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~流麗! 敵に捕まるとアレが待っている~

 名も忘れてしまった老騎士を倒しました。


「なかなか強かったですが、この程度では何の経験にもなりませんでしわね」


 調子に乗って吸血鬼モードで倒してしまいました。

 手加減して人間らしく戦っていれば、それなりの経験値を得られたかもしれませんが。

 まぁ、矜持には矜持で応えないと失礼ですものね。

 おじいちゃまの最期の思い出として役に立てたのならいいですけど……

 しかし、まぁ――

 狂った老人の助けになるのは本望ではありませんわ。


「はぁ~」


 退屈を殺すのはいいですが、退屈を退屈と気付いていないツマラナイ男の相手をするのはイヤです。

 それでも退屈な世界を楽しむ努力をしているのならいいですが。

 そんな世界を受け入れられず狂ってしまったのなら、救いがありません。


「まったくもって不愉快ですわ。騎士に殉ずるつもりかは知りませんが、正義を実行したいのであればすぐそこに魔王領があるというのに。どうして飛び込もうとしないのかしら」


 気絶したおじいちゃまに語りかけても無意味ですけど。

 そこそこ強かっただけに、残念な気持ちが勝ります。


「はぁ~」


 もう一度ため息をついて甲冑の襟首部分をつかむ。そのままズリズリと引きずってお姫様の邸宅へ向かいました。


「あちらは上手く捕らえたかしら」


 楽しみは最後に取っておきたいので、眷属での覗きは無し。

 これで別邸が燃え上がっていたら笑えるのですが……


「残念。燃えていませんか」

「師匠、魔物がなんか悪いこと言ってる。倒そう」

「無理だ。すぐ近くに実家があるんだ。お帰り願おう」


 黒紺制服を着た貴族がひとり、足元に倒れている。

 その前で師匠さんとその弟子がジト~っとわたしを見てきました。


「冗談ですわ。燃えたら燃えたで面白かったと思いますが」

「面白いって言ってるじゃん」

「……怪我人が出なくて幸いです。大好きな人間種が辛い目に合うのは気が引けますので」


 よよよよ、と悲しむフリをしておきました。


「それで、その騎士はどうしたんだ。その服も」

「支配者モードになってる。きっと悪いことしてたんだ」

「おっとそのままでしたわね」


 支配者モードってなんですのよ、というツッコミをしつつパチンと指を鳴らして影をせり上げる。とっぷん、と影に包まれた中で制服を生成。パンッ、と影が弾けた後には元通りになりました。


「なんか絶妙に違う」

「え、あれ? どこが違います?」

「スカートがちょっと短い」


 相変わらず記憶力がバケモノみたいに良い娘ですわね、サティスは。


「サービスです。師匠さんは短い方がお好きでしょうか」

「いや、ロングスカートが好きだ」

「あら意外。ぱんつが見えるの、好きではなくて?」

「めくりあげるな、見せなくていい。そういうのは見えないからこそ価値がある。見えれば良いというものではない」

「普段は見えないからこそ、ぱんつに価値が生まれた理由ですわね。分かります分かります」

「じゃぁさっさとスカートをおろせ。誰かに見られたらどうするつもりだ。あとサティスはどうして満面の笑みを浮かべているんだ?」

「あたし、いまメイドさんだからロングスカート。師匠がカワイイと思ってくれてると思ったから。でへへへ」

「それは間違いだ」

「えぇ!?」

「いつもカワイイと思っている」

「もう、師匠ったら~」


 ……なんでスカートをめくりあげてるわたしの前で、このふたりはイチャイチャしはじめるんですの?

 ちくしょう!

 もっとこっち! こっちにも興味持って……って、チラチラ見てるじゃないですか師匠さん。もう~、すけべなんですから~。うふふ。


「くふふ。敗北した気分です。いいえ、大敗ですわね」

「師匠、プルクラがイジけてるから褒めてあげて」

「お、おう。プルクラ、ぱんつステキだぞ」

「その褒め方、最悪ですわ~!」


 満面の笑みでツッコミを入れてしまいました。

 もう、もう、もう!

 師匠さんったら、わたしの扱い方が完璧なんですから~!

