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卑劣! 勇者パーティに追い出されたので盗賊ギルドで成り上がることにした!  作者: 久我拓人


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~卑劣! 優しくしないで好きになっちゃう!~

 集団転移が成功し、俺は大きく息を吐いた。

 周囲に俺たち意外の気配は無し。驚いて動き出した動物やモンスターの影も気配もない。

 目撃者はゼロ。

 一安心だ。


「お~、すごい~!」

「大きな滝ですね、素晴らしい景色です」

「……すごい迫力」

「これは見事な滝ですね!」


 ドドドドド、という激しい水音が聞こえ続けているのは、転移場所が滝のそばだから。細かい水しぶきがこっちまで飛んできそうなくらい迫力満点な場所だった。

 絶壁の崖が左右に続いており、その上から滝が落ちている。滝の先はそのまま川が続く感じとなっていた。

 かなりの絶景ではあるのだが、人の気配は皆無。

 というのも、街道があるのは崖の上側。わざわざ滝の下になど足を運ばない。

 近くの街道から移動してきても滝の上までだろう。わざわざ下まで降りてくるような人間など滅多にいない。

 四人の美少女たちだけでなく、マトリチブス・ホックもメイドさん達も滝の迫力に見惚れている。

 お城の中では絶対に見られなかった景色だし、なんなら一生見ることができない景色でもある。

 冒険者、商人、旅人。そういった仕事をしない限り、このような景色を見られるのはほとんどゼロといっても過言ではない。

 大絶景に目と耳を奪われてしまうのも無理はないだろう。


「……」


 ちなみにここが印象深かったのには理由がある。

 勇者パーティ時代、ちょっとした依頼でこの滝つぼ近くへと立ち寄ることがあった。で、このあたりで休憩することになったのだが、賢者と神官が水浴びをしたいと申し出た。らしい。俺が周囲の安全を確かめている間の話だったみたいで、すでに決定した後だった。


「水浴びを覗かないのは礼に失する」

「うむ」


 戦士のアホな意見に勇者が賛同した。


「やめとけ、殺されるぞ」


 まったくもって賢者と神官の裸に興味がない。

 俺は不満をありありと表情に出してそう告げたのだが……


「死を恐れずして、何が勇者だ」

「我もそれに従うのみ。いざ、冥府への土産」


 なにが、我、だ戦士。

 馬鹿なこと言ってるんじゃねーよ。

 あと勇者よ。

 死を恐れてくれ。精霊女王ラビアンに何と言い訳をするつもりだ。

 抗議もむなしく、ふたりの勇敢な若者は死地へとおもむいた。

 そして死んだ。


「いい度胸ですわね、アウダクスさま、ヴェラトルさま……そして、そこの小汚い盗賊」

「え? いや、俺は無関係――」

「言い訳無用!」


 というわけで、なぜか俺まで怒られました。

 この滝つぼで。

 女性がいかに清潔さに気をつけて、念入りに水浴びをしているのか。それをとうとうと語られました。

 ここで。

 ドドドドドドと永遠に聞こえる中で賢者と神官の文句を聞き続け、気が付けば滝の音が聞こえなくなり、なんかちょっと奥義っぽくね、これ、とか、あぁこれが自然に身を任せるという意味なのかぁ、とか思ってたりしたら賢者に別のことを考えているというのがバレて、連帯責任として勇者と戦士といっしょに腕立て伏せをさせられました。

 いや、あいつら前衛だから腕立てとか平気だろうけどさ。

 こっちは素早さ特化の盗賊だから、そこまで腕は鍛えているわけではないので、腕立ては苦手だったりする。あくまで勇者と戦士と比べて、だけど。

 ヘロヘロになったあと、さらにお説教を聞かされた。

 えぇ、もう。

 地獄でした。

 忘れられない勇者パーティの思い出。

 今となっては良い思い出……なわけがない。

 思い出すだけでやっぱり地獄。

 声を高らかに言いたい。

 俺は覗いていない。

 だって、賢者と神官のなんか見ても意味ないじゃん! 巨乳だし! 気持ち悪い。


「ふぅ」

「どうしたんですか、師匠?」

「ここでちょっとした戦いがあってな。それを思い出した。死闘だった」

「ほへ~」

「パルなら余裕だな」

「え、師匠が苦労した相手なのにあたしなら余裕なんですか?」

「うん」


 余裕で覗く気になれる。

 いや、しかし、勇者と戦士にパルの裸を見せたくないので、それはそれで死闘になるやもしれない。

 どうやってあのふたりを封殺しようか。

 う~む。

 今からでも捕縛スキルをマスターすべきか?


