~卑劣! 何か知らないけど、えっちだった~
学園長との情報交換を終えて、集合場所のナー神殿へと向かった。
どうにも気が重いのは、エルフたちは確実に深淵魔法について言いたいことがあるような雰囲気。
まぁ、今までずっと秘匿してきたわけだし、なんならメッセージや転移の巻物ってエルフにとっては貴重な収入源だったはず。
それを無尽蔵に使えるようにしてしまった転移の腕輪や、メッセージの巻物の上位とも言える遠隔会話装置など、どう考えてもエルフが激怒する案件。
ごめんなさい、の一言で終わるわけがない。
そして、砂漠の国の女王陛下がパーロナ国の末っ子姫を同行させる理由も見えた。
「それは抑止だね」
学園長にしては酷く短い答えだった。
つまり、末っ子姫を巻き込むことにより第三者国であるはずのパーロナを当事者としてしまうこと。それによって、いさかいの分散を狙っていることがうかがえる。
「ケンカをしようと思ったら、何も知らない子どもが混ざっていた。さて盗賊クンならどうする?」
「俺に聞くのは間違いだ。子ども優先になるからな」
「さすが!」
なにが、さすが、だ。ロリコンの変態、と罵ってくれた方が良い気がする。
「貴族や王族なんてものは、そのあたり無視する気がするんだがなぁ。王族の子どもなんて、それこそ人質にピッタリだろう?」
「それをやると、エルフとパーロナ国の戦争になる。で、砂漠国は後ろから応援するだけだ。効率的な侵略だねぇ」
「うわぁ……」
「そんな砂漠国の利にならないように、と行動しないといけない。エルフは深淵魔法を秘匿するように女王に言うのが無難かな。もちろん、戦争を起こしてもいいが」
「是非とも末っ子姫を巻き込まないようにしてもらいたいものだ」
「ちなみに盗賊クンは、エルフ側に付かなくてはならない。なにせ私はハイ・エルフだからね。末っ子姫クンを人質に取るというのなら止めないよ?」
「俺、一度投獄されてるんですけど?」
「ほう。一度経験しているとなれば、二回目はたやすいな」
「冗談でもやめてください。魔王を倒す方が先だ」
「うむ。冷静に判断したまえ、勇者パーティの盗賊クン」
という会話をしてきた。
「はぁ~」
なんというか。
エルフの森に行くの、嫌になってきたなぁ。
七星護剣の情報をセツナたちに丸投げして、あとは知らん顔をしていたい。
家でパルとルビーとぬくぬくしてたい。暖炉の前で温かいホットワインでも飲んでいたいものだ。トロっと溶けたチーズをパンに乗せて食べたくなってきた。
「はぁ~」
二度目のため息。
でも、砂漠国の女王陛下が、行け、と言っていた。
行かなかったときが怖い。
というか、パーロナ国に何か仕掛けてるだろ。
末っ子姫の遠征許可など、そうそう簡単に出てたまるか。
「パーロナ王の弱みでも握ってるんだろうか」
砂漠国とパーロナ国の関係は良く分からん。
俺には政治の知識が無いからなぁ。
力関係というか、パワーバランスとでもいうのだろうか。
各国がどういった思惑で現状を維持しているのか。
そういうの、まったく知らないんだよなぁ。
魔王が出現してから人間種同士の戦争は無くなったとは聞いているけど。裏を返せば、魔王がいなくなれば戦争がまた始まってもおかしくはない、ということで。
ある種、魔王が平和を維持していることになっている。
皮肉なものだ。
それを打倒しようとしている勇者は、もしかして『別の魔王』とも言えるのではないだろうか。
それは皮肉どころではない。
歴代の勇者たちの名まで汚されてしまう。
そんなものは、悲し過ぎるだろ。
精霊女王たちを信じたいものだ。
なんて思いつつ、乗り合い馬車に揺られたり歩いたりしながらナー神殿へ到着した。
扉を開けて中に入ると、いろいろと物資が運び込まれている。
マトリチブス・ホックとメイドさん達の分を合わせると、かなりの量が必要になってくるので仕方がないところ。
運搬する荷車の数が増えていた。
買い取ったんだろうか?
