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卑劣! 勇者パーティに追い出されたので盗賊ギルドで成り上がることにした!  作者: 久我拓人


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~卑劣! 夕飯ゲットだぜ~

 エルフの森は、大陸にいくつかある。

 もしかしたら魔王領にもあるかもしれないし、義の倭の国や日出ずる国とかにもあるかもしれない。

 まぁ、知らない場所にあるエルフの森はさておき。

 エルフの暮らす森は、どれもが豊かな森であり、多種多様な生き物と植物がそこにある。鬱蒼と茂る森であっても植物とはたくましく生きるものだ。

 生物なら尚更である。

 豊富な餌があるのなら、ここで暮らさないわけがない。

 もちろんそれは冬という時期でも変わらないらしく――


「うお……」


 思わずそうつぶやいてしまう位にデカい鹿がいた。

 角も立派ではあるが、そもそも体自体が大きく、俺の身長を優に越えている。大きく枝葉のように広がる角を合わせれば、ちょっとした恐怖を感じるほどだ。

 むしろ鹿ではない別の生物な気がするなぁ。

 しかし、基本的に体の大きい存在っていうのは怖い。

 それだけで相手が強いという本能が働いてしまい、思わず身がすくんでしまう。

 こればっかりは経験で補うしかないのだが……それでも想定をはるかに越えるものを見てしまったら、思わず声が出てしまった。

 俺もまだまだ甘いらしい。

 本物の『一流の盗賊』への道は、想像以上に遠いのかもしれないなぁ。

 日々これ修行なり。

 パルの集中力の無さを問題にしている場合ではないのかも。


「……」


 巨大な鹿はこちらを警戒するように見たあと、ゆっくりと方向を変えて俺たちから離れる方角へ歩いて行った。

 背中が緑色の苔で覆われているのだろうか。

 年季が入っているというか、古老のようだというか。

 狩って夕飯にしよう、という気が起きない程度には神秘的に見える。

 もっとも。

 パルが見れば、等しく『美味しそう』という感想を持たれるかもしれないが。


「ふふ」


 なんて思いつつ、ひとりで笑ってしまう。

 さてさてパルは立派に斥候の任務ができているだろうか。みんなの安全に関わるので、ちゃんとやって欲しいものだが、こういう場合はちゃんと真面目にやってくれるはず。

 余裕が出てくるとダメ、という困ったちゃん。

 そういう意味では、俺が隣にいるとダメなのかもしれん。

 親離れというか師匠離れをさせなくてはいけないのだろうか……

 う~ん。

 でもまだ成人もしていない子どもだしなぁ。さっさと師匠離れしろ、と言うのも気が引ける。最後まで面倒を見ると決めて弟子にしたんだし。

 そもそもにして、親に捨てられて孤児院に入れられたパルだ。

 そんなパルに対して、親離れをしろ、と言うのも酷が気がする。

 はてさて。

 どうしたものかねぇ。

 他の『師匠』に聞いてみたいところではあるが、残念ながら師匠と呼ばれるような人物に心当たりはない。

 セツナもシュユちゃんとは師弟関係じゃなかったしなぁ。あとシュユちゃんに聞いてみるにしても忍者の修行って超過酷みたいだったし、あんまり参考になりそうにない。

 むしろ参考にしたらダメなんじゃないだろうか。

 裸にして吊るすとか。

 ちょっと見たいけど。

 う~ん。

 難しいなぁ。

 そんな悩みを考えつつ斥候を続ける。

 先のジャイアントなゴキを倒したというか、逃げられたというか、あの動く首無し死体のおかげか、他のモンスターは襲ってきていない。

 加えて、まだまだエルフの郷へは距離があるのか、罠らしき物も見つかっていない。

 変わりに動物を見かける。

 今度はウサギがいた。

 こちらは巨大でもなんでもなく、普通の茶色いウサギだ。

 冬だというのに普通にウサギを見かけるということは、やはり植物が豊かだということだろう。

 空気はほどほどに冷たいものの、遺跡洞窟の中のような刺すような冷たさは感じない。

 ひんやりとした空気、という感じか。

 鬱蒼とした森ではあるものの、下草などは生えてきている。木漏れ日でなんとか芽を出したとしてもウサギや鹿に食べられてしまうようだ。

 それでも尚、食べられなかった草などが成長して俺の腰程度の高さがあったりするので、よっぽど豊かなのだろう。


