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~流麗! これで調子に乗らないので彼の好感度は高い~

 ぽっちゃり少年ことリッツガンド少年が暴力を受けていた。

 それを助けたのはヴェルス姫であり、大変ご立腹であった。


「――っていう情報があっという間に広まったみたいだよ」


 夜。

 ベッドの上に座りながらサティスが報告してくださいました。ちなみにわたしは立ったまま。メイドとしては有り得ない態度ですけども、報告をする態度としても有り得ないと思います。

 いえ、別にいいんですけどね。

 その程度で怒るような魔物種ではありませんので。

 どちらかというと、魔王さまも座って報告しても怒らないタイプです。でもこっそり心の内でポイントが引かれてしまうので、ちゃんとするところはちゃんとしないと後で痛い目をみます。


「サピエンチェは残って後片付けをしていけ」

「えっ!? なんでですの!?」

「他の者の報告中に居眠りするやつがいるか、馬鹿者」

「だってアスオくん、自慢ばかりなんですもの。つまんなかったです。もっと面白い報告なら居眠りしなくて済みましたのに」

「それはそうだが」

「えぇー!?」


 アスオくんが関係ないところでショックを受けていたので面白かったです。もちろんケラケラと笑ったら魔王さまとアスオくんの両方に睨まれたので、大人しく会議部屋の後片付けをしました。

 ちなみにアビィと会議中におしゃべりを楽しんでいた時も後片付けを命じられました。

 会議という名の報告会は難しいものですね。

 なんてことを思い出しながらサティスからの報告を受ける。


「とりあえず、上手くいってるっぽい」

「分かりました。ところでサティスはそんな情報をどこからもらってくるのです?」

「メイドさんの控え部屋とか? そのあたりの廊下とか。色々と話してるのを聞き耳立ててる。あたしが入ると、シーンとしちゃうから。ちょこっと変装したりするよ」

「変装スキルですか?」


 そこまでじゃないよ、とサティスは髪を結んでるリボンをほどいた。


「ほら、これだけで印象がぜんぜん違う。師匠が言ってたけど、人間ってわりと髪型で見てるところがある、って。あたしの場合、聖骸布が目立ってるから。これをほどくだけで一瞬はバレないよ」


 まぁ、気休め程度だけど、とサティスは苦笑する。


「なるほど、分かります。ハゲていた人間種がふっさふさになっていたら誰か分かりませんものね」

「それは絶対に別人だと思う。逆じゃなくて?」

「逆じゃなくて」


 というわけで、師匠さんがハゲても愛せるかどうかで話が盛り上がりました。満場一致で愛せる、という結論に至ったわけですが、わたしもサティスも師匠さんの容姿に惚れたわけではないので無意味な会議でしたわね。