お金あるんだなぁ。
まぁ、ウチにもどっさり金があるんだけどな。
金銭感覚が狂いそうだ。
パルが豪遊なんかして無駄に高級カバンとか買ってきたり、お化粧なんか始めたら嫌だなぁ。
そのままの君でいて欲しい。
ワガママかな。
でも、師匠は心配です。
「隙あり」
「無い」
横長椅子の物陰に潜んでいたパルが襲いかかってきたので、ひょい、と避ける。
「やぁ!」
その避けた先にヴェルス姫が長い棒で切りかかってきた。
もちろん、それも避ける。
「ハァ!」
「うわぁっ!?」
ふたりの攻撃を避けた後、そりゃルビーが来るよな、と予想していたけど――割りとマジな一撃だった。
アンブレランスを突き出すように横一直線の突き。
自分の身体ごと突っ込むチャージアタックといったところか。
それを横っ飛びでかろうじて避け、床をゴロゴロと転がるが――その先にはサチがいた。
「……勝った」
トン、と俺の背中にサチがジャンプして座るようにして乗る。
「ぐへ」
いや、避けられたけど、避けるとサチが地面にお尻から落ちるような感じになっちゃうので、避けるに避けられず……
甘んじて俺は背中でサチを受け止めた。
パルよりもちょっと重かったです。
ぐふっ。
「わーい、勝った!」
美少女たちはバンザイするのだった。
そして俺の上にパルとヴェルス姫も乗ってくる。
「どうですどうです、師匠?」
「連携技です。すんなりと決まりました」
確かに。
上手く避ける方向を誘導されたのは認める。
しかし――
「ルビーは卑怯じゃないのか」
かなり本気だっただろ。
いや、本気の本気でないことは確かなんだけど。昼間だし。でも、それにしては身内に向ける攻撃ではありませんでしたよ?
「卑怯は盗賊の専売ではなかったかしら。これでも盗賊ギルド・ディスペクトゥスのお色気担当、紅き清廉潔白のプルクラですわ」
「いつお色気担当になったんだ」
「結成した時です」
「おまえに与えた名前は『流麗』であって『お色気』ではない」
「では、ベル姫に譲ります」
「謹んでお受け致します」
受け取るんだ。
えぇ~。
あと、俺の前でしゃがまないで下さいます、ルビーさん?
スカートじゃないからいいんだけど、刺激的です。
黒タイツ。
いいよね。
もちろんパルの生足も良い。
うん。
「何をしているエラント殿。遊んでないでください。士気に関わります」
「なんで俺がルーランに怒られるの?」
「マルカからそう言ってこい、と言われました」
「遠まわしな私への注意ですわね」
なるほど、納得。
「ほら、ルーランも乗りなさい。捕らえた賊が自殺するのを防ぐのです」
「ハッ! では、口の中に毒を仕込んでいる可能性があります。なにか布を突っ込むべきだと具申いたしますが」
「布、布、布……パルちゃん何か持ってます?」
「ぱんつならあるよ」
「「あなた天才ね」」
ディスペクトゥスのアホ担当と成り果ててしまったルビーとヴェルス姫が感嘆の声をあげた。
お色気担当の方がまだマシだった気がする。
「そういう場合は魔力糸を使え。捕縛術の一種だ」
「なるほど。こうですか?」
パルが魔力糸を顕現させて俺の口に噛ませる。お得意のもけもけで毛糸みたいな魔力糸で、分厚さがある。噛み切ろうと思っても無理だし、捕らえた相手が魔法使いだったとしても、呪文は唱えるのを防げる。
まぁ、理想を言えば布を口の中に入れて魔力糸を噛ませるのだが。
それは黙っておこう。
本気でぱんつを突っ込まれかねない。
「よほひい」
ぱんつを口に突っ込まれなくても、美少女に背中に乗られて拘束されるのも悪くない。
うん。
俺はロリコンだがマゾではない。
うん。
違いますよ?
「ルーラン、遊ぶんだったら手伝え!」
「はい!」
慌ててルーランが去っていった。
怒られてしまったか、それはそれで申し訳ない。
というか、俺たちも手伝った方が良いのでは?