「いや」


 もしかすると、エルフの力なのかもしれないな。

 ここまで日陰が多いのに、そこまで寒くない。神への信仰心が偏っているとも考えられるが、それ以上に深淵魔法に秘密がありそうな気がしなくもない。

 なにせ、森で生きるのがエルフという存在なのだ。

 住み心地の良い環境を作るのは当たり前であり、冬が厳しい環境となると、もっともっとエルフは外へ出てきているはず。

 そうなっていないのならば、そこに理由がある。


「まぁ、考えても分からないか」


 ウサギの可愛さを愛でてから、移動する。

 その他、以上なし。

 どんどん進んで行こう。


「ん?」


 しばらく進むと、なにやら左手側で動きを感じた。

 パルが斥候をしているあたり。

 ちょっと騒がしい気配がする。

 何かあったようだ。

 問題があれば助けを呼ぶはずだが、そのような声はない。しかし、ちょっと心配なので気配を消しつつ、様子を見に行ってみた。


「ふむ」


 どうやらパルがイノシシと出会ってしまったらしい。

 やはり鹿と同じく大きな体をしているが……以前に天罰とした差し向けられた巨大イノシシよりは小さい。

 イノシシは野生動物の中では危険な方で、人間を発見すると襲いかかってくることもある。

 突進してくる勢いと、鋭い牙で切り裂いてくるので注意が必要だ。

 また、真っ直ぐしか走ってこれない、とかいう迷信があるけど、マジで迷信なので信頼してはいけない。

 やつら、普通に曲がるからね。

 そんなイノシシにパルが襲われていた。パルからちょっかいを出した様子ではないので、一安心だけど――さてさて、ここでどう判断するのか。

 逃げるのは不可能。というか、やっちゃいけない。逃げる方向によっては大混乱を引き起こしてしまうので。

 まぁ、その際は先に声をあげておく必要がある。

 もしくは、俺の方向に逃げてくるのなら問題ないかもしれない。


「おりゃ」


 しかし、パルは戦闘を選んだようだ。

 突進してくるイノシシに投げナイフを投擲している。そこそこの巨体であるのでナイフ程度では致命傷には至らない。

 そのまま突進を続けるイノシシの攻撃をひょいと避けて、樹を利用するように姿を隠した。

 ふむふむ、上手い。

 イノシシが反転するわずかな隙を見つけて隠れた。

 しかし、イノシシも馬鹿ではない。

 パルが隠れた樹の裏側へ回り込むようにして追いかけた。しかし、パルは更にその後ろへ回り込むようにして反対側から移動。

 成長するブーツがあるから、というのを含めてもなかなか気配遮断と足音消しが上手い。

 やればできるのになぁ、なんて思いつつ見物を続ける。

 パルを本格的に見失った、とイノシシはキョロキョロしている。その後ろからパルはこっそり近づき――首のあたりに飛び込むようにしてシャイン・ダガーを突き刺した。


「ぴぎゅ」


 という短い悲鳴と共にイノシシは走り出す。それを察知してパルは素早くシャイン・ダガーを引き抜くと、イノシシの足に魔力糸を顕現させ巻き付けるようにして引っ張った。

 どしゃぁ、と地面に倒れるイノシシは少しだけバタバタと暴れて立ち上がろうとするが、すぐに動きを止めてそのまま息絶える。

 お見事。

 問題を起こすことなく、無事に倒せたようだが……さてさて、血を流したままのイノシシをどう扱うのか。そのまま放置すれば血のにおいでオオカミなどが寄ってくる可能性がある。

 さっさと立ち去るか、それとも処理をするか。

 どうする?


「師匠~、手伝って~」

「バレてたか」


 どうやら見物していたのがバレていたらしい。そして、俺を呼んだということは、それなりの処理をするつもりなのだろう。


「俺が見てるの、良く分かったな」

「好きな人の視線だもん。気付かないはずがないです」


 自信満々に答える愛すべき弟子。

 さすが『視線』に関しては強いなぁ。


「では、好きな人らしく好きな人を手伝いましょう」

「はーい」


 というわけで、魔力糸を顕現。樹の枝に引っかけ、イノシシを吊り下げて血抜きをする。ある程度の血が抜けるころにはマトリチブス・ホックの先頭が追いついてきた。

 先頭だったルーランが警戒しながら近づいてくるが、問題なしと分かると剣を鞘に納めた。


「なにをしているのです? 見せしめの処刑ですか?」


 なんでそんな物騒な考えになるんだ……?

