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~流麗! ドキドキ拷問体験☆~

 さてさて。

 拷問にわたしの出番があるということでワクワクです。

 わたしの能力をフルに活かすことができるという師匠さんの魅力的な提案に異議があるはずもなく。

 全面的に協力することを申し出ました。

 いえいえ、むしろこちらから懇願するくらいです。

 だってだって拷問ですのよ?

 普通に生きてたら、ぜったいに縁のないものです。

 というわけで、ワクワクしながらその時を待っていますと……


「あら?」


 食堂でマトリチブス・ホックに取り囲まれました。

 食事中でした。

 いつものように、こちらと縁を作りたい貴族たちが取り囲む中、更にそれを塗りつぶすようにお姫様の護衛騎士たちがわたしを取り囲みました。


「どういうことでしょう?」

「言い訳は後ほど聞かせてもらう。捕らえろ」


 マルカ騎士が厳しいお顔でそんなことを言うものですから、周囲の騎士たちも厳しいお顔です。


「ルーラン、どういうことですの?」


 わたしの護衛に付いてくださっているルーランに振り返って聞こうとしてみれば――


「裏切り者め」


 すでに剣をかまえてらっしゃいました。

 早い速いハヤい。

 判断が爆速過ぎて言い訳無用で斬られる勢いではありませんか、ちょっとちょっと。


「ふぎゃ!?」


 サティスの悲鳴が聞こえたかと思ったら、床に組み敷かれていました。どうやらサティスも捕まってしまったようです。


「待ってください、これはどういうことですの?」

「大人しくしろ」

「ですから、説明を――」

「捕らえろ!」

「えぇ、ちょっと――きゃぁ!?」


 迫ってくる騎士たち。逃げようとしましたが、後ろからも騎士が迫ってきて腕を取られました。

 そのまま床に倒されて、手を後ろ手にまわされる。


「痛い、痛いですわ! ちょっと、何がどうなってますの!?」


 叫んでいる間にも両手を後ろ手に縛られていく。

 見事な早業で、すっかりと罪人のように捕らえられてしまいました。


「立て」

「わ、わたしは何も悪いことをしていませんわ。どういうことですの!?」

「いいから立て」


 髪の毛を引っ張られましたので、痛い痛いと叫びながら立ち上がりました。


「連れていけ」

「ハッ!」


 騎士に背中を押されるようにして歩き出す。

 ちらりと騎士たちの間からロンドマーヌの姿が見えた。


「ロンドマーヌ、助けてください! わたし、何もしていませんわよね!? ロンドマーヌ!お願いします! 証言を!」


 しかし、ロンドマーヌは何も答えることなく視線を反らした。


「そんな……! シュリアちゃん!? シュリアちゃんはいませんの!? あぁ、誰か! 誰か助けてくださいまし!」


 そう叫ぶが、もちろん誰も助けてくれることなく。

 わたしは食堂から出され、サティスといっしょに連行されていきました。

 その光景は異様だったのでしょう。

 周囲から視線が痛いほど飛んできます。

 不安がっているような視線もありますが、中には嘲笑めいた視線もありました。

 えぇ、えぇ、そりゃそうでしょうとも。

 粋がってた生意気な下級貴族が王族に近づいて調子に乗ってたら、その護衛騎士たちに拘束されている。

 これ以上ないほどに愉快な状況です。

 笑うな、というほうが無理ですわ。


「さっさと歩け」

「ちょっとルーラン、剣を向けるのはやめてくださいまし」

「言い訳するな、くらぷる」

「プルクラですわ。名前を間違われるの、相当気にしていましたのね、どつく骨」

「ドホネツクだ、ぷぷらら。刺すぞ」

「刺さないでくださいまし!?」


 何人か下を向いてプルプルと震えてるじゃないですか。大真面目にやっているんですから、なんでこういう時に限って変にアドリブを入れるんですの、ルーラン。

 期待の新人過ぎて怖いですわ、マジで。

 なんて思っている間にわたし達が連れてこられたのは簡易神殿。

 そのまま中へ入れられると、ガシャン、と金属の重たい扉が閉められるのが聞こえました。

 神殿内はこじんまりとしていますが、荘厳な雰囲気であることは間違いありません。

 小さいながらもちゃんと精霊女王ラビアンの像もありますわね。石像でしょうか。少々荒っぽいので持ち込んだというより、この場で彫ったという感じです。

