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~卑劣! エルフが全員年上だと思ったら大間違いだ~

 大樹の枝葉から飛び出してきたエルフを受け止めたが。

 その勢いを受け止められるわけもなく、俺はエルフといっしょに枝から落ちた。


「きゃああああああ!」


 抱き留めたエルフが悲鳴をあげる。

 そりゃ着地予定の場所に人間がいたらどうしようもないし、なんなら地上へ向かって落ちていくのだから悲鳴をあげるのも無理はない。

 しかし、安心して欲しい。

 俺は盗賊であり、これくらいは予想済み。

 というか経験値がある。

 なにせ魔王城で瀕死の状態になりつつも落下死をまぬがれた経験があるのだ。

 あれに比べたらこの程度、どうということもない。


「よっ、と」


 というわけで、落下しつつも枝に魔力糸を絡ませた。そのまま落下速度を殺すように魔力糸のテンションを張りつつ、地上まで落ちていく。

 ただし、完全に勢いを殺そうとすると肩とか肘の関節が外れてしまうので、適度に速度を落とす程度にして、落下した。

 地上が近づく。

 ふかふかの苔と落ち葉の覆われた地面と言えども、そのまま足から着地したら足の骨が折れるので。

 地面に着地すると同時にエルフを抱きながらゴロゴロと転がった。


「……ふぅ」


 体の回転が止まったところで息を吐く。

 どうやら無事に着地できたようだ。

 多少の痛みは体のあちこちに感じるが――それは転んだ程度の痛み。

 骨が折れたり、裂傷を負ったりしている様子はない。


「大丈夫か」


 抱きしめていたエルフは体を縮こませるようにしていた。

 どっちかというと、俺が突然に抱きしめてしまったから、とも考えられたので、起き上がってエルフから離れる。

 そこで改めてエルフを観察した。

 薄い青緑の髪が肩口で切りそろえられていた。さらさらの髪で付いていた落ち葉がはらりと落ちる。

 大きな瞳は緑色で、俺を見てパチクリとまばたきを繰り返した。

 地面にぺたんと座り込んでおり、ようやく何が起こったのか理解したような感じ。

 身長はパルと同じくらいだろうか。簡素な布一枚をワンピース型にしたような服を着ており、太ももが露わになっている。

 しかし膝上くらいまで隠れる布のような靴下をはいており、それがブーツと一体化していた。パルの『成長するブーツ』とデザインが似ている。もしかしたら、これが大元になっているデザインなのかもしれない。

 武器は弓矢を装備していたようで、矢筒からは矢が落ちて周囲に散らばっていた。ゴロゴロと転がったが、矢も壊れた様子はないので一安心か。

 しかし――さすがエルフだ。

 超かわいい。

 美人じゃなくて、可愛い。めっちゃカワイイ。

 ウチのパルといい勝負だな。

 うん。

 肌とか真っ白で傷ひとつないので、そこだけ見たらこのエルフが勝っているかもしれない。

 でもパルも綺麗な肌をしてるんだよなぁ。

 若いから治りが早いのかもしれない。

 まぁ、傷を負うたびに俺がポーションをかけてるせいでもあるんだけど。過去の傷もそれで消えていくんだろうか? う~む。


「とりあえず、立てるか?」

「あ、は、はい」


 差し出した手をおずおずと握るエルフ。

 その特徴的な耳がピコピコと揺れた。獣耳種では良くみるけど、エルフってこんなに耳が動いたっけ? なんかカワイイな。

 エルフが手を握ると、俺はぎゅっと掴む。


「ひゃ」


 それに驚いた様子だが、掴まないと起こせないしなぁ。申し訳ないけど、強く掴んで引き起こしてあげた。

 やはり身長は低く、パルと同じくらいだ。

 年齢も見た目では10歳くらいなんだけど……エルフだ。この見た目で100歳、ということが普通にある。

 残念だ。

 これで本当に10歳だったら最高なのに。

 残念だ。

 非常に、残念だ。

 本当に残念だ。

 マジで残念だ。

 本当に10歳だったらぜったいに好きになってたのになー。でも年上だから無理だったわー、ぜったいに好きにならないわー。あー、ざんねんザンネン。


「あ、ありがとうございます」

「怪我はないか?」

「え、えっと……」


 エルフは体をあちこちチェックするように見る。バランス良く立てているし、流血している様子もない。手も腕も無事なようで一安心だ。


「問題ないみたいです」

「良かった」


 お互いに顔を合わせて、ふぅ、と息を吐く。


「師匠~、受け止めて!」

「は?」


 一息ついた、と思ったら弟子が上から降ってきた。

 なにやってんだバカ弟子!

 受け止められる前程で降りるやつがどこにいるんだ!

 とか思ったけど、受け止めないと愛すべき弟子が怪我をしてしまうので、慌てて受け止め――あ、こいつ軌道を変えやがった!? 魔力糸でブランコのようにしてやがる!


「むぐぅ!?」


 胸に飛び込んでくるんじゃなくて、顔に飛び込んできたパル。

 俺の顔面にパルの下半身がクリーンヒットした。

 効果は抜群だ。

 顔を太ももで挟まれて、俺は容赦なく後方へ倒れる。

 しあわせでした。

 ――いやいや。

 そうじゃなくて。


「おいこら、パル。わざとやったな」

「……だってあのエルフの子に師匠が優しいんだもん」

「人を助けるのは当然だろう?」

「師匠は優し過ぎるのがダメなところ」


 追放されたけど、俺は勇者パーティのメンバーなんだが?

