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~流麗! 永遠の親友になりましょう~

 ひとまず師匠さんとベル姫、そしてマトリチブス・ホックを交え、ここまでの情報を共有しました。

 と言っても、師匠さんは来たばかりなので新情報はありませんし、ベル姫と近衛騎士たちは無関係でしたので、主にこちらから現状報告となります。


「――という感じですわね」

「あたしからは何にも無いです。メイドさんと全然仲良くなれないです、ごめんなさい」


 ベル姫に気付けなかった上に情報収集もあんまりできてない。

 ということで、サティスはやはり落ち込み気味ですわね。師匠さんに抱っこしてもらったというのに、まだまだ気持ちの切り替えが出来ていないようです。


「問題ない。むしろ、この環境で他のメイドさんと仲良くなれるのは詐欺師の才能があるってことだ。サティスにそんな才能がなくて俺は嬉しいよ」


 大丈夫だいじょうぶ、と師匠さんはサティスの頭を撫でる。


「う、うらやましい……上手くいかなくても、師匠さまに頭を撫でてもらえるなんて……」


 ベル姫がわなわなと震えてらっしゃる。


「王族は褒めてもらえないんですの?」

「できて当たり前、という雰囲気があります。絵本が読めるようになった時はいっぱい褒められたのを覚えていますが……いえ、そんなことよりも師匠さまに頭を撫でられる事こそ、お父さまに褒められるよりも意味があると思うのです」

「分かります分かります。どんなに立派な王であろうとも、師匠さんに敵う者はいらっしゃらないでしょう」


 そのとおりです、と断言する王族のお姫様。

 師匠さんはわたし達の会話を聞いて苦笑していました。


「さて。ここから先の方針を命じてくださいな、師匠さん」

「ふむ」


 サティスを撫でるのをやめて、師匠さんは腕を組む。撫でられるのが終わったので、サティスはにこにこと後ろへ下がった。

 気持ちの切り替えが出来てないんじゃなくて、師匠さんに撫でられたいだけの演技だったのでは?

 ジロリ、とサティスを見ると視線をそらされました。

 それ、あんまりやると信用を失いますから注意なさい。あとでそう伝えておきましょう。


「申し訳ないのですが……まずヴェルス姫の力を使いたいと思います。かまいませんか?」

「私の力ですか? あまり重い物は持てませんが」

「そのパワーではないです」


 冗談です、とベル姫は笑う。


「『権力』のほうですね。もしくは『親の威光』でしょうか。お父さまの力で七つに光ればいいのですけど」


 親の七光り。

 両親の権力や権威が子どもにまで影響する言葉でしたっけ。


「どうして七つなの?」


 サティスがこっそりと聞いてきましたが、わたしは首を傾げる。


「さぁ、分かりませんわ。きっと、一条ずつに意味があるんじゃないでしょうか。地位、名誉、富、名声、金、権力、繁殖力、みたいな」

「最後の光はぜったいに違う」


 まぁ、無駄に子どもを作ったせいで、この魔法学院みたいな高貴なる牢獄が生まれるわけで。

 繁殖力はむしろマイナスですわね。

 むしろ性欲が弱いほど、王族にとってはプラスかもしれません。


「ヴェルス姫には、他の貴族と同じように授業に参加したりしてもらえますでしょうか。少し授業が遅れてしまいますが……」

「そうですね。一日でも早く授業を履修してパーロナ国へ帰りたかったのですが……詰め込み授業の連続では気が参ってしまいます。休日として見聞を広げるため、と考えれば問題ありませんわ」


 ありがとうございます、と師匠さんは頭を下げる。


「む。師匠さま、何度も申し上げているとおり、私だってディスペクトゥスの一員です。命令してくだされば、なんでもやりますよ。マトリチブス・ホックもメイドさん達も使い放題です。師匠さまの命令は絶対と伝えておきますので」