「なんか師匠が悩んでる」

「きっとここからの移動プランを練っているのですわ」

「あの滝の上へ行かないといけないんですよね。どこから移動するのでしょうか?」

「……あっち?」


 俺が無関係なことに悩んでいる間に移動する準備は整ったらしい。

 マトリチブス・ホックが周囲を前後左右に配置して、真ん中にメイドさん達、という陣形を取る。

 陣形でもないんだろうけど。

 隊列か。隊列だな。

 縦長の隊列にしてしまうと、真ん中を狙われた時にピンチになってしまう。

 なにせメイドさんだし。

 戦闘能力もゼロだが、移動能力もゼロだと思った方が良い。

 というわけで、徹底的にメイドさんを守る形になった。


「出発します!」


 先頭の合図で進み始め、ゆっくりと移動を開始した。

 まずは滝があるこの崖を上まで移動しないといけない。これには少し移動した先にある洞窟を利用する。

 もともとは遺跡だったのかもしれないが、今ではその痕跡も見当たらないくらいに崩れ去っており、中には何も残っていなかった。

 遺跡洞窟の中には折り返すような坂道があり、安全に崖を移動できる通路として利用できたのを覚えている。

 もちろん、モンスターはいるけど。

 滝を左手に見て、崖に沿うように移動していく。これならば左側から襲撃される可能性は減るので、三面を守ればいい。

 まぁだからといって左側を完全に手薄にするわけにはいかないが。


「まったいらな崖ですね」

「なんでこっち見るんだよぅ、ベルちゃん」

「いえいえ、なんでもありません」

「むぅ」


 気にすることないぞ、パル。それはとても素晴らしいことなのだから。

 しかし、だからといってヴェルス姫やルビーのなだからかな曲線が悪というわけではない。

 それ『も』とても素晴らしいことでござる。

 食料や物資、砂漠国の女王から頼まれた献上品などを乗せた荷車には空いたスペースがあり、メイドさん達が交代で乗り込んでいく。

 ちなみにヴェルス姫も乗るように勧めたのだが――


「姫様をこんな荷車に乗せるのは、ちょっと……」

「まるで『お荷物』と言っているみたいで……」


 という変な意見が出た。

 王族というのは気品も気にしないといけない、というのは分かる。そして、荷車に乗せられているお姫様が、なんかちょっと面白い、というのも分かる。

 しかし、誰も見てないからいいんじゃないの?

 なんて思ったが。


「誰も見てないから良い、で済ませた結果、姫様が大衆小説なんか読み始めたんです。どこからか手に入れてくるんですよ。ベッドに下に隠して、もう」


 メイドさんはぷんぷんと怒っている。

 ちなみにこれは総意ではなく、一部のメイドさんの意見だ。


「この子、親に厳しくしつけられたみたいで。ちょっと姫様がうらやましいのですよ。見逃してあげてください」

「ちょっと、余計なこと言わないで。もう~!」


 仲間外れとか、そういう感じではないようで安心する。

 女性同士のギスギスした雰囲気って怖いので、できればそういうのは見たくない。


「……はい、ベル。魔力の練習しましょ」

「分かりました、サチ。でもお手柔らかに」

「……うん」


 ヴェルス姫は歩くことに不満は無い様子。まぁ、今までも自由を謳歌しているのが楽しそうだったし、外を歩けるのは貴重な経験と割り切っているのかもしれない。

 それよりも今はサチと魔力の訓練に夢中のようだ。

 相手の身体に自分の魔力を送り込むことで、魔力の認識を高める……だったか。


「師匠ししょう。あたしにもやって、あれ」

「できるかなぁ」


 魔力糸の顕現などで、多少は魔力の扱いになれているつもりだが……あんな練習方法みたいなのは経験がない。

 魔法使い特有の技術なのではないだろうか。

 と思いつつ、パルと手を繋いでやってみる。


「ほっ!」


 少し気合いを入れてパルに魔力を送り込もうとするが――


「うわぁ!?」


 手を繋いでいる間に魔力糸となって溢れただけだった。どうやって相手の体内に自分の魔力を送り込むんだ?


