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~流麗! 情報には期待していませんでした~

 さて。


「それではフラレット。お覚悟なさいませ」

「な、なにをッスか……私は何をさせられるんスか……!?」


 王族と騎士。

 加えて、友人だと思ってた人物が謎の存在に変わってしまった今。

 フラレット・エンフィールドの心境は混乱の極みに加えて恐怖も感じているでしょう。

 なにより、夢見る乙女だと思っていたわたしが師匠さんとキスをしている事実は、到底受け入れられるものではありません。

 なにせ、フラレットは親方さんに憧れるウブな少女ですから。早々とちゅっちゅしてしまうような軟弱な精神性ではありません。

 プラトニックで美しく、夢見る乙女で可愛らしいのがフラレットの良いところでもあります。

 ここぞという時まで溜めて溜めて、素晴らしいシチュエーションになった時に初めてそのくちびるを許すのです。

 たぶん。

 まぁ、相手がそれを望むのかどうかは別として。


「安心なさい、フラレット。あなたに迷惑はひとつもかけません。むしろ迷惑だと思ったのならベル姫を通じてパーロナ国から正式に謝罪してもらいます。あなたを名誉ある人間種として、パーロナ国に迎え入れてくれることは間違いないでしょう」

「はい。お父さまが誠心誠意、頭を下げてくださります。王城勤めの貴族としてもらいますわ」


 破格の条件ですわね。

 これならフラレットも納得してくださるでしょう。

 と、思ったのですが。


「一国の王に頭を下げられたら、私は死ぬしか無いッス……やめてください……」


 逆に落ち込んでしまいました。

 難しいですわね。


「まぁまぁ。人間種はそう簡単に死ねませんので、ご安心くださいなフラレット」

「ひぇ」

「言い方が悪いぞ、プルクラ」


 おっと、師匠さんに怒られてしまいました。

 相変わらずカワイイ女の子の味方なんですから。知りませんよ、魔王さまの鎧の中身が美少女だったりしたら。いきなり勇者を裏切って魔王さま側へ寝返ることになってしまったら、その場で師匠さんを傀儡化して実家に連れ帰りますからね。

 まぁ、魔王サマが美少女だったらわたしもビックリですけど。

 たぶん2年くらいはベッドの中で思い出し笑いを続けてしまうと思います。


「さて、フラレット。もうお分かりだと思いますが、わたしは貴族ではありません。盗賊ギルド『ディスペクトゥス』のプルクラことルゥブルム・イノセンティアと申します。『紅き清廉潔白』の名を聞いたことあるかもしれませんが、それがわたしですわ」

