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卑劣! 勇者パーティに追い出されたので盗賊ギルドで成り上がることにした!  作者: 久我拓人


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~卑劣! エルフの郷に到着~

 放置されたかのような畑を越えてしらばく進むと。

 ようやくエルフの郷が見えてきた。

 ということは、向こうからも俺が確認できるということ。

 複数の気配が動くのを感じる。

 数は――三人か。

 俺は素直に足を止めて敵意がないことを示した。


「こんにちは」


 両手を開き、顔の横に示しながら少し大きめの声を出して挨拶する。

 ちょっとマヌケなポーズだが、武器を持っていないと一目で分かってもらえるので、この方法が一番手っ取り早い。


「お客さんかい?」


 近くの樹からエルフが姿を見せて質問してきた。

 高身長で爽やかな顔立ち。シルヴィースと同じような衣服を着た男性のエルフだ。誰がどう見ても美青年といった雰囲気がただよっているので、やはりエルフという存在はすごい。

 男の俺から見ても眼福と思ってしまう。

 まぁ、隣に並んだところは見られたくないけどね。

 こちらに敵意がないことを分かってくれたのか、比較的穏やかな声色。

 向こうにも敵意がないことが分かり、俺は両手をおろした。


「話が伝わっていると助かるのだが、パーロナ国の末っ子姫、ヴェルス・パーロナの斥候をしている者だ」

「あぁ、話は聞いているよ」


 良かった。

 砂漠国の女王の根回しは、しっかりと根を張ってくれているようだ。


「ハイ・エルフの使いでもあるんだろう? 確か『卑劣』を名乗る盗賊だったかな」

「うっ」


 そっちの根はあんまり張って欲しくない。

 むしろ這っているようなイメージがしているので、早々と蹴散らしたい気分だ。


「ハハハ。『卑劣』を自称するから、どんな悪鬼羅刹がやってくるかと恐々としていたのだが、意外や意外、普通の人間のようだ」

「人を騙すヤツは、大抵は『イイ人』に見えるものですよ」

「そうか。では私も注意しよう」

「お手柔らかにお願いします」


 苦笑した表情を見せておく。

 冗談の通じる相手のようで助かった。


「まぁまぁ、いきなり刺し殺したりはしないから安心してくれ」

「そう言っていただけると助かりますね」


 お互いに肩をすくめて嘆息した。

 エルフにはエルフの事情があるんだろうけど……深淵魔法の流出の件については、あんまり気にした様子はなさそうだ。すぐさま拘束されたり、問答無用で殺されたりしくて一安心。

 大事になってはいないようなので、それはそれで助かる。

 もっとも。

 その意見は目の前のエルフが持っているだけで、大多数が別の考え方をしている、ということもあるので、油断はできないが。


「パーロナ国のお姫様は後方かな? 案内してこよう」

「助かります。あと途中でシルヴィースという子に出会いました。ここまで案内してくれたので助かりました」

「おや、そうなのかい」


 エルフの顔がパッと輝く。


「あの子は久しぶりに生まれた郷の子どもでね。みんなに愛されているよ。シルヴィースが活躍したとなればみんな喜ぶ。狩人になりたいと言い出した時はみんなして、まだ早い、と止めたものだが……いやいや、立派に育っているようで嬉しい」


 ニコニコと笑うエルフ。

 どうやらシルヴィースは相当に愛されているらしい。


「俺の弟子とちょうど同じくらいの年齢でしたので、仲良くなっているみたいですよ」

「それは良かった。では、郷での君たちの案内はシルヴィースに任せたほうたいいかな。お客様の案内を任せられるなんて、もう立派な大人だ。それはそれで寂しくも感じてしまうなぁ」


