~卑劣! ショタとロリは紙一重~
パルを宿のエントランスに連れ込んだ際、周囲の目線とリンリーの苦言があった。
あの時は、それを利用したものだが……今回はそういう訳にはいかない。
なにせルーシャの面倒を見続けるわけにもいかないので、面倒ごとは少ない方が良い。
「宿の部屋を取ってくる。もう一度、ここで待っててくれるか」
「分かりました、お兄ちゃん」
「よし」
ぐしぐし、とルーシャの猫耳頭を撫でてから、俺は宿の中へと入る。
王都の宿屋『風の道標』は、まぁそこそこの宿のようだ。馬を預ける厩舎があることから、最低ランクではないことは確実なのだが、ジックス街の一番宿『黄金の鐘亭』に比べると少しばかりグレードは落ちる。
リンリーの親はやはり凄いのだなぁ、と納得しつつ無事に一部屋借りると、俺はすぐに外へ出た。
「ん?」
しかし、ルーシャの姿はない。
ここまでの関係だったか、と思いきや路地から彼女が顔を出した。
自主避難、というやつか。
まぁ、宿の前で堂々と待つのは危険だったのかもしれない。
彼女の見た目は、それこそ物乞いの類だ。宿の前に立っていると、宿屋の関係者から追い払われる可能性が高いので、良い判断だと言える。
「ふむ」
年齢を鑑みるにパルとそんなに変わらないと思われる。
それなりに的確な判断は出来るようだな。
なかなかどうして、酷い環境に置かれている少女というものは、世界を上手く渡っていくだけの能力を手に入れるものだ。
頼もしくもあり、悲しくもある事実だな。
無邪気に笑っていて欲しくもあるが……
「使えるな」
ひとつ考えついた方法を取ってみようじゃないか。
まぁ、失敗したら失敗で問題ない。
ダメでモトモト、というやつだな。
「ルーシャ」
「は、はい」
「まずは身なりを整える。風呂だ。公衆浴場はあるか?」
「あ、はい。案内しますね」
お風呂という存在は一家にひとつ、という訳にもなかなかいかない。お湯を沸かすのは一苦労だし、水もそうじゃぶじゃぶ使えるとは限らない。井戸から遠いとなると尚更だ。
そんな苦労を勝手に引き受けてくれるのが公衆浴場だ。
銭湯とも言うが、だいたい風呂と言ったら公衆浴場を指しても良いくらいだ。
王都ともなれば、いくつか公衆浴場はあるだろう。
ルーシャはその内のひとつに案内してくれた。
「こちらです、お兄ちゃん」
「ふむ」
「では、ボクはまた待ってますね」
「おいおい。入るのは俺じゃない。ルーシャだ」
「へ?」
マヌケな顔をしている少女を、ひょい、と腰に抱えると、公衆浴場の近くに座っていた女性に声をかける。
彼女はいわゆる三助……バスハウス・アテンダー。つまり、入浴の世話をしてくれる仕事をしている人だ。
「すまない、仕事を頼まれてくれるか」
「はいよ。旅人さんの世話かい? 残念だがあたいは下の世話をする役目じゃないから、そういったことを期待するなら色街に行ってくんな」
「いやいや、正式な仕事だ。俺じゃなくて、こいつを頼む」
「なんでい。坊やの面倒くらい見てやったらどうなんだ、旅人さんよ」
「そうしたいのだが、こいつは坊やじゃないんだ。これでも俺は紳士でね。乙女を男湯に連れ込む趣味はないんだ」
「あーん? ……おうおう、こいつはすまなかった嬢ちゃん。そういった理由ならば仕方がねぇ。あたいの仕事をやらさせてもらうよ」
というわけで、三助の女性に料金といっしょにルーシャを渡す。
彼女もまた、ひょい、とルーシャを担いで風呂へと入っていった。
「え、え~?」
と驚いているルーシャ。
目を白黒とさせている間に、彼女は風呂の中へと連れていかれた。
で、しばらく待っているとサッパリとした少女が三助の女性と共に戻ってくる。
「助かった、ありがとう」
「なに、これがあたいの仕事さ。また頼むぜ旅人さん」
「機会があれば」
と、俺は軽く手をあげてルーシャと共に風呂を後にした。
「さて、次だルーシャ」
「は、はぁ……」
「理髪師のところへ案内してくれ」
「そ、それはお兄ちゃんじゃなくて……」
「もちろんそうだ」
「え、え~……」
何がなんだか分からない。
そんな感じのルーシャに案内されて理髪師へ。
ルーシャの髪を綺麗に整えてもらった。
その際に注文はひとつ。
「男の子っぽくしてくれ」
「ふむ。心得ました」
理髪師の腕前はなかなかのもの。
ルーシャはそのままでも男の子っぽかったが……体を綺麗にして、髪をそれなりに整えてやると、まぁ美少年へと変身できたものだ。
「よし、完璧だな」
「も、もしかしてお兄ちゃんってそういう趣味が……」
「無いとは言わんが、残念ながら目的が違う」
「え~……」
なんとも複雑そうな表情を浮かべるルーシャ。
そんな、偽美少年の頭をくしゃりと撫でて、俺は次の店への案内を頼むのだった。