 そうそう、こういう会議なら居眠りしなくて済むのです。アスオくんも大真面目な内容ではなく、ユーモアを取り入れるべきでしたわね。


「では、明日からはより一層と注意してくださいな」

「はーい。おやすみなさい」

「おやすみなさい」


 主人用のベッドで寝るメイドにくすくすと笑ってからランタンの火を消す。真っ暗になった部屋のカーテンを少しだけ開けて、窓から外を見ました。

 真っ暗で、外は月明かりも星明りもありません。

 相変わらず分厚くて灰黒い色をした雲が空を覆っています。これは岩山の上にあるから、というよりも魔王領に近いから、と言えますね。

 そして、いつもどおりの吹雪。

 まるで空に掛かるノイズのように見えます。


「……」


 これも魔王領の影響でしょうか。

 ずっとずっと降り続けておりますので、魔法学院の結界みたいなものが無ければ致命的なほどに積もっていたかもしれませんわね。

 どう考えても大雪ですもの。

 太陽が大嫌いなわたしですので、分厚い雲や薄暗い日々は大歓迎なのですが。雨や雪が好きというわけではありません。

 いえ、情緒的には良い物だと思います。

 シトシトと雨が降る昼間にランタンの明かりで読書をしながら飲む紅茶は美味しいですし、シンシンと降る雪の中をお散歩するのはとても静かで楽しいです。

 ですが、過ぎたるは及ばざるが如し。

 雨も雪も、こう毎日続いたのであれば『情緒』ではなく〝冗長〟です。

 お、いま上手いこと言えましたわね。

 たまには知恵のサピエンチェらしく、かっこいい言葉を使いたいもの。知的なところを見せないといけませんわね。

 うふふ。

 と、サティスを起こさないように静かに笑いながら眷属に意識を飛ばす。さてさて蜘蛛ちゃん達は何かを発見できましたか?

 う~ん。

 特に変化はなさそうですね。

 まぁ、外に何かを仕掛けてユリファを自殺に導いた、なんてことは無いと思いますが。もしそんなものがあるとしたら、狙われるのはベル姫です。

 マトリチブス・ホックがいるので、みすみす自殺させることはないと思いますけど……注意するに越したことはないです。

 ベル姫が死んでしまったら師匠さんがめちゃくちゃ落ち込んでしまいますし、パルも悲しむでしょう。


「……」


 さてさて、王族相手に行動を開始してくれるでしょうか。

 秩序保持者、ピースメーカーの勇気に期待することにしましょう。

 というわけで翌日。

 周囲を煽るためにわたし達がとった行動は、これです。


「さぁリッツガンドさま、どうぞこちらに」

「ふふ、良い食べっぷりですね。もっと食べませんか?」

「あ、あはは、リッツガンドお兄さま、す、ステキですね」

「……ッス」

「そうね」


 リッツガンド少年、モテモテ大作戦です。


「ぶひゅ」


 もちろん、リッツガンド少年にはユリファ事件のことを話していますし、作戦内容も伝えております。加えて、協力してくれることを請け負っているのですが、めちゃくちゃ嬉しそうなので、なんというかガチでマジなように見えますわね。


「……なんで私がこんなことを……」


 ロンドマーヌがめちゃくちゃ嫌そうなので、わたし的にはそっちが楽しい部分がありますけども。あとフラレットもあんまり乗り気ではなさそうですね。


「こんな時間があったら杖が作りたいッス」


 あぁ、殿方云々ではなく純粋に職人的な嫌がり方でした。


「わ、私はその、男の人とあまり会話したことがなくて、その、いきなり、こんな……ひゃぁ~」


 なんかカワイイ子代表の子猫シュリアちゃんが優勝です。


「でゅふふふ」


 ちなみにこの笑い声、ぽっちゃり少年……ではなくお姫様の笑い声です。お姫様がやってはいけない笑い声を発しています。


「ほ、ホントにここまでやらないといけないんでしょうか、ヴェルス姫……あ、そんな、近づかずとも……」

「いえいえ、敵を挑発してこそ、ですわリッツガンドさま。ほらほら、遠慮なさらずハーレムを楽しんでくださいませ。今だけですので、あとで後悔しても遅いですよ」

「そ、そうは言っても……」


 後ろではマトリチブス・ホックが怖い顔をして見ていますからね。

 調子に乗って手を出したら、その手を切り落とされかねないほどの圧を感じます。


「お姫様に手を出すのは推奨されません。ですので、ここはわたしにお任せを。ほら、触ってくださいな」

「いえ」

「遠慮なさらず。まだ小さいですので、ノーカウントですわ」

「いえ」

「ほらほら、そちらが触らないのでしたらこちらからくっ付けますわよ。うりうり」

「ひぃ!?」


 やたらリッツガンド少年が悲鳴をあげるかと思ったら、後ろで師匠さんが物凄い殺気を飛ばしていました。

 あ、そっち?