 うんうん、とエルフはひとりで納得するようにうなづいている。

 過保護に育てられているわけではなく、いい感じに成長をうながされているようで、なによりだ。

 溺愛されてるようだけどね。


「では、私はお姫様の案内をしてくるよ。君は、そのお弟子さんとシルヴィースのもとに合流してくれるかな」

「分かりました。一応は周囲の探索を終えてますが、お気をつけて」

「君の言葉に感謝を送るよ。では、失礼する」


 エルフは俺に右手をあげて挨拶すると、そのままトントントンと跳ねるように走り後方へと移動していった。


「相変わらず爽やかな種族だ」


 街や村、冒険者として見かけるエルフは、他の種族とそう変わらない雰囲気と性格ではあるが。

 エルフの郷で生きる本物のエルフ族は、穏やかで人が良い。

 それは長命種だから、と言えるかもしれない。

 なにせ、老人というものはどこまでも丸くて優しいものだ。

 好々爺という言葉があるが――エルフはまさしく好々爺であり、すべての存在に対して優しかったりする。

 もっとも。

 それは敵意がない相手に対してであり、エルフの森や郷に悪影響を及ぼす相手にまで優しいわけではない。

 深淵魔法について不利益をもたらした俺の存在は……

 果たして、敵判定されているかどうか。

 微妙なところではあるが。

 いきなり刺されたりしなかったので、まぁある程度はセーフという感じかな。

 なにせ、俺は何も悪くないので。たぶん。元凶というか、大元なだけで。流出したのは俺のせいじゃないもん。たぶん。


「うぅ」


 ちょっと自信なくなってきたのでパルのところへ早く行こう。

 カワイイ弟子の前では情けない師匠ではいられないので、きっと背筋も伸びるはず。

 というわけで、エルフの走り方をマネして、トントントンと森の中を走った。

 穏やかな川が流れる音が聞こえてくる。

 どうやらパルとシルヴィースは別のエルフに出会ったらしく、話している声が聞こえた。


「あ、師匠」

「すまん、大丈夫だったか」

「うん。シルヴィースに話してもらって大丈夫だった」


 そうか、と俺はシルヴィースにお礼を言って、ふたりと話していたエルフに向き直る。

 こちらは女性のエルフのようで、超美人だった。

 眼福を通り越して目が痺れそうなほどの美人。十人の男がいたとすれば、十人が思わず見惚れてしまうであろう、背筋が冷たくなるほどの美人だ。

 やっぱりシルヴィースと同じような衣服を着ており、すらりとした手足が綺麗というか美しい。顔立ちはもう絵画のような寸分の狂いないもので金色の髪と同じ色のまつげが、ふぁっさぁ、とまばたきしている。


「あなたがシルヴィースを助けてくれた恩人ね。感謝を」


 そう言ってエルフさんが俺を抱きしめてくれる。

 まぁ、普通ならうろたえるところだが……

 安心してくれ我が弟子よ。

 高身長かつ超美人で、それなりに胸も大きなエルフだ。

 どう考えても12歳以上だろ?

 フン。

 何の反応もしないな。

 それどころか感想のひとつも湧いてこない。

 同性の老人から感謝の抱擁を受けているようなものだ。

 劣情など、もよおすわけがない。

 ザコめ。

 十人の男がいれば、十人が惚れるだって?

 残念だったな。

 この俺は規格外なのさ!


「さすが師匠です」

「おう」


 ハグが終わったあと、弟子からの称賛の言葉に俺は親指を立てて答えた。


「?」


 なんのこと、とシルヴィースとエルフさんが首を傾げ合っている。

 まぁ、それはさておき。

 先ほど俺が出会ったエルフの男性と同じことをエルフさんに伝える。こちらにも話が伝わっているようで、俺とパルはお先にどうぞと郷の中へと通してもらった。


「シルヴィース、お客様の案内をお願いね。長のもとへ連れていってあげてください」

「うん、分かった」

「いいお返事です」


 と、シルヴィースは頭を撫でてもらって嬉しそう。

 うらやましい。

 俺もシルヴィースの頭を撫でたい。

 しかし、意味もなくシルヴィースの頭を撫でれば、それはもう単なる性的なタッチになってしまうので我慢する。


「こっちだよ。お兄ちゃん、パルヴァス」


 張り切る感じでシルヴィースが案内してくれる。

 エルフの郷。

 その入口は門柱のように生えた二本の木の間を通って入る。その先には大きく畑が広がっており、穏やかな日光が降り注いでいた。

 なにより目立つのが遠くからでも見えていた大樹。その根がところどころで張り出すようになっているが、その根の太さだけでもかなりの物。なので、そんな根をくり抜くようにして、建物の代わりとして利用されていた。

 他にも大樹の枝と思われるものが横たわっているが、それも巨大な丸太みたいなもので。根と同じように、その中をくり抜いて家として使われている。


「わぁ! 絵本で見た妖精の国みたい!」


 パルの言葉は間違いではない。

 エルフ族は妖精族のひとつ、と言われている。

 ドワーフとハーフリングも妖精族と呼ばれているが、どうして妖精族と呼ばれているのかは分からない。

 耳が尖っているから、だろうか。まぁ、ハーフリングはエルフを小さくしたような姿なので、分からなくもないが……穏やかな性格のエルフに比べたらハーフリングの性格は、ちょっと正反対過ぎるというか、なんというか。

 罠があったら作動させてみないと仕方がない、という種族がエルフなわけないだろ、というごもっともな意見もあるので、まったく別種なのは確かなんだろうけどね。


「うわぁ、全部かわいい……! 師匠、あたしここに住む!」

「じゃぁここでお別れか。さみしくなるなぁ」

「え~、師匠も! 師匠もいっしょに住もうよ~ぉ~」


 子どものわがままみたいに、パルが俺の袖を引っ張るが……パルって子どもだったので、当たり前か、なんて思い直したりする。


「せっかく家を買ったのに、こっちに引っ越しするのか。というか、エルフの郷に引っ越しって許されるのか?」

「家ごと転移しましょう」

「……できそうな気がして困るな」


 家を持ちものとして認識させるにはどうしたらいいんだろうか?

