

「はい」

「「ダウト」」


 なぜか盗賊師弟の声がそろいました。


「なんで同時に否定されますのよ……。これでも純粋にして純潔の乙女です。が、すべての娯楽をやり尽くした結果、あとはえっちだけになりました。ですがそれを経験してしまうと、いよいよ退屈を殺す方法がなくなるかもしれません。ですので、どうしても一歩が踏み出せず今に至るのです」

「「ダウト」」

「だからなんで同時に否定されますのよ」


 ちょっとは純情乙女でいさせてくださいな。


「えぇ、そうですそうです。わたしは棺桶から生まれた時からえっちですぅ。あぁ~、夜な夜なカワイイ男の子を探し求め、枕元に立ってはウヘヘヘヘヘヘ」

「「……」」

「否定しなさいよ!」


 もう!

 これだから師匠さんとパルが大好きなんですの。


「さて、冗談はこれくらいにして。とりあえずお姫様と貴族さまに情報共有するぞ。ルビーは顔を見せて大丈夫か?」

「問題ありません。拷問は演技と伝えてありますから」


 子猫シュリアちゃんは作戦を伝えたときに不安そうにしていましたからね。元気に五体満足の姿を見せてあげれば、安心するのではないでしょうか。


「ついでですので、貴族ごっこも終わりにしましょう」


 パチン、と指を鳴らして影をせり上げる。

 そのまま黒紺制服を消し去り、いつもの冒険者装備に切り替えました。


「では、ヴェルス姫の部屋へ行こう」


 師匠さまとパルといっしょにお姫様の部屋へと向かう。


「あら、裏切者がやってまいりましたわ」


 部屋へ入ると、さっそくベル姫がわたしを見てにっこりと笑いました。


「はいはい、ベル姫に黙ってフルーツをいっぱい食べてしまいました。裏切者のわたしの罪はどれほどのものでしょう?」

「そうですね。許せませんので、一生お友達でいてもらいます」

「あら、怖い」


 そんなお姫様の隣には不安そうな顔のシュリアちゃんと、なんとも言えない微妙な表情のロンドマーヌがいました。


「あなた、ホントに貴族ではないのね」

「はい。驚きました?」

「どちらかというと、納得した、という感じですわね。ものすごくチグハグですもの、あなた」

「チグハグ?」

「そう。どこか上に立つ者の空気感をまとっているくせに、ひどく俗物臭い。盗賊の変装と言われれば、それまでなんですけど」


 ふ~ん。

 見る者が見れば、そう見えるんでしょうか。


「ま、なんにしてもこれでわたしは表から消えますので。あとは自由にやってくださいな、ロンドマーヌさま、シュリアさま。ところでフラレットさまは?」

「相変わらずひきこもってます。きっと、あなたが裏切者として捕らえられた、なんていう情報になんか耳を貸していませんわよ」

「ふふ、それでこそですわ」


 退屈を殺してくれるのは、きっとえっちなことではなく。

 フラレットのような女の子がいること。

 やっぱり人間種は大好きです。

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なるほど、つまり頑張ればチ○コも生やせるかもしれない、と……
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