「……聞いたことないッス」


 でしょうね。

 まったく名乗っていませんもの。


「え、えぇ、盗賊なんスか、プルクラ……あ、ルゥブルム……」


 少し間を置いて、ようやく実感が湧いてきたのか、フラレットはおろおろとわたしを見ました。

 そんな不安そうな顔をしないでくださいまし。


「プルクラでいいですわ。ホントの名前は別にもありますし。ちょっと名前がいっぱいあってな、です。何と呼ばれようとも、わたしを指しているのなら問題ありません」

「プルクラちゃん、他にも名前があるんですか?」


 おっと。

 後ろで聞いてたお姫様が反応してしまいました。


「古い名前ですので。あまり使っていませんので、気にしないでくださいまし」


 ベル姫は師匠さんとサティスに視線を向ける。

 ふたりが孤児ということを思い出し、その関連としてわたしも捨てられた人間ではないか、と予測したのかもしれません。

 師匠さんにもサティスにも孤児院で呼ばれていた名前がありますが、今は名乗っていません。そのようなもの、とベル姫は納得されたのかもしれませんね。

 頭の良い人というのは、こうして勘違いしてくださるので便利です。

 もっとも。

 魔王さまに与えられた名前なので秘密にしておきたい、と予想できる人間種のほうが頭がおかしいと思いますけど。

 たとえ大賢者と呼ばれる者であっても、知識にないモノは導けないのは当たり前です。


「ではフラレット。あなたに教えてもらいたいことがあります。対価はあなたの地位向上でよろしいでしょうか」

「え、えっと……なにを教えれば……あ、魔法の杖の作り方ッスか。それなら――」

「お待ちなさい。それは後で聞きますので、まずユリファ・ルツアーノについて教えてください」

「ユリファ・ルツアーノ……?」


 その名前を聞いてピンときていないらしく。

 フラレットは首を傾げました。


「自殺したとされる上級貴族の女性ですわ」

「あぁ」


 ようやく思い出したのか、フラレットはコクコクとうなづきました。


「自殺した人……ッスよね。確か、寮から飛び降りたみたいッス」

「そのユリファについて知っていることを教えてくださいな。なんでもかまいません」

「え~っと……髪の毛が長くて、綺麗な白色っていう印象だったような……それから……う~んと……それぐらいッス」


 わたしは師匠さんを見ました。

 師匠さんはわたしの目を見てうなづきました。


「ダメですわね、これ」

「ダ、ダメッスか……」

「もっとこう、自殺を疑うような状況と言いますか、自殺に繋がる原因と言いますか、そういう情報が知りたいんですの」

「はぁ」

「はぁじゃありませんことよ、フラレット。なにか思い出しなさい」

「そんなこと言われても!?」


 う~ん、と考えるフラレットですが。

 結局――


「なんにも分かんないッス……」


 という結果に終わってしまいました。


「ごめんなさいッス、プルクラ……うぅ」

「なにを泣きそうな顔をしてるんですか、フラレット。あなたは貴族であり、盗賊ではありませんわよ。どれだけ失敗しても師匠さんには叱られません」

「で、でも、私がちゃんと見てたら、プルクラの助けになったかと思うと……」


 なにやらガッツリと落ち込んでいる様子ですわね。

 そんな泣きそうになる必要なんてありませんのに。


「フラレット・エンフィールド」


 そんなフラレットを見て、ベル姫が声をかけた。


「は、はい。なんでしょうか、ヴェルス姫さま」

「落ち込む必要はありません。たとえ出会い方は『騙されていた』としても、ちゃんとお友達を続けてくれる方々です。私もサティスちゃんとは貴族として出会いましたが、その正体は盗賊で、しかも孤児でした。でも、私とサティスちゃんは友達です。王族の私と友達を続けてくださってます」

「あ……はい……」


 ちら、とこちらを見るフラレット。

 なんだそんなことを悔やんでおりましたの。


「わたしが本物の貴族ではなく盗賊ということを気にしてましたのね。地位の差など大したことないです。種族の差みたいなものですわ。安心なさい。あなたが死ぬまで友達でいると決めましたもの。たとえ世界が魔王さまの手に落ちようとも勇者サマが世界を救おうとも、あなたの魂が神のもとへ行くまで生涯を友人でいることを誓いますわ」