 人間種を救うために旅を続けてきたひとりなんだが?

 むぅ。


「分かった分かった。というか、太ももから解放してくれ。いつまで俺は素晴らしい景色を見続けなければならないのか」

「師匠のおヒゲが太ももにジョリジョリ当たって、なんかクセになりそう」

「やべぇ性癖におまえまで目覚めてくれるな」

「師匠には負けますよぅ」

「是非とも勝ってくれ」

「じゃぁ脱ぎましょうか」

「何が、じゃぁ、なのか分からないが……是非!」

「えへへ~」

「あ、あのぉ……?」

「「はいっ!」」


 弟子といっしょに慌てて立ち上がる。

 しまった、ついつい太ももの感触に負けて弟子の甘い誘惑に負けてしまった。

 俺もまだまだ甘いなぁ。

 もしも魔王が幼女たちを操って俺にけしかけてきたら、一瞬で負けてしまうのではないだろうか?

 いやいや、それでなくとも夢魔の幻覚攻撃に耐えられるのだろうか。

 パルやルビー、ヴェルス姫という存在を知ってしまった今の俺は、確実に弱くなっている。

 幼女攻撃に負ける自信があった。

 イエス・ロリー、ノー・タッチの原則からちょっと外れてしまっているので。

 うぅ。

 勇者よ、俺はもうダメだ。

 やっぱ勇者パーティを追放されて正解だったのかもしれない。

 無論、追放されなかったら今ごろ全滅しているだろうけど。アスオェイローに勝ててないだろう、たぶん。


「えっと、受け止めてくださってありがとうございます。シルヴィースです」


 エルフはシルヴィースという名前らしい。


「俺はエラントです。怪我がなくてなによりだ」

「あたしはパルヴァス。師匠の弟子です」


 よろしくね~、とパルはシルヴィースと握手する。


「んぉ?」


 握手したパルは何か違和感でも覚えたらしく、シルヴィースの顔をじ~っと見る。


「え、えっと……なにか?」

「シルヴィースって、何歳?」

「ボクですか?」


 うんうん、とパルはうなづく。


「もうすぐ11歳になります」


 11!?

 ということは10歳!?

 エルフの10歳!?

 マジで!?


「あ、いっしょだ。あたしも10歳だよ」

「ホント? 同い年の子に初めて会った! うれしい!」


 シルヴィースの表情がパッと明るくなる。

 そりゃそうだろうな。

 エルフといえば長命種であり、子どもがなかなか生まれない種族である。確か、決まった時期にしか子どもを授かるチャンスがなくて、それを逃すとまた子どもが生まれない時期になるとか。

 それが男側の話だったのか女側の話だったのかは分からないが、俺たちみたいなニンゲン種と違って、好きに望んで子どもを授かれないのは厳しいなぁ、と思った。

 あと、そういうタイミングがあるのならば娼婦にもなれないのだろう。

 滅多に娼婦のエルフを見ないのはそういう理由でもあるのだが……そもそもからして、エルフの郷から出てこない種族なので、娼婦になるわけがないか。


「でもよく分かったな、パル」


 俺はエルフという種族だからと、勝手に年上だと思い込んでいた。

 しかし、実際は10歳だった。

 素晴らしい。

 素晴らしいが、『思い込み』というものが改めて怖いことを知る。

 さっきの俺、10歳だったら好きになってたわー、とか言ってなかった?

 冗談です、すいません。

 普通に浮気になるところでした、すいません。


「エルフって、みんな美人じゃないですか。でもシルヴィースは可愛いから」

「なるほど確かに」


 俺とパルはじ~っとシルヴィースを見る。


「か、かわいいですかボク……? えへへ」


 嬉しそうに照れるシルヴィース。

 かわいい。

 これはもう好きになってもいいのでは?

 神さまも許してくれると思う。

 うん。

 しかしまぁ暴論ではあるが、シルヴィースの年齢を聞いてくれたパルに感謝だ。俺が聞いてしまうと、なんか失礼な気がするからなぁ。

 年上なのを確かめるのは、エルフに対する礼儀違反になるのだろうか?

 難しいところだ。

 しかし、普通に考えてエルフの子どもに会うっていうのが珍しいことだし。

 きっとエルフの郷ではシルヴィースは溺愛されているに違いない。

 唯一の子どもだろうからなぁ。


「ところでシルヴィースはどうして飛び出してきたの?」

「――あっ! たいへん!」


 シルヴィースは何かを思い出したように空を見上げる。

 いや、正確には樹の上だろうか。

 空を覆う森の枝葉をにらむように、そちらを向いた。


「気をつけてください。魔物に追われていました」

「えっ!?」

「ボク、魔物から逃げてたんです」


 なるほど。

 だったら――


「パル、報告に走れ。シルヴィースは俺の後ろへ」

「はいっ!」

「で、でも――」


 走り去っていくパルを見送りつつ、シルヴィースに笑顔を向ける。


「なに、これでも俺はそこそこ強いので。安心して守られてくれ」


 10歳の少女だ。

 大人なら、子どもを守って当然だ!

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