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~流麗! 魔法の杖in神官魔法~

 フラレットの魔法の杖。

 それをベル姫が持ちました。

 魔法使いの素質が無い者……つまり、魔力が少ない者にとっては優位に働かない物でしたが。

 本格的な魔法使い――しかも神官魔法という神の奇跡の代行者が使用すると、いったいどうなるのか。

 世界で初めて行われる実験に興味津々となってしまいますわね。


「そこまで重くはないんですね」


 フラレットの作り出した魔法の杖は持ち手部分が石で、そこから先は杖。見た目は木の枝とそう変わらないので、それを振るようなお姫様の姿は少し滑稽です。

 幼き日、冒険者に憧れた少年が木の棒を剣に見立てて遊ぶものですが。ドレス姿のお姫様ではその感じがまったくでませんので仕方がないですよね。


「姫様、お気をつけて」

「心配いりませんよ、マルカ」


 なにが起こるのか分からないのは確かですが、こちらから見ていると情けない姿ではあります。護衛騎士代表なら、そこそこ胸を張っていて欲しいのですわね。


「では、魔力を込めますね」


 いろいろと魔力操作の練習をしてきた成果なのでしょうか。ベル姫は苦も無く魔法の杖に魔力を込めたようです。

 目の前に掲げて、少し気合いを入れるような表情。


「おぉ!」


 そんな感嘆の声をベル姫があげました。


「ど、どうなったッスか!?」


 フラレットが質問する。


「魔力がスルスルと入っていきます。まるで新品のぱんつを履いた時みたいな感じですね」

「あ、あ、あ、分かるッス、その感覚あるッスよね!」


 なんでその例えで理解が深まるんでしょうか……?

 というか、貴族とか王族ってそんな質の良いぱんつを履いていますの?


「……」


 師匠さんに視線を向けると――慌てて視線をそらされてしまいました。

 ははーん。

 さてはベル姫とフラレットのぱんつを想像していましわね。

 師匠さんも、ベル姫に負けず劣らずのムッツリ。

 くくくくく。


「今度、いっしょに買いに行きましょう」

「何の話だ、プルクラ」

「殿方がプレゼントするべきですわよ」

「それは絶対に間違っている」


 そんなことありませんわよねぇ、とサティスといっしょに師匠さんをニヤニヤ見ていると、実験は次の段階に移行するようです。


「では、続けますね。魔法の杖で神官魔法を使ってみます」

「そういえば、ベル姫」

「なんですかプルクラちゃん?」

「こういう実験と称して、みだりに神官魔法を使うことは神は許していますの? あなたの場合は精霊女王ですけど。ほら、神官魔法って精霊女王の奇跡の代理、ということではありませんか。奇跡を乱発してよいものなのか、ふと疑問に思いました」

「なんにも言われませんけど……聞いてみたら答えてくれるでしょうか?」


 ベル姫はすこし空――今の状況ですと、天井を見上げるようにして何かを訴えるような表情を見せた。

 しばらく待つと、何かしら反応があったらしく視線がわたし達に戻る。


「問題ないそうです。悪事に使うと魔法を禁止するので、そのつもりでいてください。と、ラビアンさまに言われました」

「え!? い、いま精霊女王さまに声をかけてもらったッスか!?」

「はい」


 わぁ、とフラレットの瞳が輝く。そうでしょそうでしょ、と後ろでマルカたち護衛騎士がうなづいていますので、これが世間一般の正しい反応なのでしょうね。

 神や精霊女王から声を頂けること。

 勇者の関係者ということで、師匠さんもサティスも声をかけてもらえるものですから、いまいち反応が薄いので、間違えそうになります。あと大神ナーや純神アルマイネのせいかもしれません。

 わたしなんて、一言も声を聞いてません。

 まぁ、魔族なので仕方ないですけど。

 あと『光』と相性が最悪の吸血鬼なので、声をかけられたら消滅するかもしれませんので、この人生を終わりにしたい時は是非ともお願いします。

 できるだけ楽に終わらせてくださいな。


「それでは神官魔法を使います」


 ベル姫は魔法の杖を胸の高さまであげて、目を閉じました。今までとは違って杖に魔力を通しながらの魔法ですので、少し苦労しているようですが――それを感じさせない程度の早さで足元に精霊女王ラビアンの聖印が魔力の光でラインが惹かれていきます。

 今までと違って、その輝くが大きく感じる。

 というより、強すぎません!?

 なんかこう魔力というより神威を感じますけど!?


「いた、いたたたた!」


 光の精霊女王の聖印など、吸血鬼にとっては毒!

 痛い痛い痛い!


「ひぃ!」


 情けない悲鳴をあげて、わたしは師匠さんの後ろへ隠れました。マグ『常闇のヴェール』の効果を無効化するような光。いえ、まぶしいのではなく『威力』が上がっているようです。

 これはやはり、神威でしょうか。

 まるで精霊女王の本体が顕現したかのように思えました。


「――プリモ・アイディ」


 静かに唱えるベル姫。

 魔法が発動し、回復魔法の効果が発動する。

 ……まぁ、誰も怪我をしていませんので分かりやすく効果が目に見えたものではありませんけどね。

 そもそも誰に向かって魔法を使ったのでしょう?