 さすがドワーフ。天才的ですね。


「ここに座れ」


 示された場所は冷たい石の床。

 そこには、同じように後ろ手に縛られている黒紺貴族の青年の姿がありました。その従者と思われる男に加えて、わたしが捕まえた老騎士もいます。

 黒紺とその従者はうなだれるように下を向いているが、老騎士は堂々と座っていた。ただし、その顔には布がまかれていて、見えないようにされている。

 このような状態でも動揺することなく背筋を伸ばしていられるとは。

 見上げたプライドの高さ、と言えるかもしれませんわね。


「……」


 対して、黒紺貴族は絶望の表情であり、従者も同じような表情。青を通り越して土気色。死体とそう変わらない雰囲気があります。

 これから何が起こるのか、なにかしら予感があるのかもしれません。


「お待たせしました」


 コツコツコツ、と後ろから聞こえてきた靴音。

 それと共に発した声は師匠さんのものでした。


「プルクラ・ルティア・クルスならびに、そのメイドであるサティスを連れてきていただき、ありがとうございました。マトリチブス・ホックは通常の護衛任務に戻ること、とヴェルス姫からの命令です」

「了解しました、エラント殿。あとはよろしく頼む」

「えぇ」


 そんな会話をマルカと交わしたあと、師匠さんは殊更に靴音を聞かせるようにして前へと進み出る。

 それと入れ替わるようにしてマトリチブス・ホックが神殿から出ていった。ガチャガチャと帯剣している音が重なるように聞こえていましたが、扉が締まる大きな音と共に消えると、途端に静寂が耳に痛いほど届いてくる。

 無音なのがズシンと心に重く響きますわね。


「さて、今から拷問を始める」

「ひっ!?」


 黒紺貴族が悲鳴をあげた。


「大人しく話せば、なにもしない。ただし、何も話さなければ痛い思いをするのは君たちなのでそのつもりで」


 ジロリ、と見下ろしてくる師匠さん。

 そのままこちらへ近づくと、視線を合わせるように屈んだ。

 オールバックの髪型に眼光鋭くこちらを睨みつけてくる。その迫力は、まさに『恐ろしい』に尽きるかと思います。

 明確な殺意と言えるでしょうか。

 赤ちゃんでさえも泣き止んでしまうような怖さがあります。


「さて、そちらの騎士の方。名前をうかがえますか?」

「グローニ・カッシュだ」


 堂々と答える老騎士。

 そうそう、そんな名前でしたわね。


「あなたは自分の意思で動いておりますか? それとも誰かの人形ですか?」

「私は自分の意思で動いている。この学院を守るの騎士の務めだ。そして私は騎士である。これ以上の問答は必要か?」

「ふむ。では、ここ最近あなたに接触してきた上級貴族の名前を教えて頂けますかな?」

「答える義務はない」


 躊躇なく老騎士はそう答えました。


「分かりました。では黙っていてください」


 師匠さんは老騎士の頬に触れる。


「うっ……」


 短く声を発したかと思うと、老騎士はそのまま崩れ落ちるように倒れました。息はあるようですが、パクパクと口を開け閉めしている。

 なにをやったのか分かりませんが、恐ろしいことには違いありません。


「ひぃ!?」


 黒紺貴族とその従者が悲鳴をあげる。


「では、続いてあなた。お名前を教えていただけますかな、貴族さま」

「お、いえ、わ、私の名前はゴーエン・ルーフランドで、です」

「そちらの従者の方、お名前を」

「……ガ、ガダイックです」

「よろしい。では、ルーフランド。あなたは自分の意思で動いていますか? それとも誰かの人形か?」

「じ、自分の意思で……動いている……」

「ふむ。ではガダイック。あなたは?」

「……私は従者ですので、人形です」

「よろしい。では、次」


 ぎろり、と師匠さんがこちらを睨みつけてきました。


「わ、わたしは何もしていませ――げふっ!?」


 そう言った瞬間、顔を思い切り蹴られました。もちろん後ろ手に縛られた状態で顔を蹴られましたので、支えられる物など無く、そのまま床に倒れます。


「誰が勝手に話して良いと言いましたか?」

「ち、ちが――」

「喋るな、裏切者が。よくもまぁ姫様の心をもてあそんでくれたな、低俗なクズが。未だにヴェルス姫はおまえのことを友人と思っていらっしゃるぞ。その美しい心をもてあそぶとは、ドブネズミにも劣る浅ましさだ」