「難しいぞ、これ。パルはできるか?」

「やってみる~。ふんっ!」


 同じようにパルもやってみるが、結果は同じ。毛糸みたいなぼふぼふな魔力糸が手の中に顕現するだけで、パルの魔力が俺の中に入ってくるようなことは無かった。


「ルビーはできる?」

「興味深いですが、やめておきます。魔法は魔法使いの領分ですから」


 ルビーはそう言って、先頭へと移動した。

 もしかしたら、魔物種……吸血鬼なので魔力が明らかに人間種と違うから、露見したくない。みたいな感じだろうか。どうにも避けているような気がした。


「……次はパルとやってみて、ベル」

「はい、先生。ところでサチは普通に私のことを呼び捨てにするんですのね」

「……そのほうがいいと思って」

「あは。私はサチのことも好きになれそうです」

「……良かった。私はベルのことも好き」

「ありがとうございます、先生」


 サチってアレだよなぁ。

 節操が無いよなぁ。

 それでいて堂々としてる。

 堂々と浮気してる。

 すごい。


「……一番はナーさまだから。他は愛人?」


 またナーさまが告げ口したようだ。

 俺は思わず空を見上げる。


「ナーさまってヒマなの?」

「……ヒマみたい。神官、私しかいないから」

「なるほど」


 神さまってヒマなんだなぁ。

 なんて思っていると、パルとヴェルス姫のゲラゲラ笑い声が聞こえた。


「あははは、あははははは! パルちゃ、パルちゃんってば! な、なんですのそれ、あはははは、や、やめてくださいまし!」

「だってだって、ぶふ、ひひひひ、あはははは! 勝手に! 勝手に出ちゃう! あははははははは! なにこれぇ!」


 なんだ、と思って見てみるとパルの手から、うにょん、と魔力糸が出てる。

 片手はヴェルス姫と繋いでいて、その反対側の指から魔力糸が飛び出しているのだが、それが出たり引っ込んだりしてる。

 どうやらヴェルス姫がパルの中に魔力を送ると、はみ出してしまうようだ。


「やめてよ、ベルちゃん、あははははは! 出たり、出たり引っ込んだりしてるぅ!」

「ウリ、ウリウリウリ、ふふ、あははははは! おもしろ、おもしろい……ふふ、あは、あはははは!」


 まぁ、楽しそうでいいけど。

 ちょっと気になるな。


「サチ、俺にもやってくれ」

「……はい」


 おっさんとは手を繋ぎたくないかな、とかちょっと思ったけど、サチは手を繋いでくれた。

 ちょっと嬉しかった。

 ありがとう、サチ。

 それだけでおじさんの心は救われる。


「……入れますね」

「おう」


 繋いだ手からサチの魔力が入ってくるのが分かった。

 しかし、それに押し出されるような感覚があり――うにょん、と俺の指からも魔力糸が出てしまった。


「あははははは! 師匠! 師匠まで! やめ、やめて、お腹いたい……! ひぎぃ!」

「苦しい、苦しいです師匠さん! あははは、ふ……あははははははは!」


 美少女ふたりに爆笑されてしまう。

 なんか恥ずかしい。

 しかし、なんとなく分かったぞ。


「魔力が通るところを管だと考えると……魔法使いじゃない俺たちの魔力を通す管みたいなのは硬いんだ。まるで余裕のない鉄の管みたいなのに魔力が入っている。だから余分な魔力が入り込むとはみ出してしまう」


 もう一度サチに魔力を送り込んでもらった。

 がんばって体内に貯め込もうとしてみるが……そんな余裕が一切なく、やっぱりうにょんと魔力がはみ出してしまう。


「俺やパルと違ってサチやヴェルス姫の魔力の管は柔らかい。伸縮性があるから魔力がはみ出さないんだと思う。もしかしたら、これが魔法使いの条件なのかもしれないな」


 持って生まれた素質みたいなものだろうか。

 初めからできているヴェルス姫と、ここ一年で魔力糸の顕現により多少は魔力を使っているパルはできていない。

 それを考えると訓練でどうにかできる要素ではなさそうだな。


「才能ってあるんだなぁ」

「……エラントさんは盗賊の才能があったのでは?」

「そう言ってもらえると嬉しい。ありがとうサチ」


 手を繋いだまま見上げてくるサチ。

 眼鏡の下でにっこりと笑う。

 まぁ。

 カワイイよなぁ。

 うん。

 しかし、あんまり褒めないで欲しい。

 ほら。

 それだけで好きになっちゃいそうなので!

 サチに浮気者だなぁ、と思ってた自分が情けないです……すいませんでした!

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