「どうですか、師匠さま。私の愛を込めたプリモ・アイディは?」

「いえ、まぁ……はい」


 煮え切らない返事ですけど、特にこれといった効果は発生していないようですわね。


「残念です。神官魔法に愛は乗りませんか」

「師匠、そこは美味しかったと言うべきですよ」

「それはそれでどうなんだ……?」


 愛とは美味しいものという独得の感性ですけど、サティスの場合は本当に愛を『ごはん』と感じている可能性があるので、否定しきれませんわね。

 美味しいものを安全に食べられてこその愛。

 孤児ならではの感覚……というよりも、生物としての根源でしょうか。

 気持ちは分かります。


「ど、どうでしたッスか? 神官魔法に杖を使ってもらうのは初めてなので、感想を聞かせて欲しいッス」


 フラレットは勇むようにベル姫へと質問する。


「いつもどおりに使ってみましたが、魔力消費が抑えられた感覚があります。正確にどの程度、と言葉にするのは難しいですけど、魔法が楽に使えました。慣れれば、もっと素早く使えると思います」


 杖に魔力を通しながらは練習が必要そうですけど、とベル姫は言う。

 あとはいつもどおり、らしい。

 う~ん?


「本当にいつもどおりでした?」

「何か違いがありましたか、プルクラちゃん」

「わたしには、聖印の光が強くなっているように思えました。実質、痛かったです」


 師匠さんの後ろに隠れる程度には、神威を感じました。

 マグが無ければ燃えていたかもしれません。


「そうでしたか? 私にはいつもどおりでしたけど……」


 ベル姫は視線を師匠さんを始め、周囲に向ける。

 しかし、意見を述べる者はいませんでした。

 逆に皆さまの視線がわたしに突き刺さります。


「えっと……ほら、わたしって黒が似合う女ですので、光に弱いところがあるのです。それこそ太陽の下に出たら死んでしまう程度に」

「そうなんですか?」

「はい」


 嘘には真実を混ぜればいい。

 という師匠さんの教えですけども……真実のみで誤魔化すという手もあります。つまり、大事なことだけ情報を隠す、です。


「……」


 ベル姫はそれで納得してくださったフリをしてくださっていますが、マルカの視線が突き刺さったままですわね。魔族と疑われているのではなく、なにか心配されているような視線です。

 なにかしら事情があると思われたのでしょうか。

 それはそれで合っているので、訂正しなくても良いでしょう。


「ともかく、魔法の杖は有用なものですね。フラレット、これって余っていませんの? 良ければひとつ譲って欲しいのですけど。あ、もちろんお金は払いますので」

「い、いえ、ヴェルス姫さま。いくつか作った物があるッスので、それを差し上げます」


 メイド部屋へ移動するフラレットはクローゼットにしまっていた魔法の杖を取り出す。衣服を収納するはずのクローゼットに魔法の杖を保管するとは、どういう了見なのでしょうか。

 それこそ、メイドがいないからこその暴挙ですわねぇ。


「これは立派に見えますけど……」


 取り出してきた魔法の杖は、どれも綺麗な仕上がりをしていた。どうやら秘蔵の杖らしく、溝を掘るようにして装飾したような物もあります。


「どうせなら、と思って見た目にこだわった杖を作ろうとした時代が私にもあったッス。親方にバレたらどやされそうなので秘密にして欲しいところッスが……」


 なるほど。

 華美に装飾された剣など、儀礼用以外では無意味ですからね。

 どれだけ美しい剣であろうとも、武器として使用するのであれば切れ味や使い勝手こそが重要であり、見た目は関係ありません。

 それこそ宝石で装飾しようが、綺麗で華美な鞘があろうが、関係ありませんもの。

 どうやら親方は実直な性格をしているようです。

 武骨ながら真剣に製作する物に向き合う。それに惚れるのは分かりますわ。アンブレランスを作ってくださったラークスくんも似たようなものですからね。

 いつかわたしという存在もラークスくん好みに実直で実用的で夢のような身体に仕上げられてしまうのでしょうか。

 うふふふふふふふ。


「師匠、プルクラが悪いこと考えてる」

「目の前でヴェルス姫に神官魔法を使ってもらうか」

「やめてくださいまし、死んでしまいます」


 なんて後ろで話している間にも、ベル姫が魔法の杖を一本選びました。


「これがいいです」


 大きさは小さいですが、持ち手の石のところに筋を掘るようにして装飾が施されている杖をベル姫は気に入ったようです。木の枝も真っ直ぐになるように丁寧に削られており、木の枝っぽさが無くなっています。


「このデザインもフラレットがしたのでしょうか? 普段からこれを使っていれば、もう少し評価は変わったと思いますが」

「いえ……素人なので、デザインはダメダメッス。外で使うには恥ずかしくて……」

「私は好きですよ。控えめながら、ちょっと可愛くしたい。そんな感情が読み取れます。ですが、それを表に出さず武骨な枝のままを選ぶなんて、思春期ですわね」

「ひぃ!?」


 フラレットが悲鳴をあげた。

 恥ずかしい作品だと思っているものを、その真意まで読み取られてしまった、という感じでしょうか。

 可哀想に。

 真っ赤になって顔を覆っています。

 まったく、情けない。

 そんなことでは、初夜にまともに殿方のお相手をできませんわ。

 恥ずかしさは堂々と受け止めてこそ、です。


「ふふ。では、フラレットになにかお礼をしませんといけませんわね」

「あ、いえ、その、そんな」

「気にしないでください、フラレット。これは私が勝手にやるだけですので、あなたは普通に今までどおりにしてください。悪いようにはしませんわ」

「は、はぁ……?」


 さてさて。

 ひとまず師匠さんと合流できましたし、ヴェルス・パーロナという強力な後ろ盾ができました。

 調査続行。

 より深く探ることができそうですわ。

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