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卑劣! 勇者パーティに追い出されたので盗賊ギルドで成り上がることにした!  作者: 久我拓人


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~卑劣! あやしい行商人風執事~

 貴族の館っていうのは、やはりどれだけ小さくとも遠目には分かる造りになっていた。

 それが娘を幽閉するための屋敷だとしても、見栄を張らなくてはいけないのだろう。

 お城の周囲に点在している貴族邸。

 どこか見栄を張るような、そんなデザインの建物がいくつか並んでいる。

 もちろん、下品なほどに豪華な屋敷もあるが、それは貴族ではなく豪商の家だろう。あくまで貴族とは人々の財を分け与えられて生きている存在だ。

 見栄を張ってはいいが、欲を顕示してはならない。

 あくまで美しく。

 下品にならない程度に。

 それが貴族の生き方というものだ。

 さて。

 そんな貴族邸が並ぶ中のひとつ。

 目当てであるイヒト・ジックスの持ち家の前に、俺とルーシャは堂々と立っていた。


「よし、いくぞ」

「あわわわわわわ」


 訂正。

 堂々と立っているのは俺だけでルーシャはがくがくと震えていた。

 ほんの数時間前は物乞いをしていた少女が、その日の内に貴族に会いに行くなど夢にも思ってなかったのだろう。

 そんな彼女の服装は、今では立派なメイドさんだ。

 黒を基調としたシックなメイドではあるのだが、さすがに子どもサイズなど用意しているはずもなく、どことなく安っぽさは感じる。

 まぁ、そこは庶民ということで。

 むしろ重要なのは、そこではない。

 ルーシャが、一見して少年に見えること。

 そんな少年に見えなくもない可愛い子がメイドの姿をしていること。

 つまり。

 ショタコンにとっては、これ以上ないってほどの餌なのだ。

 お姉さま達が敬愛する原典『ショータ・ローゥ』。

 絵本化や演劇化において、省略されるエピソードがある。

 主人公の少年が女装するお話だ。

 悪い王様が住むお城に、メイドとして潜入して囚われの妖精を助けるエピソード。メイドとして仕事をしながらも、お城を探索し、ついに妖精の少女を助け出すハラハラどきどきのスパイアクションのお話は何度読んでも面白い。

 もっとも――

 少年だからこそ許されている女装作戦だ。

 いや。

 更に付け加えよう。

 主人公が美少年だからこそ許されている作戦といっても過言ではないだろう。

 というわけで。

 ショタコンならば必ず反応してしまう存在が少年女装メイド。それを加味して、ルーシャを少年風メイドに仕立てあげたのだ。

 だが、安心して欲しい。

 ルーシャは正真正銘の女の子なので、メイド姿でも何の問題もない。女装ではなく、本当にメイドの姿をしているだけなのだ。

 どこにも問題はない。

 誰にも文句の言われる筋合いもない。

 完璧な女装少年風少女メイド。

 猫耳が所在なさげにピコピコと動いているが、それもまた愛らしさにつながっていた。


「完璧だな」

「な、なにがですか、ご主人様?」

「俺の作戦だ」

「さ、さくせん?」

「気にするな。いくぞ、ルーシャ」

「は、はははは、はい」


 震えっぱなしなのはちょっと可哀想な気がしないでもないが、そのおどおど感は重要だ。

 庇護欲を誘う。

 まぁ、その代わり加虐心をあおってしまうけど。

 できれば前者だけに留めてくれることを願いつつ、俺は屋敷の扉を叩いた。

 しばらく待っていると――


「はい、どちらさまでしょうか?」


 屋敷で働いているメイドがやってきた。

 もちろん約束なんてしている訳がないので、俺は慇懃に、それもまた大げさに礼をしてみせる。

 俺の後ろでルーシャも慌てて頭を下げた。


「おぉ! お初にお目にかかります。さすが格式高くありますジックス家のメイドさま。大変美しくあられる。私、驚きで思わず心が舞い上がってしまいました。どうか、失礼をお許しくださいませ」


 出てきたメイドさんに、俺は一方的にまくしたてた。

 ま、褒めておいて悪い気分になる女性はいない。たとえお世辞であろうとも、だ。

 このメイドさんにとっては、ジックス家で働くことにプライドがあるはず。

 なかなか就けるものでもないので、素晴らしい、と褒めておいて間違いないはずだ。


「は、はぁ……えっと。どういったご用件でしょうか?」

「これはまた失礼。私、メイド訪問販売業をやらせて頂いております、ピンシェルナールムと申します」

「メイド訪問販売……? ピンシェルナールム(執事)?」


 若いメイドだが、その顔が胡散臭げに歪んだ。

 まぁ、ごもっともな反応だ。


「えぇ。私のことは気軽にピンシェルとお呼びくださいませ、お美しいメイドさま。私ども、メイドに関しての扱いは一流と自負しておりますが……いやいや、やはり世界は広い。いえ、本物は素晴らしいと言えますかな。さすが一流の貴族に仕えてらっしゃるメイドだ。やはり格が違う」