 面白いこと大好き。

 えへへ~。

 ――おっと。サティスみたいに無邪気に笑ってしましたわね。


「こほん。それでは報告したいと思います」


 お戯れはここまで、と気分を入れ替えて老騎士との戦闘と状況を説明しました。


「そちらはどうでしたの?」

「こっちは見ての通りだ。この貴族さまがいたので気絶してもらった」

「黒紺ですわね。どう考えても……」

「そうだな。『手下』とみて間違いないだろう」


 お姫様が目障りとなったので、排除にかかる。

 そんな大それたことを下級貴族である黒紺がやるとは思えません。


「実は上級貴族だけど、黒紺に変装してるとかは?」


 サティスの意見に師匠さんは首を横に振る。


「まず有り得ない。この魔法学院では上級貴族は王様だ。王様気分の人間が、平民の格好をするのはプライドが許さない」

「そういうもの?」

「そういうもんだ。ま、平民の最下級でもある孤児の俺たちにはサッパリ分からんが。プルクラなら分かるんじゃないか?」

「ん~、残念ながら理解はしますが共感はできませんね。衣服でその者の価値が分かるのであれば、ウチのアンドロちゃんなんて年中下半身すっぽんぽんの変態になってしまいます」


 アンドロちゃん、下半身がサソリですからね。

 あの子が着れるスカートとかズボンとかぱんつとか、存在しませんので。

 実質ナンバーワンがずっと下半身裸という状態で威厳も何もあったものではありません。

 なにより、魔物種ってあんまり服を着たがらない種族が多いんですのよね~。

 なんでかしら?


「魔物種はそのあたり関係なさそうだな」

「姿と形は多種多様ですので。裸の者もいればオシャレさんもいますわ。ですが、その者の地位とは連動しておりません」

「文化の違いってより、種族の違いが大きいか」


 そうですわね、とくすくす笑っておく。わたし自身、真っ黒なドレスを好き好んで着ておりますので、着飾る文化はあります。

 ですが、それは四天王だから、という意味ではありません。

 乱暴のアスオエィローは、ほぼ裸ですし。

 愚劣のストルティーチァはきっちりとした紳士服ですし。

 陰気のアビエクトゥスは可愛らしい子ども服です。まぁ、アビィは幽霊ですので、服の概念が乏しそうですけど。


「というわけで、というと変だが。この黒紺制服の貴族は確実に下級貴族だ。そして、上級貴族に命令されて実行した、と見るのが妥当だな」


 脅されたか、買収されたか、それとも共犯か。

 詳しく話を聞いてみないと分かりませんが、単独犯ということはまず有り得ない。

 師匠さんはそう分析しました。


「では……この老騎士も繋がっている、と見てもよろしいでしょうか」

「うむ。話を聞くに、その老人は『騎士』をやりたがっている。つまり、この魔法学院にではなく、誰か特定の主人を持ちたがっている雰囲気がある。上級貴族に言われれば、それは素直に受け入れたのではないだろうか?」

「王族に逆らっても?」


 サティスの疑問に師匠さんは、うん、とうなづいた。


「この魔法学院から見れば、ヴェルス姫は治安を乱す『敵』だ。もしくは『敵国の王』という感じかな。まぁ、そうなるように仕向けたんだけど」

「え~っと、下剋上でしたっけ?」

「そう。貴族の中で世界を完結させるあまり、下級貴族が平民と化していたわけだが。その状況をひっくり返したお姫様だ。平民が神と仲良くしてるので、王族が見向きもされなくなったのが我慢ならない。そんな状況を作り出したわけだ」


 真白・真紅・黒紺のルールを破り。

 世界の常識を乱した。

 ユリファがやっていたのと同じ事を実行したわけです。


「そして真白貴族は自分の手下を使って、お姫様を排除しようとした。見事に、『わざと警備が薄い場所』を狙ってくれたので、楽ちんでしたわね」


 簡単な罠を仕掛けていたわけですが。

 見事にそれに引っかかってくださいました。


「まぁ、プルクラの監視があるから出来たことだけどな。しかし、生易しい嫌がらせから始まると思ったが、初手で放火とは……」


 師匠さんが少々あきれている。

 わたしも、落書きとか手紙での脅迫とか、そういうのから始まると思ってたいたのですけど、びっくりです。


「そりゃユリファも自殺しますわね……」

「いや、逆か」


 師匠さんのつぶやきにわたしとサティスは首を傾げました。

 逆?