「わたしは裏切ってなど――ぎゃっ!?」


 思い切り顔を踏まれました。


「勝手に喋るなと言ったはずだが? 決めた。まずはおまえから拷問することにしよう。立て」

「は、はい……」


 襟首を持ち上げられるようにして立たされると、後ろ手に縛っていたロープを切られる。そのまま用意された椅子に座らされました。

 肘置きと脛あたりにベルトがあり、師匠さんはそのままベルトをきつく締める。


「い、痛いですわ……!」

「逃げられては困るのでね。なに、正直に話してくれればすぐに終わる」


 どこから取り出したのか師匠さんはナイフを見せる。

 鈍く光っているような気がして、それを後ろに座っている黒紺貴族や従者に見せつけるようにした。


「さて質問だ、お嬢さん。おまえは人形か?」

「い、いいえ、わたしは人形ではありません」

「ではおまえの意思でやったと?」

「なにをですか?」

「しらばっくれるな!」


 師匠さんは手に持っていたナイフをわたしの太ももに振り下ろす。もちろん刃物ですので、太ももに突き刺さりました。


「――へ? あ、あ、あ!? ひ、ひぎゃあああ!? い、いたい! 痛い痛い痛い! あ、あ、あああ、あ、ああ、抜いて、抜いてくださいまし!」

「では質問だ、お嬢さん。おまえの目的を言え」

「だから何のことですの!? わた、わたし、何も知りませんし、やっていません!」

「そうか。では手の指はいらないな」

「え? え? まって、まってくださいまし!」


 師匠さんがわたしの手を肘置きに押さえつけるようにして、新しいナイフを取り出すと小指に向かって振り下ろした。


「ぎゃああああああああああ!?」


 小指が切断されました。

 切断された指を拾い上げると、ぽい、と後ろに捨てる師匠さん。


「ひぃ!?」


 それを見た黒紺貴族と従者が後ずさるようにして悲鳴をあげる。


「さて、あと9本ある。つまり、あと9回チャンスが残されているわけだが……いつ話してもらってもかまわない」

「待ってください、待ってください! わたしは本当に何も知らないし、やってない、あ、あ、ああ、ああああ待って待って待って――いやあああああああああああ!?」


 薬指が切断されました。


「ああ、あ、痛い痛い痛い痛い! わたしの指、指が! くっつけて、くっつけてくださいまし! ああああ! はやくはやくはやく!」

「そうだな。ひとつ話すことに指をくっつけてポーションを使ってやる。うまくいけば付くかもしれないが、時間が経つごとにくっつかなくなるかもしれんな。どうする?」

「話します話します! ですが何について話したらいいのですか!?」

「ほう、まだ強情だな。見上げた根性だ」

「違います! 違うんです! お願いですから教えて――まって、まってまってまって! あああああああああああ!?」


 中指が切断されました。


「いたい、痛いです……おね、おねがいです、もうやめて……やめてください……」

「話すか?」

「分からないんです……な、なんでもします。なんでもしますからもうやめてください。指を切らないでください……いたい……いたいよぉ……」

「そうやって誤魔化すつもりか。見上げた根性だ。後ろにいる存在がよっぽど怖いのか、それとも義理立てしているのか」

「違います……なにもしてないんです……やめてください……殺さないで……」

「王族の命を狙っておいて、自分は生き残れるつもりだったか平民。貴様の命など、そこらを歩くアリよりも価値がないのが分かっていないようだな」

「ベル姫の命など、狙っておりません……誤解です……いや、いや! もうやめて、やめてくださいま――んんんんん!?」


 人差し指が切断されました。


「おやおや、親指以外なくなってしまいましたね。ふ~む、このままではバランスが悪い。親指も切ってしまいましょうか」

「やめてやめてやめてやめて! いや、あ、あ、あああああああああ!? ――んぎぃいいいいいいい!?」


 親指が切断されました。


「まったく強情なお嬢さんだ。しばらくそこで寝ていてください」


 師匠さんは椅子を蹴り倒しました。

 もちろん、そこに座っているわたしは抗う術などなく、そのままいっしょに床に倒れます。


「いだいぃ……くっつけて、指、くっつけて……おねがいします……指を、わたしの指をくっ付けてください……」

「黙れ、腐れ平民め。それ以上口を開けば、貴様の指を魔王領に捨てるぞ」

「……ひぐっ」


 ふるさとに戻してくださるんですね、優しい。

 という言葉が浮かびましたが、もちろん黙っておきました。


「さて、次はどちらにしましょうか。貴族さまに聞くのが早いか、それとも従者か。指がいらないのはどちらでしょうか?」

「は、話します! 話しますから!」

「私も! 私も話しますので、どうか……!」


 黒紺貴族と従者はこぞって話し始めました。

 あぁ。

 自分たちに命令をした上級貴族の名前やその時の状況などが、ぺらぺらと暴露されていきます。

 無事に情報がゲットできたようでなによりですわ。


「痛い……痛いよぉ~……わたしの指ぃ~……」


 ふふ。

 わたしの指から、まったく血が出ていないのに気付いていないようです。

 人間種、追い込まれると些細どころではない大きな違和感にも気付けなくなる良い例ですわね。

 それにしても……

 師匠さんに拷問されてゾクゾクしました。

 あぁ、このままの勢いで無茶苦茶に犯されたかった気分ですが……初体験でそれはあまりにも悲しいですので、やっぱりロマンチックにベッドの上で抱いてもらいたい。

 そう思った拷問体験でした。

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