「は、はぁ……あ、いえ。どうぞお引き取りください」

「いいえいいえ、ほんの少しでいいのです。お話を聞いてくれませんか? もしくは、奥様かお嬢様にお取次ぎを――」


 と、俺は彼女の手を取って銀貨を握らせた。

 盗賊的なスキルを使うまでもない。

 冒険者のような危険な旅を続けていれば、そこらのメイドさんの手を素早く握ることなど簡単だ。まさに、赤子の手を捻るようなもの、というやつだ。

 まぁ、可哀想なので絶対に捻らないけど。

 赤ちゃんの手は捻るものではなく、握ってやるものだ。

 そっと握り返してくれる感覚は、得難いものである。


「……しょ、少々お待ちを」


 お金って便利だねぇ。


「えぇ、待ちますとも。どうぞ、良い対応を期待しております」


 できればお嬢様を呼んでいただければ、それだけで俺の勝ちが決まるのだが……

 はてさて。

 勝負はどっちに転ぶか。

 ここは、光の精霊女王ラビアンさまに祈るしかない。

 もっとも――

 ラビアンさまだって、この結果を操れるわけではないが。というか、俺を見守っているのならば、是非ともパルを見守っていて欲しい。

 パルは後に勇者を助ける逸材になる予定ですよ、精霊女王さま!


「だ、だだだ、だいじょうぶで、しょ、しょうか、ごしゅじんしゃま、さま」


 俺の後ろでルーシャがそう話しかけてくるが……緊張が極限に近いのか、目に見えて分かるように震えていた。

 まるで極寒の地にいるように、歯がカチカチと鳴っている。

 まずいな。

 運を天に任せる前に対策しないといけないかもしれん。


「落ち着けルーシャ、といっても無理か。まぁ、失敗しても殺されはせん。別にルーシャをメイドとして売り込むわけではない」

「そ、そそ、そうなんですか? どう考えてもメ、めめめ、メイドですけど」


 ルーシャはスカートを持ち上げながら言う。

 エプロンドレス、というんだったかな。

 そんな姿をしているのは、どこを探してもメイドしかいないので、そう思うのは仕方がない。


「メイドはメイドでも、ルーシャを新人メイド以下として売り込む。いや、むしろ反対だな。新人メイドになれるように、こっちから頼むんだ。上手くいけばルーシャはメイドとして仕事を手に入れられる。失敗したら、何も起こらない。スゴスゴとここから立ち去るだけだ。だから何の心配もないよ」


 と、俺はルーシャの頭を撫でてやった。

 まぁ、この程度で落ち着かせてやれるとは思わないが……やらないよりはマシだろう。

 ちょっとは落ち着いてもらわないと、こっちも困るわけだし。


「し、新人メイド? え、えと、ボ、ボクはどうしたら?」

「普通にしてればいい。変に気負う必要も、かしこまる必要もない。マナーも気にするな。常識的に、普通に振る舞えばいい」

「わ、分かりましたご主人様」


 ルーシャは、息を吸って――吐いた。

 よしよし。

 少しは落ち着いたかな。

 方針を示してやるだけですぐに結果につながる精神状態にもっていける。短い言葉で、やって欲しいことを理解してくれる。

 ルーシャは『当たり』だ。

 生まれつき優秀なのか、それとも環境によって優秀にならざるを得なかったのか。

 それは分からない。

 けど。

 彼女をあのまま物乞いにしておくよりも、よっぽど良かったと思う。

 もっとも――

 まだ上手くいくとは限らないし、失敗してしまえば、物乞いに戻ってしまうだろう。

 だからこそ、運が味方をしてくれる必要もある。

 突然訪問してきた商人を名乗る男に、果たして応対してくれるだろうか?

 応対してくれるとして、それは奥様かお嬢様か――


「お待たせしました、ピンシェルさま。どうぞお入りください」


 さっきのメイドが戻ってきた。

 よし!

 第一関門は突破した。

 中に入ってしまえば、まぁ、最悪失敗したとしても、夜中に侵入した時に有利になる。

 さてさて。

 会ってくれるのは奥様か。

 はたまたショタコンお嬢様か。


「どうぞこちらへ」


 メイドさんの案内される部屋で。

 その答えを待つとしよう。

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