 ロープで家の周囲を囲んで結んでみるか?

 まぁ、なんにせよ――


「リンリー嬢が悲しむぞ」

「あ、そっかぁ。う~ん、リンリーさんもいっしょに……」

「まぁ、いつでも来れるし。引っ越さなくても俺はいいと思うけどなぁ。というかパルは、あんな感じの可愛らしい家が気に入ったんだろ?」


 丸太をくり抜いたような家にドアと窓が付いていて、煙突からはぷかぷかと煙が出ている。

 絵本に出てくる妖精の家とそっくり。

 きっと絵本の作者がエルフの家を参考に描いたんだろう。


「パルヴァス。家の中に入っちゃったら外から見れないよ。かわいいのは外からだけで、中は普通の家だから」

「あ、そっか~。シルヴィースって賢いね」

「ふふ。パルヴァスもエルフの家を気に入ってくれてありがとう」


 パルのわがままも治まったところで、エルフの郷を歩いて行く。郷の中では畑仕事をしているエルフをちらほらと見かける程度。

 そんな彼らは俺らを見ると歓迎するように手を振ってくれた。


「あんなに暗かったのに、エルフの郷は明るくてびっくり」

「オルビス・テラム・アルボレの力だって」

「オルビス・テラム・アルボレ?」


 パルがオウム返しで聞いた。

 一発で聞き取れて覚えられるのはパルの強みだよなぁ、と思いつつ教えてやる。

 ちなみに俺はまったく覚えられていないが、意味は知っている。


「あの大樹のことだ」

「名前があるんだ。オルビス・テラム・アルボレ……長い名前で立派な樹なんだね」

「旧き言葉みたいだけど、どんな意味なのか聞いてないや。ボクは普通に『樹』って呼んでる」


 それで通じるくらいには、エルフの郷にとって当たり前なのがこの大樹ということなんだろう。

 他の樹は普通に『リンゴの木』とか『栗の木』と呼べばいいしな。


「オルビス・テラム・アルボレは他の樹を助けるために神さまの光を届けてくれる。だから、普通に明るいんだって」

「なるほど。優しいんだね、オルビス・テラム・アルボレって」


 影を作らず光を届けてくれる樹。

 どこか魔力的な力を持っていると思われるが……それも深淵魔法とかの一端なのかもしれないな。

 もしかしたら巻物――いわゆるスクロールの製作には、この大樹も関係している可能性もある。

 そりゃエルフ以外には作れないな、とは思うが。

 逆に、ここまで大きくて目立っているのだから、関係ないかも。とも思ってしまう。


「長は樹にいるよ。こっちこっち」


 シルヴィースが楽しそうに案内してくれる。

 大樹に近づくと、丸太の家の数が増えてくるが、お店のようなものは見当たらない。完全なる自給自足という感じなので、宿すら見当たらなかった。


「ねぇねぇシルヴィース。エルフの郷でお買い物はどうやってるの?」


 パルの質問にシルヴィースは答える。


「ときどき外から商人が来るよ。馬車は通れないから、背中に背負った分だけ」

「そっか~。美味しい物とか食べたいって思わない?」

「う~ん? 食べたことないから分かんないや」


 知らない物を欲しいとは思えない。

 それは仕方がないことだけど、あんまり色々と伝えてしまうとシルヴィースが外の世界へ出たくなってしまうかもしれない。

 郷のみんなに愛されていることが明白なシルヴィースをそうやって誘惑するのは、なんとなく気が引けるので、パルの背中をトントンと叩いた。

 俺の意図に気付いてくれたのかどうかは分からないが、パルは話題を変える。


「シルヴィースのお父さんとかお母さんっているの?」


 いるに決まっているが……

 残念ながら俺とパルにもお父さんとお母さんっていないからなぁ。

 そんな質問をしてしまうことを許して欲しい。


「いるよ~。パパは狩人でママもそれを手伝ってる。ボクが狩人になりたかったのも、パパがときどき狩りに連れて行ってくれたから」

「そっか~。パパって言うんだ、シルヴィース」

「う。なんか恥ずかしい」

「にひひ~」


 赤くなってるシルヴィースが可愛い。

 それをからかってニヤニヤと笑っているパルも可愛い。


「あ、長がいるのはあそこだよ。あの扉から入るの」


 シルヴィースがごまかすように指をさす。

 そこは大樹の幹。

 地面から張り出した根が、まるで階段のようになった先にある大きな扉。

 その中に、エルフの長はいる。

 というか。

 あの大樹の中も、それなりに家みたいになっていて。

 共同生活の場になっていたりするんだよな。


「おぉ~」


 大樹の中に入ると分かって瞳をキラキラさせるパル。

 そんなパルを見て、俺はシルヴィースといっしょに穏やかに笑うのだった。

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