 マルカ騎士は少し納得していないような表情ですけど、まぁ師匠さんのことは信頼に値しているでしょうから、口を挟みませんでした。


「ふむ……マルカさん、マトリチブス・ホックに腹芸は期待できますか?」


 腹芸。

 冒険者が酔っ払ってお腹に顔を描いて踊っている姿を見たことがありますが……それとは何の関係もないです。

 えっと、物事を直接の言葉ではなく態度的な物で解決する感じでしたか。


「問題ないとは思いますが、あまり期待しないほうがいいですよ。むしろ、私たちはいないものとして扱うほうが無難です」

「他の貴族の護衛騎士と交流は持てない、と」

「合同訓練などがあればいいですが……この学院では、そんな雰囲気が無さそうで」


 身体がナマって仕方ない、とマルカ騎士は顔をしかめる。

 他の騎士たちも同じ意見なのか、肩をすくめていました。

 むしろ、護衛騎士たちが何にも訓練をしていないことに嫌悪している様子もありますわね。

 それを鑑みるに、この魔法学院に常駐している騎士たちの実力は、あまり高くない、と見積もるのが良さそうですわね。

 もっとも。

 こんなところに飛ばされた貴族の護衛騎士ですから。

 立身出世を物理的に断たれたような環境においやられた騎士が優秀なはずもありませんか。


「う~む。なんとか交流が生まれればいいが……それも厳しそうですか」


 師匠さんの言葉にマルカ騎士は肩をすくめました。

 多少は学院の文化を肌で感じているのでしょう。

 旧貴族文化は、護衛騎士すらも旧来のあり方になっているようです。


「――と、するならば……」


 その状況を聞き、師匠さんは床に視線を向けるようにうつむき加減となった。なにか思いついたようです。


「では、この学院の護衛騎士は『弱い』、と考えられますよね」


 どうやら師匠さんも同じ考えに至ったようで。


「……そうだな。大したことがない」


 マルカ騎士はうなづく。

 王族の近衛騎士としてのプライドでしょうか。それとも、武人としての本能でしょうか。

 彼我の戦力差を計れるのは重要な能力であり、それが分かるからこそ、この学院の護衛騎士にイラ立ちを覚えているのかもしれません。


「つまり、そこそこの実力があればユリファの護衛騎士を倒せてしまった、ということか」


 なるほど。


「護衛する実力がなかった、とおっしゃりたいわけですね」


 それだ、と師匠さんはうなづく。


「この学院で、もしも特定の貴族を襲撃するとなったら……恐らくサティスでも充分だろう」


 もちろんそんなことは絶対に命令しないが、と師匠さんは付け加える。


「あたしでも? できるかなぁ?」

「できると思いますわよサティス。あなたは気付いてないと思いますが、アホみたいに経験を積んでおりますので。そこらを歩いているレベル2の冒険者とは訳が違います」


 むしろ、良いハッタリになるんですのよね。

 冒険者レベル2って。

 レベルを聞いた者は過分に舐めますからね。レベル1のルーキー以上にその効果が高そうです。


「つまり、超一流でなくとも、この学院では暗殺が成功してしまう、ということでしょうか」


 ベル姫の言葉に師匠さんはうなづき、マトリチブス・ホックの騎士たちが少しばかりざわつきました。

 暗殺が成功しやすい環境。

 そんなところに自分の主人がいたとなれば、今すぐにでも帰国したい、と思うのが普通です。


「安心してください。あくまで、他の貴族の話です。マトリチブス・ホックは優秀ですよ」


 師匠さんが苦笑するように言った。


「サティス程度では突破できませんからね」

「無理むり。ルーランにも勝てないもん」


 今も廊下を護衛している新人騎士は、実力は本物ですからね。もう少し経験を積めば、マジで優秀な騎士になるでしょう。


「そういえば、新人騎士は入団したのですか?」


 気になったのでベル姫に聞いてみました。


「マトリチブス・ホックですか? 今はお城で新人訓練を行っていますよ。ルーランは新人訓練を終わらせてありますので、こっちに来てもらっています。しばらくしたら交代になるんでしたっけ」