 もちろん、と付け加える。


「あなたが拒否した時は、友人関係を解消してもよろしくてよ。ただし、こちらからあなたを切ることは永遠にないことを約束しますわ」

「……私がどんな酷いことをしてもッスか?」

「師匠さんを寝取ってもわたしは許します。ただし、サティスとベル姫が許さないでしょうけど」

「あたしが一番だったら、まぁ、大丈夫……たぶん……」

「私は許します。師匠さまのハーレムへようこそ」

「行かないッス。あ、いえ、入らないでス」


 ちぇ~、とくちびるを尖らせるお姫様。後ろでマルカ騎士がわなわなと震えてらっしゃいますけど、その怒りが理不尽にも師匠さんに向かわないところが人格者ですわね。


「残念ですわね、師匠さん。フラれてしまいましたわ」

「いまいち理解が及ばなくて申し訳ないんだが……おまえは俺をどうしたいんだ?」

「世界一モテる男にしたいと思います」


 それになんのメリットがあるんだよ、と師匠さんは肩を落とした。

 メリットなんてあるに決まってるじゃないですか。

 師匠さんが嬉しそうにしてくださる顔が見たい。

 それだけです。

 いつか美少女な幼女ばかりに囲まれて愛されまくっている師匠さんの情けないデレデレした顔を見たいと思います。

 眷属召喚で出来るかもしれませんわね。

 いつか試しましょう。


「なんにせよ、永遠の親友ですので覚悟してくださいましフラレット。あなたがおばあちゃんになってもしつこく遊びに誘いますからね」

「分かったッス。私もヒマができたらプルクラのこと遊びに誘うッスよ」

「ありがとうございます、フラレット。誓いのキスをしましょう」

「イヤッス」

「あ~ん!」


 と、抱き付こうとしたけど逃げられてしまいました。

 残念ですわ~。

 ということで、フラレットからはユリファ事件に関しての情報は得られませんでした。

 さて。

 本番はここからですわね。

 師匠さんがフラレットに話しかけました。


「情報は手に入らなかったが。代わりに『魔法の杖』を見せてくださいますか、フラレットさま」

「あ、分かったッス。えっとエラントさまとお呼びすればいいでスか?」

「俺は平民です。『さま』は付けなくていいです」

「じゃ、じゃぁエラントさんと呼ぶッスね。ちょっと待ってください」


 フラレットは机の上に置いてある魔法の杖を取り、師匠さんに渡した。


「どうぞッス。好きなだけ見てください」

「これが魔法の杖か……使い方はどうやるんでしょうか」

「杖に魔力を通すだけッス。エラントさんは魔法が使えるッスか?」

「残念ながら使えません。ですが、試してみたくて」


 そう言って師匠さんは魔力を杖に通してみせる。と言っても、師匠さんの魔力は少ないですから、なにも変化は起きませんでした。


「ふむ。なにかこう、スルっと入っていくな。魔力糸を顕現できるかだろうか。やってみてもかまわないでしょうか」

「どうぞッス」


 師匠さんが魔法の杖を通して魔力糸を顕現させようとするが――なにも起こらない。


「どうしましたの、師匠さん?」

「上手くできない……何かしら魔法の杖の作用で魔力に変化が起きてるのか?」


 指先から魔力糸を顕現させてみる師匠さん。自由に太さや硬さが変化させられているのを確かめたあと、再び杖を通して顕現させてみるが……やっぱりできませんでした。


「サティスもやってみてくれ」

「はーい」


 師匠さんから杖を手渡されてサティスも魔力糸を顕現させようとしますが――師匠さんと同じく、上手く魔力糸を顕現できないようです。


「う~む。これで魔力糸をもっと自由に幅広く使えるようになるかと思ったが……そう上手くはいかないみたいだ」


 残念、と師匠さんは肩をすくめた。


「申し訳ないッス」

「いえいえ、フラレットさまが謝る必要はありません。まだ発展途上のアイテムでしょうから、これから盗賊でも使える杖が作れる可能性は充分にありますよ」


 期待しています、と師匠さんが言うとフラレットが嬉しそうに表情をほころばせた。


「あ、あの、エラントさん。私にはもっと軽い口調で話してくれて大丈夫ッス。そのほうが話やすいので……私の話し方もこんなッスから」

「そうですか? では、まぁ、それなりに」

「はい。よろしくッス」


 む。

 フラレットってば、杖を褒めらたり認めたりするとすぐに心を許すんですから。もうちょっと警戒心を持って頂かないと、すぐに師匠さんの魅力にメロメロになってしまいますわよ。

 気をつけてくださいまし。


「では、私も試してもいいでしょうか」


 サティスから杖を受け取るベル姫。

 盗賊組と違って、ようやく真なる魔法使いの出番です。

 もっとも。

 魔法の種類はこの学院にいるどの貴族も使うことができない神官魔法。

 果たして、魔法の杖による変化は起こるのでしょうか?

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