 わたしじゃなくて、そっちにおびえてらっしゃる……

 というか師匠さんも少年をマジでにらみつけて大人げないですわね、まったく。頼めばいくらでも触らせてあげますのに。

 まぁ、触ってくださいって言うと師匠さんも逃げるんですけどね。

 ちなみにラークスくんも逃げます。

 まったくもって、男の子という存在は難しい。

 でもでも、触っていいですわよ、と伝えた時に嬉しそうに触ってくる殿方は、それはそれでイヤなんですけどね。触って欲しいのは事実ですけど、触って欲しくない。

 乙女心。

 これぞ乙女心ですわー!


「ほらほら、リッツガンドさま。感触を楽しんでくださいまし~」

「……」

「……」

「え、え、え?」


 リッツガンド少年の腕に絡むようにして、わたしのほぼぺったんこな胸を押し付けていると、フラレットとロンドマーヌが真っ赤になって顔を両手で顔を覆っていました。

 で、シュリアちゃんの目は彼女のメイドが覆って見えなくしていました。


「ちょっとロンドマーヌ。なんで見て下さらないんですの?」

「破廉恥ですわ……!」


 ロンドマーヌが真っ赤になって叫んでいる。


「この程度でそこまでならずとも……フラレットまでそんな大げさな」

「わ、私にはまだ早いッス!」

「え、え、え、なんですか、なんですか?」

「シュリアお嬢様は見なくて良いものです」

「え、え、え?」


 別の意味でもシュリアちゃんのメイドに嫌われてしまったようです。いえ、そんな睨みつけないでくださいまし。


「破廉恥ハレンチと。あなた方はもしや木の根っこから生まれたのですか? それとも天使が運んできたとでも信じているのかしら」

「はいはいはい! 私はお母さまとお父さまが――」

「ちょっとお姫様は黙っていてください」

「あ、はい」

「ちょっとちょっと、魔法学院の性教育はどうなってますの? やってます? ちゃんとやるようにしてください。え? メイドがするんですか? ではちゃんとしないとこの年齢で、このリアクションはおかしいですわよ」


 やはり魔法学院が狂っている。

 早くなんとかしないと。


「では、私が主催して皆さまで性教育をするというのはいかがでしょうか?」


 なにを言ってるのでしょうか、このドスケベ姫。


「講師は私が務めます。そして師匠さまは――」

「断ります」

「まだ何も言ってませんよ、師匠さま」

「断ります」

「私が講師を務めますので師匠さまといっしょに実践練習をしましょう。皆さまの見本となれる名誉を授けます」

「断ります」

「サティスちゃんもやる?」

「やるやるー」


 ドスケベ姫が真価を発揮してしまいまして、マルカ騎士が天を仰ぎました。たぶんですけど、今晩のうちにお姫様のベッドの下から本が消え去ります。

 あと荷物を持ってきたカバンの中に隠してあるのも知っています。挿絵付きのすごいヤツ。

 え?

 どうして知ってるかって?

 そりゃもう眷属で見ているからです。


「お姫様は守らねばならないでしょ? ですので、わたしがバッチリ眷属で見張っておきますので師匠さんは安心してください」

「ふむ、それなら安心できる。すまんが頼むぞプルクラ」

「おまかせを」


 という感じで師匠さんにも許可を得てますので。

 決して覗きを楽しんでいるわけではありませんことを、ここに宣言しますわー!


「姫様ぁ!」

「破廉恥ですわー!」


 最後にはマルカとロンドマーヌがキレまして、リッツガンド少年モテモテ大作戦は終了してしまったことをここにお知らせします。


「我が世の春でしたわね、リッツガンド少年」

「ハハ……一度だけでも王族や貴族の女性にモテモテになれて嬉しく思います」

「お痩せすることをオススメしますわ。あなたは優しい人間種です。きっと、痩せるとその内面が表に出て来てくれます。優しい男はモテますわよ」

「そ、そうですか? ではダイエットをしてみようかな……」


 リッツガンド少年がダイエットを始めるそうなので。

 今のうちにお腹の贅肉のぽよんぽよんを楽しんでおきましょう。

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知的っていうか痴的……それも痴女の痴…
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