 いや、まぁ、見せしめに見えなくもない状況だが。


「晩ごはん!」


 パルが堂々と答えてしまったので、夕飯のメニューが決定した。

 というわけで、マトリチブス・ホックの皆さんに手伝ってもらってイノシシを解体していく。



「私、こういうのダメ」


 メイドさんの中には内臓がダメな人もいた。まぁ、こればっかりは仕方がない。

 しかし、命を頂くということもあるのでイノシシを無碍に扱うわけにもいくまい。

 内臓を取ったあとは丁寧に首を落とし、祀るように祈りを捧げる。狩人の神がいるのなら、彼のもとへイノシシの魂がいけるように祈っておいた。

 その後はロープと魔力糸でくくっておいて、川へと落とす。

 しっかり洗浄しないと泥とか付いてるので解体した肉が汚くなってしまう。川に流しつつ、引っ張る形でマトリチブス・ホックにお任せしておいた。

 引っ張り続ければ、夕飯時には良い感じに洗浄されているだろう。

 そのまま俺とパルは再び斥候に戻る。幸いなことにイノシシの血や内臓が良いカモフラージュというかオトリになったのか、それ以上は厄介な相手に出会うこともなかった。


「師匠~」


 警戒しつつ移動しているとパルの声が森の中に響いた。

 何かあったのか、と思ってそちらへ向かうと、それなりに広い河原のような空間があった。


「ここ、今日の夜営場所にどうです?」

「ふむふむ。ちょうど川の流れもおだやかだし、いい場所だな」


 カーブした川のほとり。そこに石や砂利が多く集まっており、水も汲みやすい。それなりに広く開けており、空も抜けて見える。

 ここなら安全も確保できるだろう。


「マルカさんに報告してきてくれ。俺は周囲を探索しとく」

「はい」


 パルを見送り、俺は危険な生物の縄張りなどではないか、と周囲を探索しておく。ここまでおだやかな水の流れだと、動物の水飲み場の可能性は大きいからな。


「ふむ」


 多少の生物の痕跡はあるものの、クマの縄張りを示すような樹の傷もない。

 いわゆる『公共の場』みたいなもので、みんなの水場、のような感じかな。ひとり占めしようとしたら、手痛い攻撃が待っているのかもしれない。


「一晩だけ使わせてもらおう」


 ついでに適当な香草を摘んでおく。夕飯のメニューはイノシシの肉で決定しているが、なかなか野生味あふれるにおいがあるので、臭み消しは重要だ。香辛料の類をふんだんに持ってきているとは思えないので、香草は必要だろう。

 周囲の探索と香草摘みを終えて河原に戻ると、夜営の準備が始まっていた。

 さっそく夕飯の準備に取り掛かっているメイドさんに香草を渡す。

 使ってもらえるようで、なによりだ。


「師匠さま。斥候お疲れさまです」

「ヴェルス姫もお疲れさまです。何か問題はありませんか?」

「大丈夫です。大きなイノシシでびっくりしたくらいでしょうか。パルちゃんが獲ったんですよね」


 えぇ、と俺は苦笑する。


「お姫様の口にはちょっと合わないかもしれませんが」


 野性味あふれる味だろう。

 丁寧に育てられた家畜とは違うはずだ。


「ありがとうございます。ふふ、師匠さまはホントに優しいですね」

「そうでしょうか?」

「きっと、優しさを司る神さまになれますよ」


 すでにその神さまはいらっしゃるかもしれないので、横取りしてしまうことになる。

 とんでもない、と俺は首を横に振った。


「いえいえ、きっとベッドの中でも優しくしてくださるに違いありません」

「あ、そっち」

「そっちです」

「残念ながら未経験ですので、保障はできませんよ。もしかするとオオカミかもしれません」

「ふふ。乱暴なのも嫌いじゃないですよ」

「あ、はい」


 う~む。

 何を言っても肯定されそうだ。

 悪い意味で。

 ほら、メイドさん達も笑ってたりニヤニヤしたり赤面したりしてないで、否定してくださいよ!


「今晩、テントの中で楽しみに待っていますね。ヒツジのように眠って待っていますから」


 無理っす!

 パーロナ国王に殺されてしまいます!

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