 はい、とマルカ騎士はうなづいた。

 こういう護衛任務の経験も必要ではあるので、交代するようです。転移の巻物を使うのでしょうけど、どれだけ娘のために散財するつもりなのかしら、パーロナ国王。

 これが歴史に名を遺す、ということなのでしょうか。


「俺は少し暗殺方面について調査してみる。プルクラとサティスは引き続き、貴族たちから情報を収集してもらえるか。ヴェルス姫は他の生徒と同じように授業を受けられる準備を進めてもらえますか」


 はい、とベル姫は嬉しそうにうなづき、マトリチブス・ホックとメイドさんにいろいろと命じている。


「師匠さんはどうしますの? また学院から離れますの?」

「いや、外部の情報では解決できない問題だと分かったからなぁ。離れても意味ないだろ。

いつでも転移できるし、基本的にはここに滞在するよ」


 ベル姫が拳を握りしめてガッツポーズしています。

 そこは精霊女王に祈る場面ではないでしょうか。もしくは、運命を司る神か。神官魔法の使用を許可された王族にはまるで見えませんわよ。


「ベル姫、わたしの部屋に遊びに来ませんか?」

「あ、行きます行きます。どんな部屋か見てみたいです。馬小屋より狭いんですのよね?」

「どうして比較対象が馬なんですのよ。というか、馬小屋って比較的広いですわよ。馬って大きいですし」


 馬小屋と比べられたら大抵の庶民の家は狭くて当たり前、ですわよ。

 というわけで、わたしの部屋へ向かうことになりましたので、慌ただしく皆さまが準備をしました。早々と簡単に移動できないのも、王族の弱点かもしれませんね。


「ねぇねぇ。ベルちゃんはこの建物、全部使ってるの?」

「はい。食事も入浴もできますし、寝室もあります。ですが、ず~っとお屋敷の中にいるので、お散歩がしたくなるんですのよねぇ。なかなか許可がもらえませんが。パルちゃんがうらやましいです」

「外、寒いよ。気をつけてね」

「春だというのに、厳しい場所ですよね」


 なんて会話をしている間に護衛騎士の選出や付いてくるメイドさんの選出も終わったようなので、移動を開始します。


「そういえば、師匠さんはよくベル姫が学院にいることが分かりましたわね」

「魔法学院について調べていたら情報がまわってきた。逆にプルクラから報告が来なかったことに何か意味があるのではないか、と無駄に深読みしてしまったぐらいだ……」

「うっ」


 その件につきましては、まことに申し訳ない気分でいっぱいです。


「え、えっと、それはさておき――よくパーロナ国の王が師匠さんの帯同を許しましたね。どのような説得を?」


 誤魔化すようにそう聞くと、師匠さんがそっぽを向きました。


「……まさか」

「反対されるに決まっているので、保護者には無断で合流した」

「呆れた。どうせバレるに決まってますのに。知りませんよ?」

「もともと嫌われてるからな。ゼロはそれ以上さがらない」

「マイナスがありますよ、マイナスが。賞金首になったら、いっしょに逃げましょうね」

「そうしてくれると助かる」


 弱気な師匠さん可愛い。

 逃げる場所はもちろんわたしの実家ですので、どんな手を使ったとしても師匠さんを暗殺するのは不可能です。

 勝利確定ですわ。

 どうせならベル姫もいっしょに連れていってあげましょう。

 というか、これがあるからこそ師匠さんは無茶をやったのではないでしょうか。

 ホント。

 勇者サマが魔王さまを倒したとしても、名声は放棄しそうですわね。

 もらえるものはもらっておけば良いのに。

 さてさて。

 王族ハウスから出ますと、近衛騎士を先頭にして歩く。そこまで警戒は必要とは思えませんが、どちらかというと示威的移動になるでしょうか。

 容易に近づくな、という牽制にもなっています。


「真白貴族に群がるのですから、王族にも群がりますわよね」

「まぁ、その権威をこれから利用するんだがな」


 師匠さんといっしょに肩をすくめました。

 騎士に守られるように移動するお姫様。その後ろにわたし達と師匠さんが並び、その後ろにメイドさん達が続く。サティスはメイドさん達と混ざってますが、ひとりだけメイド服が違うので少々目立ちますね。