「はーい」
ようやく解放されたので、ふぅ、と息を吐き立ち上がる。
美少女三人組は荷物運びのお手伝いに行ったが、お姫様は追い返されていた。
当たり前か。
気さくな末っ子姫であろうとも、肉体労働はさせられないのだろう。
「……あの、エラントさん」
「なんだ、サチ。あぁ、勝手に集合場所にして申し訳ない。ナーさまが怒ってらっしゃるのか?」
「……違う。私も付いて行っていい?」
「エルフの森に?」
こくん、とサチがうなづく。
「ふむ。こちらとしては神官がひとりいてくれるだけで大助かりだ。是非、付いてきて欲しい」
「……ありがとう」
「何なら報酬も払う……いや、きちんと寄付をしよう」
ナー神殿を集合場所に使わせてもらったのだ。それなりに寄付をしないと天罰が下るというもの。
というわけで、サチにいくらかお金を渡しておく。
金でも良かったのだが、さすがに換金の手間を取らせるのは申し訳ないしな。
「……ありがとうございます。これらすべてナーさまへの奉仕に使わせていただき、地域に貢献することも忘れません」
「意外と普通に神官をやってるんだな、サチ」
「……一応」
一応か。
ははは、と笑っておく。
「良かったですね、サチ。これでいっしょに冒険が出来ます。で、あれば、私に教えてくださいますわよね」
「……うん。いいよ」
何か約束でもしていたんだろうか。
ヴェルス姫はサチに興奮気味に話しかけてきた。
「何を教えてもらうんですか?」
「魔力の使い方です。体の中にある魔力を意識するのが一番だと教えてもらいました」
ほうほう。
俺は魔法に関してはぜんぜんダメなので。
そういう練習というか、基礎があるのか。
「……まずは魔力を意識するところから。さっそくやってみる?」
「はい! お願いします」
お姫様は魔法使いになるつもりか。
サチに教わるということは……神官魔法?
「神官魔法を使えるんですか、ヴェルス姫」
「いえ、まだです。ですが、光の精霊女王ラビアンさまより御言葉を賜りました。もしかすると、私にも使えるのではないか、と」
あぁ~、ラビアンさまに声をかけてもらったのか。
神さまや精霊女王の声が聞こえた、というのが神官魔法の第一条件でもある。
基本的には奇跡の代理であるのが神官魔法だ。
信仰する神や精霊女王に声をかけてもらえない限り、奇跡の代行などさせてもらえるはずもない。
一応、俺もラビアンさまに聞いてみたことはある。
勇者といっしょに旅に出た頃で、回復魔法が使えるということはポーション代の節約にもなるし、戦闘でも一層と役に立てるわけで。
でもラビアンさまからの返答はノー。
理由を聞いても教えてくださいませんでした。
ちなみにパルもラビアンさまの声が聞こえているみたいだが、神官魔法はダメだったらしい。
盗賊という職業は、良くも悪くも手が汚れているから、だろうか。
盗みとか普通にやっちゃってたもんなぁ。
その点でいくと、ヴェルス姫はまったくもって汚れていない。
ピュアもピュア。ぴゅあっぴゅあ、だ。
「……ガントレット取って、手をつないで」
「はい」
ヴェルス姫はガントレットを外し、サチと手を繋ぐ。なぜか指を絡める繋ぎ方で、両手を重ねるようにして向かい合った。
う~む。
これ絶対サチの欲望が滲み出ているよなぁ。
ナーさま。
あなたの神官、俺よりもロリコンなんじゃないでしょうか。
「……エラントは黙ってて」
「呼び捨て!? しかも何も言ってないのに!?」
「ナーさまが教えてくれた。黙ってて」
「あ、はい」
ずぶずぶに甘いじゃないですか、ナーさま。
いや、別にいいんですけど。
「……じゃぁ、入れるね」
「入れる? なにを――ひゃう!?」
お姫様がびっくりしたかのように声をあげた。
「え、え、え、入ってくる……なにこれ、これが、え、サチの……?」
「……うん。今度はベルが入れてみて」
「わ、私にできるでしょうか」
「大丈夫。ゆっくり。私のが分かるのなら、自分のも分かるでしょ」
「あ……確かに分かる。あ、あ、やめてくださいましサチ。そんな奥まで」
「ふふ。はやく押し返さないとベルの奥までいっちゃうよ。ほら、コツコツって奥に当たった」
「ふにゅ……んっ、ま、まって、入ってこないで……んっ、うぅ」
えぇ。
なんでだろう。
なんでこんな、こんなにもえっちなんですか!?
え。
これ普通なの?
ナーさま!
ナーさま!?
これ、大丈夫なんですか!?
ラビアンさまでもいいです、教えて!
あなたの信徒が大神ナーの神官に、なんかちょっと、アレなことされてますよ!?
「……」
お返事がない!
どうして誰も教えてくれないんですか!?
というか俺、見ててもいいんですか!?
「あ、あ、うっ、んっ、ま、まって、はやい、はやいよぉ、サチ」
「ほら、ほら、もっとがんばってベル。ね、ね、ほら、がんばって、がんばれがんばれ」
うわぁ!
やっぱりえっちですよ!?
無料で見てていいんですか、これ!?