「ユリファに対して行っていたのが、嫌がらせと脅迫だったのかもしれん。それが段々とエスカレートしていき、彼女は自殺に至った。なので、主犯の感覚がすでに底上げされている状態から始まった、と考えられる……かもしれん」

「感覚が麻痺しているわけですね。裸を見てしまったら、ぱんつ程度はどうってことない、みたいな感じでしょうか」

「そのとおりだが、例え話のチョイスが最悪だ」

「愛人がひとりいるのですから、もうひとり愛人が増えるくらいどうということはない」

「いや、それは違う……」

「パルは優しくて、すべてを許してくれるものですから。間違えて、そのあたりにいる幼女に手を出してしまった。世界中の幼女は俺を愛しているに違いない」

「やめろ。やめてくれ。やめてください」


 なにか覚えがあったのでしょうか。

 師匠さんが顔を覆って座り込んでしまいました。


「手を出したんですか、師匠?」

「出してません。でも幼女に無条件で愛されていると思い込んでいる俺がいる」

「ダメですよ、師匠。ロリコンなんて世間の敵です」

「はい」

「師匠を愛しているのはあたしだけです」

「はい。ありがとう、パル」

「おいそこの孤児。さらっと師匠さんの愛を独占しようとしましたわね」

「うへへ」

「うへへ、じゃありません。ベル姫も仲間に入れてあげなさい」

「はーい」


 反省しているのかしら、この小娘。


「はいはい、師匠さんも我慢できているので問題ないじゃないですか。魔王さまだって、人間種は大嫌いですけど、殺すのは我慢していてくださっています。同じですよ、同じ」

「魔王と同じと言われて喜ぶ人間種はいないと思うが。というか、魔王はどうして我慢なんかしてるんだ……?」

「ん~。でも魔王さまの住んでる場所の近くは人間種いませんわよ? あくまでもわたし達の支配領のみ残っているだけです。まぁ、扱いはそれぞれ違いますし牧場というパターンもありますが」

「そうか……」


 人間牧場はあまり思い出したくない光景のひとつでしょうね。


「むしろ、人間牧場は人間種の尊厳を破壊しています。それこそ、魔王さまが見たかった光景かもしれませんわ。加虐趣味の極致でしょうか」

「趣味でまとめるには酷すぎる気もするが……だからこその魔王か……」


 師匠さんの視線が、自然と魔王領側へと向く。

 もちろん、ここからでは何も見えませんし、空模様は相変わらず吹雪。冷たい空気ばかりが流れてくるので、魔王領ももしかしたらまだまだ雪が降っているのかもしれませんわね。


「魔王のことを今考えてもしょうがないな。それは勇者に任せて、俺たちは出来ることをしよう」

「どうするの?」

「とりあえず、捕らえた手先にする事と言えばひとつだ」

「なぁに?」


 サティスの質問に、師匠さんはニヤリと笑う。


「拷問だ」

「おぉ~」


 なんで嬉しそうなんですか、サティス?


「それはいいですけど、この老騎士は口を割るより死を選ぶタイプですわよ。しかも、それを名誉と思っていそうな感じですわ」


 主を守って死ねる、なんてことは騎士にとって今の時代でも名誉かもしれませんが。

 あまり褒められた文化ではありませんが、役目を全うした、と考えればそう思ってもやむなしでしょうか。

 せいぜい神さまの元で、命を無駄にするな、と叱られて欲しいところではあります。

 もっとも。

 騎士を司る神などがいたとすれば、呵々大笑で褒めてくださるかもしれませんので厄介ですわね。パラディンとかそういう存在なんでしょうか。イヤですわね。


「では、こちらの黒紺貴族から情報を聞き出すことにしましょうか。ところでどんな拷問をするんですの? わたしに出番はあるかしら?」

「あぁ、あるぞ」

「ホントですか! ふふ、楽しみですわ~!」


 師匠さんの拷問。

 さぞ、楽しいものになりそうですね。

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