 移動中、あちこちから視線が届く。

 今までずっと引きこもっていた王族の姫が動いているので当たり前ですが。そんな中でわたしが混ざっているのは……もしかして気付かれていないかも?

 王族に注目するあまり、視線が届いていませんわね、これ。


「そういえば、わたしはどういう立場でいればいいのでしょうか?」


 ベル姫との関係は必ず質問されるでしょうからね。

 設定を考えておかなければ面倒なことになりそうです。


「お友達で良いのではないですか? それとも、以前に救われたことにします?」


 後ろを振り返りながら歩くベル姫。

 危ないですよ、とマルカ騎士に注意されている。


「何か案はありますか、師匠さん」

「ん~。どこかのパーティで意気投合し、友人となった。という感じで良いと思います。あまり複雑な説明は、かえって奇妙でしょう」

「では、普段どおりでかまいませんね。お友達です、プルクラちゃん」

「了解ですわ、パーロナちゃん」

「名前で読んでくださいまし。それではお父さまを呼んでいるみたいではないですか」


 国王をちゃん付けで呼ぶとどうなってしまうのか。ちょっと試したい気もしないでもないですが、たぶん普通に罪となって牢屋行きになりそうな気もします。


「ちゃん付けして許してくれる末っ子姫と付き合ってると、感覚が狂ってきますわ」

「いいんですよ、私なんて。ただ王族に生まれただけなんですから」

「そう割り切れるものではないかと思いますよ、ベル姫」


 そうかしら、と前を歩きながらベル姫は首を傾げる。


「平民と貴族が違うように、王族もまた違います。もしも魔物に生まれたら。人間種と仲良くできると思います?」

「魔物ですか。ん~、今の感覚ですと仲良くしたいと思いますけど。でも当たり前に人間を襲ってしまうんですよね」

「それこそが王族の立場ですわ。当たり前に偉そうにしている。でも、その当たり前を取り払うことができたのがベル姫じゃないですか」


 なるほど、と納得してくださいました。


「ということは、私は魔物種であっても人間と仲良しになれる才能があったわけですね」


 ベル姫は無邪気に笑う。

 周囲の騎士たちは、あまり良い顔はしていませんが。

 まぁ、当たり前ですね。

 自分の主人を滅されて当然の存在に例えるだなんて、不敬が過ぎます。


「では、もしもわたしが魔物種になったら。ベル姫はそれでもお友達でいてくださいね」

「もちろん私はお友達でいます。でも、プルクラちゃんは私のこと襲うんじゃないですか? だって魔物種なんでしょ?」

「そうですわね。では、もしも魔物種のわたしがベル姫を襲ったらお友達関係は破棄してください。遠慮なく殺してくださればいいですわ。


 ですが、と続けました。


「もしもわたしが魔物であってもあなたを襲わなかったら。その時は、永遠の友達でいましょうね」

「はい、もちろんです」


 再び振り返ってにっこり笑ってくださるベル姫。

 ふふ。

 その笑顔が嘘でも偽りでもないことを、この際ですからどこかの神に祈っておきましょうか。

 あぁ。

 とてもいい子ですね、ベル姫は。

 そう。

 いい子です。

 いい子ですので――襲ってしまいたくなりますわね。

 性的な意味で!

 もちろん、お友達関係が破棄されてしまいますので。

 我慢しますけど。

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